-それからある程度経った頃、俺達は班長のお宅を出て道場の外にあるという鳥達のお家に向かっていた。
「あれがそうよ」
そして、近くの林の中に入って直ぐの所にそれはあった。…見た感じ、質素な造りの大きな平屋だが中から沢山の鳥の声が聞こえた、
「ウチでは基本的に、鳥達とは離れて生活するようにしているの。
まあ、単純に躾やお掃除が大変だからというのもあるけど、一番は『適度な距離感』を保つ為だね」
「…あんまり近過ぎると、良くないのか?」
「確かに、近ければ絆も深くなる。けれど、近ければ近いほど喪った時の悲しみも深くなるのよ」
「…っ!」
「…分かる気がします」
「…確かに、ウチも牛を永く眠らせる時は皆泣きそうになるな~」
彼女の言葉に、俺達はハッとさせられた。…もしも、その悲しみが癒えなければきっと鳥との距離は広がってしまうだろう。
そうなれば、やがて野生の鳥を見るだけでも辛くなりいつしか鳥が嫌いになってしまうかもしれない。
「…この決まりのおかげか、今まで相方を喪った人に鳥と距離が広がった人も、ましてや鳥を嫌いなった人も居ないわ」
「…そうか」
「本当に、良い決まりだと思います」
「ああ~」
すると、彼女は俺の悪い想像をハッキリと否定してくれた。一方、仲間二人は葛西の家の決まりに賛同した。
「ありがとう。…あら?」
「-ぴい~っ!」
そんな話をしていると、彼女の使いである桃次郎が平屋からこちらに飛んで来た。…そういえば、いつの間にか居なくなっていたがどうやら家に帰っていたようだ。
「ふふ、甘えん坊ね」
「-おーい、どうし…って、えっ!?」
彼女と小鳥が仲良くしている光景に癒されていると、平屋から若い男性も出て来た。どうやら鳥達の世話をしていたとその人は、彼女を見て驚愕した。
「…お、お嬢っ。……いつ、お戻りに?」
けれど、彼は直ぐに声を抑えて静かに素早くこちらに近付き、小さな声で彼女に聞いた。…へえ、鳥の世話をしてるだけあって鳥を驚かせる事はしないようにしてるんだ。
「ふふ、驚かせてごめんなさい。
ほんの、ついさっきよ」
「そうでしたか。…って、まさかそちらの方々が?」
「そうよ」
「…ああ、本当に良かった。…っと、いけないいけない。
自分は、まだ仕事が残っていますので」
「ええ。
-あ、そうだ。後で、そちらに『お邪魔』させて貰うわね」
すると、彼は直ぐに平屋に戻ろうとした。そんな彼に、彼女はふと訪問の約束をする。
「…はい?…っ!なるほど、分かりました。
では、仕事が終わり次第『準備』をしておきますね」
「お願いね」
「はい。それでは、自分はこれで」
けれど、彼は首を傾げるが直ぐに『俺』を見て訪問の理由を察したようだ。…もしかしなくても、『あれ』の事だろうな。
そんな事を考えながら、彼の背中を見送った。
「…ふふ、彼が今日の当番で良かったわ」
「彼が、俺の師匠になる人の情報を持っているんだな?」
「え?」
「ほう~?」
「正確には、彼の家が保管しているの」
すると、彼女は補足を入れてから来た道を戻り始めた。…しかし、いくら門下生の家だからといって大事な資料の保管を任せるか?
「…あ、やっぱり『そこ』が気になるよね。
-それは、彼の家柄に関係しているの」
疑問を抱いていると、それを予想していた彼女は語り始める。…つまり、それだけの信頼を持つ家って事だ。
「実は、ウチと彼の家の開祖は義兄弟の関係なの。
そして、ウチのご先祖が道場を開いた時彼の家の開祖は、一番最初に弟子入りを決めたの」
「へぇ~」
「なるほど~。弟分なうえ、一番弟子の家だから信頼してるってわけか~」
「……」
彼女の話に、仲間二人は納得していた。…しかし、俺はそれだけでは納得出来かった。
「…本当、勘が鋭いね。
-まあ、ウチの開祖はそれだけも十分信頼出来たのだけど他の弟子達はそうはいかなかったらしいの。
当然よね。それに、道場の外から『武術家にそんな繊細な事を任せられないから私にお任せ下さいっ!』という人も出て来たわ」
「…うわ、大変な騒ぎになってますね」
「まあ、そいつらからしたら『面白くない』だろうな~」
「けれど、直ぐ決め手となる事があったの」
「決め手?」
「彼の家に、当時国の中枢で記録役をしていた方の娘さんが嫁いだの。
だから、彼女は資料の適切な保管方法を知っていたのよ。
結果、他の人達は諦めたという訳」
「なるほど。そりゃ、専門家には敵わないだろうな。…お」
話の結末に、俺達はとても納得した。そしてそんな話をしていたら、いつの間にか林を抜けて道場の塀が見えた。
「…うん?」
『ぴい~っ!』
すると、道場の門の方から門番の鳴き声が聞こえて来た。なので、そちらを見ると門番はまた敷地内の上をぐるぐると旋回していた。
「また誰か来たのか?」
「…ああ、もうそんな時間か」
家の人に聞くと、当人はふとそんな事を口にする。…その顔は、とても嬉しそうだった。
「あ、ごめん。…あれはね、お昼ごはんの合図なの」
「…へ?」
「そうなんですか?」
「ええ。今、あのコが飛んでいるのは食堂の真上なの」
「なるほどな~。…あ、もしかしてご相伴に預からせて貰えるのか~?」
「勿論ですよ。
さあ、行こうっ!」
彼女は笑顔で答えると、素早く駆け出した。…ああ、そうか。
「…お姉さん、お家のごはんが大好きなんですね」
「だな~。まあ、皆そうだろ~。
さあ、オイラ達も行くぞ~」
俺達は直ぐに班長の気持ちを察した。そして俺達も昼飯を楽しみにしながら、彼女の後を追い掛けて道場に戻った-。
「-あ、ただいま~っ!」
『お帰りなさいっ!』
それから、真っ直ぐ食堂に向かうと中にはすでに門下生達が居た。しかも、さっきは見掛けなかった年上の人達も居た。
そして、俺達は台所に近い卓に案内されそこに座る。
「お帰りなさい、桃歌さん」
「ただいま、舞さん」
「…っ。…ほう、彼らが」
すると、そこには恐らく師範代と思われる年上の女性がいた。当然、師範代は一目で俺達の実力に気付き感心した反応をする。…いや、本当に凄い所だな。
「…ふふ、凄いでしょう。…って、あれ?お父さんは?」
「ああ、お館様なら台所ですよ」
すると、彼女はまた自慢し笑顔を浮かべるがふと父親が居ない事に気付いた。
その質問に、年上の門下生ら直ぐに居場所を教えた。
「へぇ、お父さんも料理が作れるのか?」
「…いや、私の記憶が確かならお父さんが台所に入っていた事は一度もない筈だよ」
「…あ、そうか。桃歌さんは知りませんでしたね。
-実は、お館様って山の幸を使った料理が得意なんですよ」
「…え、初耳なんだけど?」
突然明かされた身内の特技に、彼女は驚いてしまう。…この感じだと、そこそこの頻度でだされていたな。
「まあ、桃歌さんの言うように今は滅多に台所に入っていませんが、昔はお祝いの日なるとお館様自らこの山に自生している旬の山菜を採って来て、山菜ご飯や山菜の汁物や山菜の天ぷらなどを作ってくれたんです」
「…全然知らなかった」
「…いや、どれも美味しそうですね」
「ええ。どれも、絶品ですよ」
「…っ!…ああ、良い匂いだ~」
「…はい」
それだけで空腹を感じていると、師範代は味の保証してくれた。
そんな話をしていると、台所からとても美味しそうな匂いがしてきた。
「-皆、待たせたなっ!」
「お待たせっ!」
すると、台所から背の高い筋肉質の男性と班長のお母さんが出て来た。…どうやら、この人が彼女のお父さんのようだ。
そして、二人の後ろに居た師範代達が沢山の料理が乗ったでかいお盆を、食堂の真ん中にある卓に持って行きそこに置いた。
「さあ、皆焦らず取りに来なさい」
『はいっ!』
それを確認した当主が声を掛けると、門下生達はそっと立ち上がり自分のお盆を持ってその卓に向かった。
「はい、皆さんのはこちら」
「「…あ、すみません。…っ!」」
「どうも~。…あ~っ、」
「ありがとう。…うっ」
一方、俺達の分はおかみさんと一緒の卓に居た師範代が用意してくれた。…当然、目の前に見るからに美味しいそうな料理が置かれ更にとても良い匂いがしたので、俺達の腹の虫が鳴ってしまう。
「はははっ!正直でよろしいっ!
-それでは皆、いただこう」
『いただきます』
すると、当主は笑顔でそんな事を言う。そして直ぐに、食事の開始を宣言し全員が一斉に食べ始めた-。