「ついたわ!」 「きゅーん……」
「おー…… これが、ルーンブルク学園か……」
「くぅーん」
4月27日の月曜日 ――
エリザとアルフレッド (エリザのガイド犬・パピヨン種) と、俺とチロルとは、立派な白い建物を見上げていた。
現実世界の地下のマンション3つぶんくらいは、余裕でありそうな大きさだ。
『学校』 と名付けられた、こんな大きな建物、初めて見るなあ……
なにしろ、現実の学校は全部リモート授業なもので。
「くぅぅぅっ! すでに感動!」
「感動がチョロすぎてよ! 早く行きましょ」
エリザが偉そうに、
たまたま同じ時刻にログインしたおかげで、ここまで案内してもらえてラッキーだった。
そう。いよいよ俺は、今日。
このVRゲーム 『マジカル・ブリリアント・ファンタジー』 で、学園生活をスタートさせるのだ……!
ゲームの説明書によると、学園に用意してあるのは 『授業』 と 『企画』 ―― 『授業』 は、みんなで各種のミニゲームを楽しみ、 『企画』 は学園祭などのイベントをみんなで計画する。
どっちも面白そうで、迷うなー!
「まずは授業をみてみよっかな。何をやってるんだろう?」
「授業は、教室によって違うのですわ!」
何本もの立派な柱に支えられた高い天井の下を歩きつつ、エリザが教えてくれたところによると。
それぞれの教室ではずっと同じ科目をやっていて、学生は好きな教室に入って、授業を受けるそうだ。
【学校内では 『教室割』 の画面を開くことができます】
チロルがフサフサのしっぽを揺らして、補足してくれた。
どれどれ……
俺はさっそく空中に手を伸ばして、ウィンドウを出してみる。
≡≡ 教室割 (入室者数/上限人数)≡≡
☆1階
1A:魔法理論・基礎 (10/30)
1B:占い学・初級 (16/30)
1C:召喚術・初級 (10/10)
1D:家庭科 (18/30)
☆2階
2A:魔法理論・応用 (13/30)
2B:占い学・中級 (22/30)
2C:召喚術・中級 (10/10)
2D:美術 (19/30)
☆3階
3A:講義室 (使用中)
3B:占い学・上級 (12/30)
3C:召喚術・上級 (10/10)
3D:音楽 (21/30)
☆4階
4A:企画会議室 (36/50)
4B:企画会議室 (18/50)
4C:企画用物置 (3/ー)
4D:企画用物置 (1/ー)
☆体育館
A:実践魔術・初級 (28/30)
B:実践魔術・中級 (30/30)
C:実践魔術・上級 (18/30)
D:ダンス (20/20)
E:演劇 (30/30)
☆運動場
A:体育 (18/25)
B:飛空術 (15/15)
☆裏庭
幻想生物学 (23/25)
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
「どれも楽しそう! どれにしよう……」
気になるのが多すぎて、迷うしかない感……!
「俺、エリザと一緒のにしようかな? エリザ、なに受けんの?」
「あたくしは今、企画に参加しているのよ!」
エリザがばいーん、と豊かな胸を張ってドヤった。
「ミニゲームなんて、どこにでもあるでしょ? このゲームで学園といえば、なんといっても 『企画』 をとらなきゃ」
「勉強になります、大将!」
「姫君とお呼び! ……いま企画では、5月6日の学園祭に向けて準備中なの」
「学園祭……?」
「文字どおり、学校のお祭りでしてよ! 学園祭は企画のチームでお店を出すの。ほかに、体育祭や音楽祭、ハロウィンパーティーや卒業パーティー…… とにかく、いろいろあるわね」
「へえ…… めちゃくちゃ楽しそう! 俺もやりたいなー! みんなでワイワイやってみたい!」
「ふっ…… まあ、あなたはいかにもお祭り好きそうよね」
「うんうん! お祭りよく知らないけど、たぶん大好き! 途中からでも、参加できるのか?」
「そうね。参加はできるけれど、もうチームに別れてるから、途中参加は厳しいのではなくて? だいたいの人は、新しいイベント企画の募集に応募するのよね」
「えええ、そんなぁ……!」
ガッカリだな。仕方ない、ほかの
と、エリザが急にうつむき、腕に抱えたガイド犬をやたらとモフり始めた。
「まあええそうねどどどどうしてもって言うならあああああたくしが口を利いてあげないこともななななくってよ!」
息継ぎない早口なのに、めっちゃどもってる……!
そしてお耳が赤い……!
「あなたみたいな初心者の平民、企画を一緒にする仲間を見つけるのも苦労しまくるだけでしょうからね……!」
なんてツンデレ……!
「それって、エリザの企画チームに入れてくれる、ってこと?」
「ななななによっ、なにか文句でもあって? 嫌なら別に良くってよ? こちらから頼んでる訳ではないんですからね!」
「うんうん! そのとおりだ! じゃ、よろしく!」
「…… は?」
「だから、よろしく!」
「いま、なんと、おっしゃいまして?」
「いや、だから、俺もエリザのチームに参加させてくれるんだよね? よ ろ し く !」
「そっ、そんな大きな声で言わなくても! 聞こえていますわー!」
真っ赤になった顔を、エリザは
ガイドのパピヨン犬の小さな背中に埋め、小さな声で言った。
「ししし仕方ないわね! しししししっかり、感謝するのよ……!?」
「イエス、大将!」
「だから違っ……」
こうして ―― 俺は、これからエリザのチームでお祭りの準備をすることになったのだった。わくわく。