このVRゲーム 『マジカル・ブリリアント・ファンタジー』 では、どうやら意識を失うと自動的にログアウトするらしい。
気づいたら俺は、現実世界の自分の部屋だった。
寝落ちしちゃった感、半端ないけど、けっこう疲れてもいる。
チロル、無事だったかな……
―― そういえば、ゲームオーバー宣言されたけど、そのときはどうなるんだったけ?
俺は、解説書を見た。
『ゲームオーバー : HPがゼロになると、目の前がまっくらになり、ログアウトします。その後、一定時間、ゲームにログインできなくなります。ログイン後は、ステータスは保持されますが、原則、ゲーム内の自室 (始まりの部屋) からのスタートになります』
なるほどね。一定時間、ってどれくらいなのか、書いてないんだけど…… 条件によって変わる、ってことかな?
ま、もう真夜中だし、そろそろゲームやめて、寝ないとな……
―― マジカル・ブリリアント・ファンタジー …… ところどころ、フザけたところもあるけど、クソゲーと呼ぶには作り込みがすごくて……
ルームメイトも面白くてかわいかったし……
ガイド犬も草生やしすぎだけど、もふもふでかわいかったし……
なにより、メシが美味かったし……
続けても、いいんじゃね?
そんなことを考えながら、俺は、ぐっすり眠ったのだった。
で、翌朝、5時。
洗顔もソコソコに、再びVRゲーム用の装備を身につける。
チロルやエリザがどうなったのかも気になるし、朝ごはんまでは遊ぼう!
腕を大きく回しながら、俺は、ログイン用ワードを叫んだ。
『マジカル・ミラクル・はじまるよっ!』
……もっとカッコいいのがいい。
☆★☆★☆
目を開けると、学園の寮の部屋だった。
足元にまとわりつくのは、フワフワの毛玉。
ううう…… やっぱ、かわいい。癒される。
「チロル! お前無事だったのかぁ!」
【当たり前ですww】
いや、本当に良かった!
もう、抱っこして、すりすりしちゃおう!
ほれ、ぎゅーっ! おおお…… この、もふもふ感…… なんか、懐かしい匂いもするし……
癒される……!
チロルは、嬉しそうにしっぽをパタパタしてくれた。
【エリザ様からメッセージを預かっています。画面を開いてください】
「? エリザは?」
【ログアウトしています】
「そっか。じゃ、メッセージを……」
俺は空中にウィンドウを出現させ、メッセージ欄を押した。
≡≡≡≡ 新着メッセージ ≡≡≡≡
ヴェリノ、ご苦労様だったわね。
貝は貴女の分も売っておいたわ。
学園の食堂が高めに買い取ってくれたのよ。きっと明日のメニューは貝料理ね。
代金は机の引き出しに入れておいたから、確認しておくこと。
いいわね!
エリザ
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
エリザって、やっぱり親切!
悪役令嬢じゃなくて、やっぱり大将だよな! いやむしろ 『親分』 かな?
じゃ、ありがたく、机のなかを確認…… おおおお!?
買い取り明細のメモと一緒に、大金が……っ!
―― えーと、まず、お札が2枚。それから、コインが1、2、3……8枚もある!
「しめて2800マル! 黒字確定っ! バンザイ! 親分最高!」
―― エリザの残したメモによると、俺の取った貝は4.2kg。キロ600マルで買い取ってもらったらしい。
それから、飾り用の貝殻が全部で280マル…… ほとんどエリザがとったのに、きっちり分けてくれてる……
やばい、嬉しくて涙でそう……
【お金を財布にしまったら、ステータス①画面を確認してみてください】
くぅーん、と鼻を鳴らすチロルに従い、お金をしまってステータス画面を開く。
「おおおっ!」
お金が増えてるのって、わかってても感動。
それに! レベルも!
あれこれ上がってますよ、奥さん!
≡≡≡≡ステータス ①≡≡≡≡
☆プレイヤー名☆ ヴェリノ・ブラック
☆職業☆ 学生
☆HP / MP☆ 30 / 10
☆所持金☆ 6,350マル
☆装備☆ 制服 /学生バッグ / 普通の靴 /ー /ー /ー
☆ジョブスキル☆
・勉強 lv.1
☆一般スキル☆
・掃除 lv.1
・料理 lv.1
・飼育 lv.2 ペット数:1
・買い物 lv.2
・おしゃれ lv.1
・外出 lv.3 商店街、小運河 (舟)
・魔法 lv.1 プチファイア
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
飼育と買い物と外出 ―― 3つも、レベルアップしてる!
「これ、すごいんじゃね?」
【買い物は、鉄道チケットや駅弁で経験値をかなり稼げましたね。外出も、初心者で海まで行ったので、一気にレベルアップできました】
「じゃあ、飼育は?」
チロルの人懐こい瞳が、じっと俺を見上げる。
【私を助けてくれたからですよ!】
「えっ……あれが?」
俺、途中で気絶しちゃったけど!?
【ええまぁ一応ww 本当は、助けなくても大丈夫な仕様なんですけどね。私、AIですからwwww】
しっぽをふりながら、盛大に草生やしやがったなコイツ。
……でも、なんか、前より懐いてくれてるみたいだ。
「もしかして、草は親愛の証、とか?」
【いえww 単なる個性ですwwww】
「だろうと思った…… でも俺、いい飼い主になる!」
【wwww 将来は、ペットブリーダーか飼育員でも目指しますか?】
「それは、まだ決めてないけど」
まだ当分は、学生生活満喫したいしね。
「でも、まぁ、その…… けっこう、チロルのためになにかするの、気分いいし」
【かくして人は、ペットの奴隷となっていくのですねww】
「
俺は、チロルの全身をわしゃわしゃ、もふった。
「とにかく! チロルのために要るもの、いろいろ買いにいくぞ!」
【あ、それは無理ですww】
「えええ? なんで?」
【いま、こちらの世界も早朝ですから。ショップはまだ開いていません】
「がーん。せっかく、早めにログインしたのにな」
【wwww ちなみに、学校も8時半からですから。いまのあなたにできることは、掃除程度ですねwww】
「………………」
それから俺は、現実世界での朝ごはんの時間まで、ひたすら掃除をして過ごしたのだった。
現実世界では、朝ごはんのあとは勉強だ。
さっさと終わらせて、すぐに戻ろう…… 次は、いよいよ!
『学園生活』 スタートだ……!