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第12話 役柄とか本能とか

「こここ、このあたくしが 『ゴメンナサイ』 ですって……!?」


「本当はそうしたい、よね?」


「まっ、まさかっ……! 勝手に決めつけないで、いただけるかしらあ!?」


 至近距離でにらみあう、俺とエリザ。

 そして、俺のガイド犬のチロルと、エリザのアルフレッドも ―― 俺たちに付き合ってるのかな?

 もふもふどうしで鼻をくっつけるみたいにして、にらみあってるのが、めちゃかわいい。んでもって、笑える。

 ―― どうしよう。マジメにやりたいのに、癒されちゃうよ……!


「ふっ…… あたくしは、あたくしが悪いだなんて、1ミリも思ってなくてよ!」


「もういいから、素直になったら……?」


「あああ、あたくしの、どぉこが、素直でないと、いうのかしらあ!?」


「えっ…… 全体的に? オールグラウンドで…… って、自分でもわかってる…… よね?」


「まっまっまっ、まあっ……!」


「いや、それはさ、役柄もだいじだとは思うけど…… 俺は、せっかく知り合ったんなら、みんなで楽しく遊ぶほうがいいな」


「ちょっ、ちょっと! こんなところで、メタ発言はやめてくださる!?」


 エリザのプロ根性が、すごすぎる。


「あ、あの……」


 サクラが、小さな声でおどおどと言った。


「も、もう、いいですから…… あの、あの…… ありがとう……ございます……」


 えええ……!?

 そうかなあ……?

 うーん…… あ、そうか。

 サクラは 『悪役令嬢つき』 のヒロインコースをとってるからこそ、このグループにマッチングしたんだ。

 え…… じゃあ、やっぱりいけないの、俺のほうなのかな!?

 悪役令嬢やヒロインの役柄をこわすようなこと、いっちゃダメ……?

 いや、でもさ…… ゲームの説明書にも利用規約にも、そんなこと、書いてなかったもんね!

 俺は俺で、自由に、俺が楽しいと思うルートを進んでいいよね!?

 あれ? でも……?


 ぐるぐるまわりだした俺の思考を止めてくれたのは、エルリック王子だった。


「ふたりとも、そろそろ、やめようか」


【これ以上、長引くと、運営から注意されてしまいますよww 重なると垢バンですから、気をつけてくださいねww】


 チロルも、明らかに面白がりながら、止めてくれた。

 ―― そして。


「ご、ゴメンナサイ…… わたしが、いけないんです。はっきりしないから……」


 なぜか、サクラが謝り、エリザは 「ふんっ! わかっていれば、よろしくてよ」 と、偉そうに胸を張った。


「ふっ…… 無礼を許して差し上げますわ!」


「は、はい……! ありがとうございます!」


 サクラは、優雅に差し出されたエリザの手を両手で握って、ぺこぺこ頭をさげる…… うーん。

 これはこれで、いいのかな……?


「あの、ヴェリノさんも…… ありがとう……」


「うん、なんかすまん…… エリザは、ああいう子なんだ……」


「いえ、とんでもないです」


 そしてなぜか、俺が、エリザの代わりに謝った。

 サクラが、くすっと笑う。

 そしてエリザは、じっと手を見つめていた ――


「よし、では、採決しなおそう!」


 エルリック王子がキリッと場を仕切り直す。


 ―――こうして三度目の多数決の結果。

 俺たちは学園祭で、ポーションと焼きそばの両方を売ることになったのだった。


「では、今日はこれにて解散!」


「りょうかーい」 「じゃあ、また」 「またねっ、みんな!」


 エルリック王子のひとことで、NPC男子たちが去っていく。

 俺とエリザとサクラも、カバンを持ち、それぞれのガイド犬を抱っこして立ち上がった。


 さて。これから、どうしようかな ――

 もともと、このあとは、エリザと 『学食』 でランチする予定だった。

 でも、なんだろう。

 さっきの件のせいで、なんか、なにもなかったみたいにはできない感……!

 謝るべきか。それとも、そんな必要はないのか。そこが、問題だ。

 ―― それぞれ納得ずくの役柄に口をはさんだ俺が、ダメだったのかもしれないけど…… でも、俺はやっぱり、みんなで仲良くしたほうがいいと思うしな…… あ、でも。

 仲良くしたいんなら、俺がオトナになって、先に謝ったほうがいいか…… メタ発言だけは、俺も悪かったと思ってるし!


 ―― そしたら、きっと、エリザもわかってくれるんじゃないかな…… うん。

 きっと、そうだ…… たぶん。おそらく…… よし、決めた。


「エリザ、さっきのことなんだけど…… 「君。ヴェリノさん」


 俺が、エリザに歩み寄ろうとした、まさにそのとき。

 キリリと爽やかに声をかけてきたのは、エルリック王子だった。

 ……なにげに、キラキラエフェクトが倍増してる。


「さっきは、どうもありがとう、ヴェリノさん」


「大したこと、してないよ? エリザはもともと、いい子だし」


「そんなことはない。君が彼女に意見してくれて、とても助かったよ。なにしろ私は、王子という立場上、常に公平でなければいけないから……」


「はぁ!?」


 このとき俺の頭からは一瞬で、王子がNPCだという事実が完全に消え去った。


 ―― もとはといえば、エリザがサクラをいじめたのって、コイツの浮気が原因だよね!?

 『公平』 が聞いて呆れちゃうよ……!


「俺にはどうしても、王子が態度をハッキリさせないのが、いっちばん、悪いようにしか、見えないんだけど?」


「はは…… 耳が痛いよ」


 王子は穏やかに、苦笑いした。


「私は、本能プログラムに操られる身で、感情こころを優先させられる立場ではないからね……」


「あっそうか。NPCだったな、王子も」


「そう…… エリザを尊重したくても、本能プログラムに許されない。理解しては、くれないだろうか」


「いや…… 普通の人間なら 『本能だけのヤツはサル以下』 って言われてるところだからな、それ」


「はは…… サル…… そうだね……」


 王子よ、中身AIのくせに、そこで凹まないでほしいんだけど?

 あーでも。AIにしても、ひたすらプログラムに従わなきゃなのは、ツラかったりするのかもな……


「とにかく、君には迷惑を掛けたね…… どうだろう。お詫びの印に、ランチを御馳走させてくれないか?」


「じゃ、遠慮なく! ゴチになりますっ!」


 たぶん本能プログラムからきてる王子のお誘いに、もちろん、俺は食いついた。

 おごってもらうのは、素直に、助かるもんね!

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