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第2話 チュートリアル(1)

 まずは、チュートリアルだよな。たぶん音声案内で、名前とか聞いてくるはず……

 だが、俺がいくら待っても、チュートリアルは開始されなかった。

 かわりに聞こえてきたのは ――


 くぅーん、くぅーん……


 心を甘く揺すぶる鼻声。

 うわ、なんか、脚のあたりに温かいのがあたる……!?

 なんなの、いったい!?

 我慢できなくなって目を開けると、足元に、毛の長い犬がいた。 

 背中の部分は黒と茶色、お腹は白、中折れの耳と、人懐こい瞳 ―― こいつは、シェルティーだ……!

 前に動画で見たことある。

 子犬がモコモコして、めちゃくちゃ可愛くて 「いいなー飼いたいなー」 とか口走って、妹から 「いや現代じゃムリ」 とか、冷静なコメントを浴びせられたんだった。

 もしかして、このゲーム…… 俺の脳波を読むとかして、好みに合わせてくれるのかな!? 科学の力も、悪いことばかりじゃないね!


 ―― せっかくだから、ワンコをモフってみよう。

 俺はそっと、フワフワの毛を撫でてみる。

 ……うう。この手ざわり…… たまらん!

 モフるって、心をフワフワにする行為だったんだ…… これは、やめられない止まらない! 癖になっちゃう!


 ―― 動物って、さわるだけでも、こんなに幸せなんだなー。

 地下生活だとペットは、動画で眺めるだけのものなんだけど……


 柔らかい毛、潤んだ目、湿った黒い鼻から漏れる温かい鼻息。

 もっちゃりとした、やや熱めの身体。


 …… こんなの知っちゃったら、ただの動画じゃ満足できないですよ、ねえ奥さん!?


 ほんと、生き物って……こんなに、生き物だったんだなあ…… 好きだ ……もう、ずっと、さわっていたい。


【いつまで、さわってるんですか】


 とつぜん、声がダイレクトに俺の脳に響いた。


「へ?」


 シェルティ犬がお行儀よく座りなおし、くぅーん、と甘く鳴く。


【ボク、あなたの目の前のワンコです。ガイド兼1st.ペット。ヨロシク】


「あ、あーヨロシク!」


 そうだ、今は、ゲームのチュートリアルだったよね!

 このワンコが案内してくれるってことか。


【まず、あなたの名前を教えてください】


「うーん。なんにしようかな?」


 プレイヤー名つけるのって、悩むよね!

 いつだったか、パソコンゲームで、ふざけて 『ワシに◯ね』

って名付けてみたら、ずっと 『勇者ワシに◯ねよ!』 って呼ばれて、なんとも言えない気分になったこともある。


 よし、今度こそはマトモにつけるぞ!


「暗黒の使者・ベリアル!」


【長すぎるので、『あんこくのししゃ・ベ』までしか入りません】


「くっ…… ならば、黒き雷鳴・スサノオ!」


【10文字以内でお願いします。あと、厨2センスで名付けすると、後悔しますよ】


「じゃあ…… もーなんでもいいよ! 適当につけてくれ」


【では 『プレイヤーC4728』 では】


 くっ…… こいつ…… 人のネーミングセンスにケチつけておきながら……!


「もっと普通の!」


【では 『ヴェリノ・ブラック』 では】


「……まぁ…… いいや……」


 うん、意味は良くわからないけど、音としては悪くない!

 俺がうなずくと、シェルティ犬がまた、くーん、と鳴いた。


【では、ようこそヴェリノさん。早速、キャラエディットを始めます。最初の職業で選べるのは、こちらです】


 空中にウィンドウがあらわれ、そこにズラリと職業名が並ぶ。

 パン職人見習い、菓子職人見習い、仕立て師見習い、狩人見習い…… どうやら 『見習い』 ばかりのようだ。


 その中にひとつ 『学生』 というのがあった。


「『学生』 ってのは、将来、学者にでもクラスチェンジできるのか?」


【条件によっては 『准教授』 から 『教授』 にもなれますし、同じく条件次第で他の職業にも変われます。

 『なりたい職業が決まらないけど、とりあえずゲームを楽しみたい』 という人や、学園生活・寮生活を送ってみたい人向けです】 


「学園生活……?」


 なんか、面白そう。

 ―― 『学校』 ってよく、ばあちゃんの昔話に出てくるんだよな。

 みんながリアルで同じ場所に集まるって、どんな感じなんだろう。

 一緒に遊んだり、友だちになったり、ケンカしたり。

 誰かのことを好きになったり、好きになられたり (なんちゃってね!) ―― 考えてたら気になってきた。


「よし、じゃあ 『学生』 にする!」


【了解です。学生は年齢によらず、初心者は、1年生からのスタートです。】


 シェルティ犬は、俺の手に鼻をこすりつけてくる。くすぐったいな。


【では、次に、容姿を決めていきましょう。顔の造形、髪と瞳の色は決められます。身長は決められますが、体重は現実と同じになります】


 なるほど。目線はAIでコントロール可能だけど、体重までは無理ってことか。


「身長は今のままでいい。髪は黒。顔は……そうだな、やっぱりイケメンがいいなー」


 髪は今と同じくらいの長さにして、輪郭、眉、目、鼻、口……順番に顔パーツを選んでいく。


 せっかくだし、推しアニメのダークヒーローみたいにしよう。

 くっきりした顔立ちにして、と。

 目の色は、やっぱ、赤だよな! カッコいい!


「できた……!」


【では、全身像は寮の部屋で確認しましょう! ゲームスタートです!】


 フサフサのしっぽをフリフリするシェルティ犬。


 と、同時に、周りの景色が急にはっきりとしてきた。


 いよいよ、学園生活開始か。

 俺、どんな姿になったのかな。楽しみだなー!


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