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第4話 街に出よう

「よし、まずは昼メシだな! 学校って、たしか 『学食』 ってのがあるんだよな? アニメで見たことある!」


「あなた、ゲームのヘッドフォンが壊れてるのではなくて? それとも、壊れてるのは記憶力かしら? あたくしがさっき、教えてあげたわよね?」


「あっ…… 今日は 『学食』 休みかあ…… 残念!」


 エリザによると、土曜日と日曜日は学校も食堂も休みならしい。

 学生たちは街に出て食事したり、寮の簡易キッチンで料理したりするんだそうだ。


「じゃあ、街かあ…… 美味い店、あるかな!?」


「ふっ…… あたくし、忙しいの」


「うん、じゃあ、バイバイ、エリザ!」


「無礼者! 最後までお聞き!」


 もうログアウトするのかと手を振ったら、エリザはツンと横を向いた。


「あたくし忙しいのだけれど、右も左もわかってない初心者ルームメイトが空腹で倒れて、いきなりゲームオーバーになっても、迷惑なのよね」


「いやあ…… さすがに、なんとかなるかと」


「だから! 街の美味しいお店を教えてあげても、よくってよ!」


 おお…… 長たらしい前置きで散々、上からディスってくると思ってたら…… テれてたのか!

 面白い子がルームメイトになったなあ!


「あざまっす、大将!」


「だから、姫君とお呼び!」


 しかもちょっと可愛い。



 ―― そんなわけで、街に出た。


「うっわー! すごいな!」


 赤レンガの道、赤い屋根のついた白い建物、ひときわ目立つ丸いドーム。家々の窓を彩る花。

 こういう街、 『百年前の貴重映像シリーズ:ヨーロッパの旅』 の動画で見たことある。

 けど、実際に行ってみると、また違うな。

 風がふいて、いい匂いがどっかからして。学園の赤い尖塔が、眩しいくらい青い空のなかにそびえているのが、すごく大きく見える。


 寮のそばは、すぐに広い道になっていた。

 馬車がのんびりと走り、道を隔てて流れる川には、舟が浮かんでいる。漕ぎ手は男。NPCかな?


「ここらの一戸建ては、商売などで成功したプレイヤーの家よ。普通は、学生じゃなければ、3階層ほどのアパートに住んでるわ。商店街は、この住宅街を抜けたところよ」


 エリザが丁寧に説明してくれる。

 最初に 『悪役令嬢』 と名乗ったのは、ゲームの最初にそういうコースを選択したからだそうだけど…… なんで、そんなコースにしたんだろうな? 親切なのに。


 チロルが足元にまとわりついて、人懐こい瞳で見上げてきた。


【ちなみにあなたの外出スキルはlv.1、商店街までです。ウィンドウを開いてみてください】


「確か、ウィンドウを開くには……」


 説明書を思い出しつつ、握った右手を斜め前に伸ばして、拳を開く。すると、空中にウィンドウが現れた。



 ≡≡≡≡ステータス ①≡≡≡≡


 ☆プレイヤー名☆ ヴェリノ・ブラック


 ☆職業☆ 学生


 ☆HP / MP☆ 30 / 10


 ☆所持金☆ 5,000マル


 ☆装備☆ 制服 / 学生バッグ / 普通の靴 /ー /ー /ー


 ☆ジョブスキル☆

 ・勉強 lv.1


 ☆一般スキル☆

 ・掃除 lv.1

 ・料理 lv.1

 ・飼育 lv.1 ペット数:1

 ・買い物 lv.1

 ・おしゃれ lv.1

 ・外出 lv.1 商店街

 ・魔法 lv.1 プチファイア


 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡



「おっ、うそ! 魔法使えるじゃん!」


 さすが、タイトルに 『マジカル』 つくゲームだ!


「練習すればレベルが上がってよ。あたくし忙しくて平民など、かまってる暇ないのですけど…… ま、どうしてもと言うなら、教えてあげないこともないわね!」


「エリザ、やっぱり親切……!」


「ばっ…… そそそ、そんなんじゃ、なくってよ!」


 エリザは扇で顔を隠してツン、と横を向いた。耳が赤い。


 チロルが、しっぽをふぁさふぁさと振る。


【ちなみに 『外出』 は、1人ではウィンドウに表示されている範囲でしか動けませんが、レベルの高いプレイヤーが同行している場合に限り、そのプレイヤーと同じ場所までいけます】


 ふーん。 『行きたい場所には、先輩プレイヤーに連れてってもらおう』 ってことか、なるほど。


「どんな場所があるんだ?」


「いろいろよ! レベル3で、そこの舟に乗れるようになるわ」


 チロルの代わりに、エリザが答える。

 どうやらチロルは、他のプレイヤーがしゃべる時は、なるべく発言を控えるみたいだ。


「外出レベルは上げておくと楽しいわよ! レベル5で動物園、レベル7で森林公園。レベル10で、鉄道が使えるようになってよ」


「おおっ、鉄道か! 遠くまで行けそう! エリザは、いま何レベル?」


「ふっ…… おそれおののくがいいわ!」


 エリザが豊かな胸をばいーんと張った。ドヤってるなあ……


「あたくしの外出レベルは、25よ! 海まで行けるようになったのよ」


「海って、あの海か!?」


「ほかに、どんな海があるというのかしら?」


 俺は思わず、エリザの手をがっしと握りしめていた。


「連れていってくれ……!」


 海なんて、一生のうち1度も行くことはないと、俺はずっと思ってた。

 その海に、行けるんだ……!


 日常系ゲームも、けっこういいなぁ!


 ~・~・~・~


「いま海に行くなら、潮干狩りね!」


 エリザの教えで、俺たちはいったん寮に戻り、バケツとポテトマッシャーを調達 ―― 潮干狩りというものにはポテトマッシャーが最適なんだそうだが、なんでだろう?


「平民は、商店街の雑貨店で調達するとよくってよ! 大したことなさそうな、せまい店だけれど、だいたいのグッズは、そろうわ」


 次にエリザが案内してくれたのは、商店街の 『リーナの万屋よろづや』 という店だった。


「うわあっ! すごい!」


 店に足を踏み入れた途端、俺はまた歓声を上げた。


 左右全部、物に囲まれてる!

 ノートやペン、ハサミなんかの文具、それにタオルや食器。よく使う物は手前なのかな。

 スコップや花の種、といった園芸用品が少し奥の方、一番奥にはアクセサリーのコーナーもある。


 こんなにたくさんの物が並んでるなんて、家じゃあ考えられないぞ!


「いらっしゃいませ! 杖をお探しですか?」


 ちょっと可愛い感じの眼鏡のお姉さんが、ニコニコと挨拶してくれた。

 襟元の詰まった、シンプルなドレスを着ている。

 この人がリーナさんかな。


「杖って魔法の?」


「そうです。あっても無くても魔法は使えるのですけど、雰囲気を重視される方やMPを強化したい方には人気ですね」


「へぇー、ちょっと見せて!」


「どうぞ」


 杖はカウンター下のガラスケースに入ってて、貴重品らしい。

 7~8cmの木の棒、先端に宝石がついている。で、値段が……


「げっ高価たかっ!」


 一番安いのでも5000マルしてる!


 リーナさんがニコッとする。


「ポケットサイズですけど、実際に使用する時には身長くらいの大きさになるんです」


「あー、なるほど……」


 とりあえず、いま買えないことだけは、わかった。

 よし! いつか、お金を貯めて杖を買おう!


「…… このゲームはモンスターとかいなくてよ? 平民にとって、強化アイテムは無駄遣いでしかないわ」


 エリザが忠告してくれるが、欲しいものは欲しいんだ!

 けど、まぁまずは……。


「潮干狩りの道具、ありますか?」


「はい、あちらです」


 リーナさんがまたニコッとして、店の一角を指した。 『季節商品』 の札がかかっている。


 こうして俺は、アイテム 『潮干狩り基本セット』 を手に入れた。


 くぅーん……

 チロルが鼻をならしつつ、足にすりよってくる。


【持ち物はステータス画面②で確認できます】


「おっけー、みてみる!」



 ≡≡≡≡ステータス ②≡≡≡≡


 ☆持ち物☆

 制服★ 学生バッグ★ 普通の靴★

 潮干狩り基本セット


 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡



 どうやら装備してる物には★がつく仕様らしい。


 さて、次は……

 俺は手を振ってウインドウを消すと、エリザに言ったのだった。


「次は、やっと、昼飯だな!」


 なに食べよう。楽しみだなー!

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