「-よぉし、どこから掛かってこぉ~いっ!」
そして、穏やかな昼飯の時間は過ぎて行き食休みを挟んだ後、俺達と北村さんは牧場近くに広がる高原にて対峙していた。…まあ、これから恒例の『手合わせ』をするのだが今回は俺と弟分も参加する事になった。
『-そうだ。もし宜しければ、手合わせをしていただけますか?』
『……え?』
『ん~?…そうだな、良いぞ~。
-ああ、どうせならお前達三人の実力が見たいな~』
『…っ!?』
『…分かりました。二人も、良いわね?』
『…ああ』
『…はい』
『良し、決まりだな~。んじゃあ、牧場裏の野原に行くぞ~っ!
あ、勿論-』
…とまあ、直前にこんなやり取りがあったので俺達三人対北村さん一人の、かなり変わった形の手合わせになったのだ。
オマケに、この手合わせには観客までいた。
『……っ』
そう、北村さんのご家族も離れた場所で今から始まる手合わせを見守っていた。…多分、北村さんはご家族にも俺達の実力を見させるつもりなんだろうな。
「行くわよ」
「「…っ!」」
そんな事を考えていると班長が合図を出したので、俺と弟分は一気に氣を練り上げる。
「「「『纏装』っ!」」」
「ほほお~っ!やっぱり、使えるか~っ!
-なら、こっちも『纏装』~っ!」
そして、こちらが準備を整えると向こうは嬉しそうにしながら氣で形作られた牛のような兜とごつい鎧を纏った。
『うわっ!?』
『も~っ!?』
すると、ご家族や遠く離れた牛達も俺達の放つ氣の圧力に驚いた。…なんか、この時点で十分実力は分かって貰えたと思うが桃歌とあちらさんは、『まだ足りない』のかな?
「まずは、私が行くわ。
二人は、私が彼から離れたら来て」
「…ああ」
「分かりました」
班長と向こうの顔を見ながらそんな予想を立てていると、班長は手短に作戦を伝えて来たので頷く。
「『風翔』」
そして、班長は風の力で空へと飛びある程度の高さまで来たところで、丑の闘士に向かって一気に急降下した。
「「…えっ!?」」
「「嘘だろっ!?」」
当然、それを見たご家族は心底驚いていた。まあ、普通の人の視点だと信じられない光景だろう。
「ははっ!『三の段』まで行ってるとは驚きだ~っ!」
「『風弾』っ!」
しかし、丑の闘士は余裕を見せていた。そして班長は降下しながら風の弾丸を放つ。
「『土壁』~っ!」
すると、丑の闘士は右手を地面に向けて技を叫んだ。…っ!でかっ!?
次の瞬間、地面から分厚い土の壁が出現し風の弾丸を防いだ。
「やはり、貴方もでしたかっ!」
「いやはや、オイラは随分と掛かったのにやるな~っ!」
けれど、班長は防がれたにも嬉しそうにしながら闘士から距離を取る。一方、向こうは班長の事を称賛した。
「「…っ!」」
そして、次は俺達の番なのでまずは丑の闘士に向かって駆け出す。…うーん、やっぱり走りながらだと『雷』が出ないな。
その最中、俺は先程身に付けた雷の力を使ってみようとする。けれど、集中出来ないせいか上手く行かなかった。
「おお~っ!ど~んと来いっ!」
「行きますっ!
-せいやっ!」
なので、普通に攻撃する事にした。そして、至近距離まで到着するのと同時に相手のお腹の辺りを渾身の力を込めて殴る。
「うお~っ!?」
「「はあ~っ!?」」
すると、腰をしっかりと落とし踏ん張っていた闘士は少しだけ後退した。…それを見た息子さん達は、相当驚いていた。
「智一、行くわよっ!」
「はいっ!」
そして、班長は空から降りて来て次の指示を出した。…ん?
俺は離れながら、また『合氣弾』を撃つと予想していた。けれど、弟分は自分より一回り小さな分身を生み出し班長はそれに風を纏わせていく。
「はっはっはっ!何をするのか分からんが、そう簡単にオイラの『壁』は壊れんよ~っ!
-『二重土壁』」
しかし、当然相手は先程の分厚い土の壁を二つ同時に生み出した。…いや、本当にあの人が敵じゃなくて良かった。
「「『合氣砲』っ!」」
少し離れた所でそんな事を考えていると、仲間二人は声を揃えて拳を前に突き出す。
-すると、風を纏った分身は凄い速さで二重の壁に向かって飛んで行き、直ぐに激突した。
『……っ!』
「…おお~。『惜しかった』な~」
けれど、二人の攻撃は一枚目の壁を突破したものの二枚に穴を開ける事は出来なかった。…ただ、相手が『惜しかった』と言うように良く見ると二枚目には、大きな亀裂が入っていた。
「「…はあ~」」
「いや、正直予想以上だ~っ!」
当然、二人は少し落ち込みながら氣装を解除するが北村さんはかなり満足げだった。…どうやら、向こうの期待には応えられたようだ。
『-………』
少しほっとしつつ仲間の元に向かう途中、北村さんのご家族もそちらに移動しているのが見えた。…その雰囲気は、とても気まずそうな感じだった。
「「すまんっ!」」
「「すみませんでしたっ!」」
そして、合流した俺達の前に立ったご家族は開口一番に謝って来た。多分、俺達に対する不信感の事だろう。
「先程も言いましたが、どうか気になさらないで下さい」
すると、班長は笑みを浮かべながら再度大丈夫だと返した。勿論、俺達も頷いた。
『…ありがとうございます』
「いや、本当に良い子達だな~。
-これなら、『宿命』の旅でも上手くやってけるだろな~」
『…っ』
俺達のやり取りを見ていた北村さんは、ふとそんな事を言った。…それはつまり、彼とご家族の別れを意味していた。
「やれやれ、母ちゃんや萌は分かるがお前達もまだまだ親離れが出来なかったか~」
「…だって、こんな突然だとは思ってなかったからさ」
「…ああ」
「はあ、しっかりしろ~。
お前達二人は、オイラが帰って来るまでの間一番頑張んないといけないんだぞ~?」
「「…っ!」」
そんな息子二人の肩に、北村さんはその大きな手を乗せて励ました。…そして同時に、『必ず帰える事』を宣言した。
突然、息子さん達だけでなくお母さんや萌さんも少し明るい顔になった。
「んで、母ちゃんや萌はこいつらを支えてくれな~?」
「…分かったわ」
「うんっ!」
「よ~し。んじゃあ、準備をしてくるな~」
そして、返事を聞いた北村さんは一足先に牧場へと駆け出した。その後、俺達とご家族も一緒に戻った-。
-それからさほど経たない内に、俺達と北村さんは牧場の入り口に移動していた。…多分、この人はいつ俺達が来ても良いように旅支度をしていたのだろう。
「…ううっ」
「…お父さん。どうか、気をつけて」
「「…俺達、協力しあって頑張るよ」」
勿論、ご家族も見送りに来ていたのだがやっぱり萌さんは寂しくて泣いていたし、お母さんは気丈に振る舞いつつ心配し、息子さん達は改めて頑張る事を父親に誓っていた。
「ああ~。皆も、元気でな~。
-行ってくるぞ~っ!」
『行ってらっしゃいっ!』
「…んじゃあ、改めて宜しくな~」
そして、ご家族に挨拶をした彼は少し離れた所で待っていた俺達の元に来て腹を決めた顔で名乗りごつい手を差し出して来た。…当然、俺達は口を挟まずにその手を握っていきそれが終わると素早く歩き出した。
「-…んで、何処に行くんだ~?」
「今の目的地は、私の故郷でもある白の都になります」
「あ~、あそこに行くのか~。久しぶりだ~」
「やっぱり、北村さんもあの都で修行なされていたんですね」
「…ん~?」
すると、先頭を歩いていた北村さんはふとまたこちらを見て、何か言いたそうにした。
「…どうかしましたか?」
「オイラの事は栗蔵で良いぞ~。それに、出来れば親しみやすい呼び方を付けてくれ~」
「「「…っ!」」」
なんと、彼は自らそんな提案をしてくれた。いや本当に、素敵な大人だな。
「…ありがとうございます。実は、隣の町に着いてからそうしようと思っていたので」
「なんだ、そうだったのか~。
まあ、早くなっちまったが良いか~」
すると、彼女は彼に感謝した。やっぱり、彼女も『仲を深める事』をきちんと考えていたようだ。
「…じゃあ、今から『栗蔵兄さん』って呼びますね」
「それが良いわね。栗蔵兄さん、改めて宜しくお願いします」
「栗蔵お兄さん、宜しくお願いします」
「ああ~。こちらこそ宜しくな~」
なので、俺は真っ先に新しい呼び方で呼ぶと二人も直ぐその呼び方にした。勿論、彼は笑顔で頷くのだった-。