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第十一話『心優しき力持ち』・弐

「-じゃあ、皆道中気を付けるんだよ」

「ありがとうございます」

「はい、先生」

「必ず、無事に帰って来ます」

「…どうか、門下生達を此処に連れて帰って来てくれ」

 日が高い位置に昇った頃、俺達は道場の門の前で道場主達と別れの挨拶をしていた。…すると師範が、俺達に頭を下げて門下生達の事を頼んで来た。

「…必ず、お連れします」

「お任せください」

「まだまだ修行中の身ですが、精一杯頑張ります」

『…宜しくお願いします』

 俺達は決意を漲らせて頷いた。それを聞いた門下生達は、深く頭を下げて来た。

「「「では、行って参りますっ!」」」

「ああっ!」

『いってらっしゃいっ!』

 そして、俺達は道場の人達と別れを告げ、街の入り口とは反対の方に向かって行く。…というのも、丑の闘士が居る北村牧場は白の都の道中にあるからだ。


「-さあ、此処からは少し歩調を上げてよう」

 やがて街を出ると、広大な高原に出た。するとそれに合わせて、桃歌は指示を出した。…なんか、いつの間にか彼女が班長になっているが一番実力があるので、俺達は素直に従った。

「此処からだと、どのくらい掛かるんだ?」

「だいたい、昼過ぎくらいかな?だから、休みながら行きましょう」

「おう」

「分かりました」

「…うーん、まだちょっと堅苦しいね?」

 俺達が返事をすると、ふと班長は弟分にそんな事を言った。…確かに、そこそこの付き合いになって来たが弟分はいまだに敬語だった。

「…その、すみません。やっぱり、なかなか崩せないです」

「…え?何の話?」

「実は、仁が療養していた間智一と鍛練していたんだけど、その中で『堅苦しさ』を指摘したのよ。

 -だって、これから一緒に大きな宿命を乗り越えていくんだもの。『壁』があるのは、良くないでしょう?」

「まあ、確かにな」

「…で、何とか砕けた話し方にさせようとしているんだけど、まだ難しいみたいね」

「…元々、目上の人に対する礼儀作法は物心ついた頃から教わっていたので、なかなか崩せないんです」

 すると、弟分はかなり申し訳なさそうな顔をした。…村長の子供ってのは、どこも大変なんだな。


「…うーん。…何か、良い案はない?」

「…そうだな」

 弟分に同情していると、彼女はこちらを頼って来た。…だから、俺は考えてみる。

「…っ!そうだ。まずは、俺達の呼び方を少し変えてみよう」

「え?」

「今日から、俺の事は『お兄さん』で桃歌の事は『お姉さん』と呼ぶんだ」

「…は、はい。

 -えっと、仁お兄さん。桃歌お姉さん」

 良い案が浮かんだので、早速実践させてみると効果は直ぐに出た。…まあ、いずれは丁寧な部分を無くしたいかな。

「…凄い。ほんの少し変えただけで、まるで近所の子供のようになったわね。

 これは、盲点だったわ」

「まあ、普通は当たり前に身に付く物なんだけどな。

 あ、それとこれから仲間になる三人もこういう風に呼ぶように」

「…わ、分かりました」

 俺が追加の課題出すと、弟分は緊張しながら頷いた。…確か、丑の人は三十くらいだから『あれ』の方が良いかな?

「ふふ、なんか良いわね」

「…だな」

 そんな事を考えていると、お姉さんと呼ばれた彼女は機嫌が良くなっていた。勿論、俺も同じ気持ちだった。


 -しかし、そんな素敵な気分のまま牧場に着く事は叶わなかった。…それは、牧場まであと少しの所まで来た時だった。

「…ん?」

「…なんか、人だかりがあるね」

『-…え~っ!?なにこれっ!?』

『…はあ、参ったな』

 どういう訳か、その一帯は人で溢れかえっていた。…なんだか嫌な予感がするな。

 そんな事を考えながら、俺は近くに居る行商人らしき人に近付く。

「すみません、何かあったんですか?」

「…あ、ああ。

 どうやら、ここから少し行った所で落石があったようでね。そのせいで、道がほとんど塞がれてしまったようだ」

「「…っ!」」

「…そうですか。ありがとうございました」

 とりあえず、俺はお礼を言い直ぐに二人の目をみる。そして、人だかりから離れた場所を指先し歩き出した。

「…どうする?」

「…予想外だわ。…まあ、私達ならどうにか通れない事もないからなるべく一目に付かないように進みましょう」

「…あの、ちょっと良いですか?」

 彼女が直ぐに方針を決めると、ふと弟分は挙手し手の中に居る氣のネズミをこちらに見せて来た。…ん?

「…っ!もしかして、視て来てくれたの?」

「はい」

 すると、彼女は瞬時に察し彼はまるで当たり前の事をしたような顔で頷いた。…いや、本当に賢い子だ。

「…それで、何か分かった?」

「…その、そこら辺一帯が『ざわざわ』していました。…これって、『あれ』ですよね?」

 彼女の質問に、彼は直感的な答えを返しそして不安そうな顔で確認してくる。…つまり、この騒動は連中の仕業かもしれないという事だ。


「…あり得るわ。…はあ、最悪」

「…全くだ。……っ!?」

 彼女が歩み出した直後、遥か後ろから大きな何かが地面に落ちる音が聞こえた。

『…ん?…今、何か揺れなかった?』

『…へ?…あ、本当だ。…え、地震?』

 一方、他の旅人達は微かな大地の揺れを感じ不安になる。…そんな中、二人も冷静にそれぞれのやり方で何が起きているかを確認した。

「…はい?」

「…うそ、ですよね?」

 少しして、二人はとんでも無いものを見たような顔になった。…一体、どうしたのか?

「…友達の情報だと、大きな岩が一つずつ何処かに飛んで行ってるようです」

「…確か、岩が飛んでいる方向には何もなかった筈よ。

 …でも、驚きなのはたった一人でそれをやっているって事よ」

 すると、二人は本当にとんでもない報告を口にした。…そして、俺達は自然と頷き合った。

「決まりね」

「ああ」

「ええ、僕達も手伝いましょう-」

 そう言った俺達は、まず来た道を少し戻りそれから整備されている道から外れて、音のする方を目指した。

 勿論、手付かずの高原を移動する時は足に氣を溜めて素早く走る。


『-おりゃあああっ!』

 すると、少しして目的の場所から男性の雄叫びも聞こえて来た。…あ、もしかして。

「ふう~っ!こりゃ大変だな~っ」

 その時俺達は、とある予想をしていた。…そして、落石のあった崖に囲まれた場所に着くと汗だくになったふくよかな体型の男性が、落石の前にいた。

「…ん?…ああ、悪いな~っ!ちょっと、待っててくれ~っ!」

 そして、彼の方に近づくとこちらが声を掛ける前に彼は振り返り、申し訳なさそうに謝って来た。…多分、気配を感じたのだろう。

「あの、私達にもお手伝いさせて下さい」

「…ん~?

 -…ああ~。お前さん達、『良い闘士』か~」

 班長が手伝いを申し出ると、彼は不思議そうなこちらを見て来た。けれど、直ぐにほっとしたような顔になった。

「…ああ、やっぱり貴方もこの落石の『原因』に気付いていたんですね」

「ああ~。…そもそも、この辺りにこんな大岩は無いからな~」

「なるほど」

「流石、地元の人ですね」

「どうも~。

 んじゃあ、頑張ろうか~」

「「「はいっ!」」」

 そして、俺達は協力して岩の撤去を始める。だが、流石に彼と違って俺達は氣で強化してもこんな大岩は持てないので、やり方を考える必要があった。


「…あの、桃歌お姉さん。…『アレ』が使えないでしょうか?」

「…良いと思うわ」

 すると、仲間二人は何やら相談を始めた。…どうやら、秘策があるようだ。

「どうするんだ?」

「さっき、仁が休んでいる間に鍛練しているって言ったでしょう?

 その時に、根津先生の指導の元新しい『技』を幾つか編み出していたの」

「それを、使ってみようと思います」

「分かった。…なら、俺は少し修行しながら片付けてみる」

「うん。

 -それじゃあ、行くわよ」

「はいっ!」

 すると、二人は氣を練り上げていき風とネズミを生み出した。それから、二人は縦に並び後ろに立つ班長は弟分の手のひらの上にいるネズミに、素早く風を纏わせていく。

「「『合氣弾』っ!」」

『ちゅううう~っ!』

 そして、二人が息を合わせて叫ぶと風を纏ったネズミは大きな岩に向かって飛んで行った。

「…っ!?」

 次の瞬間、その弾丸は岩を貫通し大きな穴をあけた。…マジか。俺も、負けてられない。

 それを見た俺は、直ぐに雷の準備を始める。すると、僅かだが今朝よりも早くなっているような気がした。


『-良いぞ。後は、より強い想像が出来れば身に付くだろ』

(…そうか)

 すると、相棒は褒めつつ助言をしてくる。だから、俺はついこの間見た『雷』を思い出してみる。…実を言うと、この間まで雷を『怖い』物だと思っていた。

 多分、最初に力が出た時の事が原因だろう。でも、この間の闘いでこの力は単に誰かを傷付ける物じゃないと思うようなった。

 そして、今この力は自分達だけでなく道を通れなくて困っている人達の為になる筈だ。

『-っ!』

「(だから、俺はこの力を恐れない。そして、これからも誰かの為に使いたい。)……あ」

 雷の想像と共に強い決意をしていると、ふと右手が強い氣に包まれていたのでそっと目を開ける。

 -すると、右手は黄色い光に包まれていた。

『…今までの滞りが、嘘のようだな。やはりお前は、可笑しい奴だ。

 さあ、まずは-軽く-力を試してみろ』

 相棒はいつものように可笑しそうにしつつ、そんな事を言った。…まあ、とりあえず言われた通りに-。


「「-っ!?」」

「ふう~っ。…んおっ!やるな~っ!」

 本当に軽く岩を殴った直後、激しい音と共に岩は真っ二つに割れた。…当然、他の皆はびっくりしたり褒めて来た。

(…ま、マジか?)

『これが、我の力だ。…そして、今の技の名前は-雷拳-だ』

(…『雷拳』)

『では、次はより素早く撃てるようになれ』

(…分かった)

 すると、相棒は次の課題を出して消えた。そして俺は、またゆっくりと技を準備していく。

「「…っ」」

「さ~、オイラも負けてられんな~」

 それを見た他の皆は、慌てたりやる気を出したりしながら直ぐに作業を再開するのだが、とても順調に落石は消えていった-。

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