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第11話 悪役令嬢に向かない子

「さて、今回は前回に続き、学園祭の屋台で売るものの相談だ。前回の会議では 『1番人気の商品を売る』 ことだった」


 エルリック王子は、すらすらと会議をリードしていく。

 けど、NPC主導の会議って…… ありなのかな?

 俺は、隣にきいてみた。


「エリザがリーダーしなくて、いいの?」 


「こういうのは王子でいいのよ」


 ふーん。そんなもんか。

 エルリック王子がエリザに視線を投げる。


「エリザ、調べてくれたんだろう?」


「ええ。もちろんでしてよ!」 


 あっ、そういうことな。

 つまり、表向きのリーダーは学園ものらしく王子がやるけど、裏ではプレイヤーが、やりたいようにできる仕組み……!


 ―― きっとエリザのことだ。

 屋台には、しゃれおつな感じの鴨のナントカとか、エスカルゴのナントカを出すんだろう。

 もしかしたら、ケーキやクッキーなんかにするのかも、しれない……

 なんにしろ、楽しそう!


「まずは、こちらをご覧になって」


 エリザは、ポシェットから大きな紙を引きずり出し (四次元ポ◯ットみたいな仕様なのだ) 、ホワイトボードに貼った。

 すかさず手伝う王子 ―― こうしてみると、とてもヒロインに浮気してるみたいには、見えないなあ…… じゃなくて、いまは会議に集中しなきゃな。


「売上と、人気商品アンケート……

2つの視点から調査しましたの」


 エリザはポシェットからダイヤモンドとルビーのついた杖を取り出すと、紙をたん、と叩いた。

 そこには、手描きっぽい数字や表が、並んでいる。


「売上のNo.1は、飲み物ポーション。そして、人気商品アンケートの1位は 『焼きそば』 ですわ!」


 人気商品アンケートのグラフの上には 『学生100人に聞きました』 の見出し。

 まさか……


「エリザ、もしかして、本当に調べたのか!?」


「当然でしてよ、ヴェリノ・ブラック! あたくしを誰だと思っていて!?」


「大将、もしくは親分!」


「んまあ……っ!」


 めちゃくちゃ嫌そうな顔をされたが 「ようは、それだけすごいってこと!」 と補足すると、その顔は真っ赤になった。


「では、ポーションと焼きそば、どちらにするかを検討しよう」


 キリッとエルリック王子が場を導くと、みんなが口々に意見を言い出した。


「ポーション!」 「焼きそば!」 「焼きそば!」 「たこやき!」 「ポーション!」 「焼きそば!」


 ―― ふーん。こういうところは、エリザの一存じゃないのか。

 というか、最近のNPCは本当に高度だなあ。全然、普通のプレイヤーとの区別がつかない。


「ぅおんっ♪」


【このゲームでしたら、男はみんなNPCですよww】


 うん、それは知ってるけどな、チロル。


「みんな、静かに」


 エルリック王子が片手をあげると、男子たちはいっせいに口をつぐんだ。


「多数決にしよう。ポーションか焼きそば、どちらかで挙手して…… エリザ、数えてくれるかい?」


「かまわなくてよ」


 やっぱり王子なだけあって、リーダーシップあるなあ……!


 ―― だが、多数決の結果は、ちょっとおかしかった。


「ポーション2人、焼きそば3人ね!」


「では、焼きそばに……」


「いや、3対3じゃないか? サクラもポーションに手ぇ上げてただろ」


 俺がツッコむと、エリザは 「あら、そうだったかしら?」 と扇で口元を隠しつつ、首をかしげた。

 もしや、これは……


「手のあげかたが、小さすぎたのではなくて?」


 キターーー!

 悪役令嬢のヒロインいじめターンだ!

 エリザ、ほんとうに真面目だなあ…… せっせとヒロインいじめればいじめるほど、断罪エンドに近くなるのに。


「では、もう1度採決しなおそう」


 エルリック王子は、キビキビと取り仕切る。


「サクラさん、しっかり挙手を頼むよ」


「は、はい……」


 サクラがうなずき、採決の結果は、3対3となった…… だが、エリザの悪役令嬢ムーヴは、まだ止まらない。


「あら! やはり、焼きそばで決まりね! おーほほほ!」


「いや、3対3だったろ!」


「あら? どなたのことかしら? 空気すぎて、見えなかったのかも……」


 エリザ…… もう、俺は見ていられない。

 だって、ルームメイトが断罪エンドを自分から引き寄せてる光景なんて…… 普通に嫌じゃん!

 しかも、じつはめっちゃ良い子なのに!


「エリザ…… もうやめてよ!」


 俺は、ついにキレた。


「エリザは、本当はそんなヤツじゃないんだっ! 俺は知ってる……!」


 サクラもエルリック王子も、ほかのイケメンNPCたちも…… 

 みんな、びっくりして俺を見てるな。

 ううう…… 熱血ムーヴ、恥ずかしい……

 だけど、エリザをひとり、悪役令嬢のままにしておくのも、違うと思うんだよね!


「エリザは、高飛車で押しつけがましいけど、本当は、めちゃくちゃ親切でいい子なんだよ! あと、ちょっと照れ屋さん」


「ちょっ、ヴェリノ……っ!?」


 エリザの顔が、みるみる赤くなる。

 いや、ほんと照れ屋さんだよね、エリザ……


「エリザは、役柄にとらわれすぎて、素直になれないんだけなんだよ……」


「ちょ、もうっ……  やめてっ! なんですの、いったい!?」


「でも、エリザ…… 本当は仲良くしたい子に、役柄だからってイジワルするのは、俺はおかしいと思う!」


「そそどらしど、そそそ、そんなっ」


 ほらみろ、図星。

 見え見えなんだから、もう諦めて普通の女の子になったほうがいいと思うんだよね、俺は。

 そう。エリザに悪役令嬢は、向かない。


「ほら、エリザ……」


 俺は優しくエリザの肩に手を置き、フィニッシュを決めた。


「サクラに 『ごめんなさい』 しよう、な?」


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