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第10話 友情コースだそうなんだが

【交遊関係・恋愛関係は、プレイヤー様の希望に合わせたコースがいくつか、あります。それらの希望をシステムのほうでマッチングさせて、グループを成立させているんですよ】


 もふもふガイド犬ことチロルが、くんくん鳴きつつ解説してくれる。


【あなたの今の希望は 『恋愛なし・友人コース』 です。つまりは、モブ友人的な立場から悪役令嬢とヒロインのイザゴザを美味しく鑑賞 「いや全然、美味しくないよそれ!」


【wwww まあ少なくとも、エリザさんは 『悪役令嬢・婚約破棄コース』 を選択しているし、あちらのピンク髪のかたが 『ヒロインコース・ライバル付き』 を選択しているのは確実ですのでww イジメようとイジメられようと、出来レースみたいなものですww】


「これ、教育に最適なゲームじゃなかったっけ……?」


【人の世に争いはつきもの、というシビアな現実をあえて教えることにより、平和の実現にはなにが必要かを己の頭で考えていただくというwwww】


「そこで草生やすなよな」


【wwwwww】


 チロルは、くぅーん、と鳴いて、しっぽをゆさゆさしてみせた。くやしいけど、かわいい。


【ともかく、後で 『ステータス画面③』 で確認してみれば、わかります。

それから 『恋愛なし』 を選択しているかたは、 NPC との接し方には気をつけてくださいね。 『好意値』 が一定ラインを超えると、勝手に甘々なセリフを吐いてきたり、壁ドンしてきたりしますからww】


「ええ? それって 『恋愛なし』 の意味!」


【だから、好意値が上がりにくい設定にはなっていますww ただし、それでも恋愛関係になってしまった場合、当方はいっさい責任を負いませんのでご注意ください】


「そういうことか! なら、大丈夫かな」


「 ―― で、こちらがジョナス。王子の腰巾着よ…… って、聞いているのかしら、ヴェリノ!?」


 俺とチロルが、こそこそ話してるあいだにも……

 それぞれにキラキラのイケメンエフェクトを振りまくメンバーたちを、エリザは次々と紹介していく。


 正当派イケメンっぽい王子がエルリック。

 長いネイビーブルーの髪を束ねた、もの柔らかな感じの眼鏡が、ジョナス。

 小柄で活発そうな、鳶色の髪の子がミシェル。10歳以下に見えるが、俺と同じ15歳だという。

 で、日本人をイメージしたっぽい顔立ちの男子が、イヅナ。名前も日本人っぽいな。


「よろしく、ヴェリノさん」 「ああ、よろしくな!」


 俺たちは、次々と握手を交わした。


 NPCと握手……というのも、変な体験だと思うが、けっこう普通に握手できてしまった。

 彼ら、生きてるのか……?

 思わず、じっと手を見る俺である。


「ぅおんっ!」


 珍しく、チロルが鳴いた。


【今ので、好意値が上がりましたよwww】


「……ぉい。前言は? 好意値上がりにくいって」


【だってww  握手した手を、じっと見たりしたらwwww】


「それだけで上がるって、ぜったい、おかしいよ!」


【いえいえ、全然…… それに好意値がないと友情値も上がりにくいですよ? せっかくゲームやってて友だちできないのも、人としてツラくないですか?wwww】


「うう…… たしかに」


【難しいこと考えずに、いまを楽しむことをオススメします。ほら、さっそくww】


 イヅナ (緑色の髪のスポーツマンタイプ) が、ははっ、といかにも爽やかな笑い声をあげた。


「そんな仕草が意外で可愛いな!」


 チャラい発言だが、なんかサラッとしてて…… 爽やかに決まってる。

 リアルの俺も、こんな感じになりたいな。爽やかイケメン!


「やめなさい。ひいていますよ」 と、イヅナをたしなめるのが、ジョナス。お堅そうな常識人タイプなんだろうな。


「そうですよっ!」 と俺の腕にしがみつくのは、ミシェルだ。これはわかりやすい。年下枠というやつだな!


「ヴェリノさん、気にしないでねっ」


「うん、ありがとう」


 あー…… たしかに…… かわいいじゃないか。いや、恋愛的な意味じゃなくて、弟みたいな感じで!


 あんまり好意値が上がりすぎて壁ドンとかになるのは避けたいけど…… ま、普通にしてたら大丈夫かな。


「さあ、では企画会議スタート!」


 エリザがパンパン、と手を叩いて注意を促してきた。


「今回の議題は……」


「「ちょっと待……」」 同時に待ったをかけたのは、俺とエルリックだ。


 お互いに顔を見合わせて……

「お先にどうぞ」

 ふわりと微笑む、エルリック王子。


 ……ううっ…… なんか……品が良くて、でも男らしい。

 こういう感じに…… は、リアルの俺はなりたくても、なれないな。キャラが違うっていうか。

 でも、嫌いじゃない。仲良くなれるといいな! (あくまで友情で)


 とまあ、それはともかく。

 俺が気になったのは、エリザからは 『ヒロイン』 としか紹介されてないピンク髪の子だ。

 会議をはじめるなら、声かけてあげないと、じゃないかな?


「えっと、あっちの 『ヒロイン』 さんは? 同じグループだろ? 呼んであげたほうがいいんじゃないの? こっち見てるし」


「ふん……っ」


 エリザはまたしても、扇で口元を覆った。


「あたくしには、興味ない子だわ! あなた誘いたいの? だったら、あなたが行ってみたら、良いんじゃなくて? あたくしは知らなくてよ!」


 おお…… つまり、すでに 『ヒロインいじめ』 は始まっている、と。

 しかし。俺に 『行ってみたら』 と言うあたりで人の良さが、にじみ出ちゃってるね!

 『いじめ』 というりは、むしろ 『ツンデレ』 だね!

 扇で口元隠してるのは 「あっ、言ってくれる子いて良かった……」 って、ほっとしたのを見せないためのカモフラージュなんじゃないか?

 ―― ほんと、面白い子だなぁ、エリザ!


 よしよし、そのツンデレ、俺がばっちり手を貸してあげるよ!


「オッケー。じゃ、行ってくるな!」


 俺はさっそく、ヒロインさんに 「おーい」 と手を振った。


「俺たちと一緒に会議するぞ

『ヒロイン』 さん!」


「え……!?」


 あおい瞳が、びっくりしたみたいに、こっちを見た。昨日見た、海の色に似てるなー。いかにも 『ヒロイン』 ぽい、かわいい感じ。

 片手に抱っこされてるのはガイド犬かな? クリクリとカールした毛が、これまた雰囲気にあってる…… トイプードルだったっけな、たしか。


 俺は 『ヒロイン』 さんの前まで行った。

 自己紹介して、握手してみよう…… 俺から手を差し出してみるの、ありかな? うわ…… 緊張する…… よし、やってみよう!


「俺、ヴェリノ・ブラック! よろしくな!」


「わたし……サクラ・C・R。よろしく」


 俺の手に、サクラの手がそっと触れた。

 おおおお…… なんか、感動!


「みんな! サクラも入って、いいよな!?」


「もちろんだよっ」 「当然じゃん、なあ!?」 「サクラ、こっちにおいで」 「殿下がよろしいのであれば、私は、なにも」


 NPCたちがうなずき、エリザは、つん、とそっぽを向いた。


「あーら、みなさま、お優しいこと! 勝手になさったら? あたくしは、知らなくてよ!」


 いや、いちばん優しいの、実はエリザなんじゃないかなー?


 ―― こうして。

 エリザと俺とサクラ、それにNPCイケメン軍団な4人。

 この7人で、学園祭の企画をすることになったのだった。


「では、これから、企画会議を始める!」


 正統派イケメンことエルリック王子が凛々しい声で宣言。

 俺にとっては初めての企画会議が、いま、始まる ―― ! (ヒーローアニメふう)

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