「-………。………っ」
襲撃から二日後。ようやく氣と体力が回復したので、俺は朝からいつもの修行をしていた。けれど、やっぱりそう簡単にいかないようだ。
「…っ!…じ、仁っ!?」
「…も、もう大丈夫なんですか?」
すると、桃歌と智一も離れの庭にやって来た。当然、二人は俺を見てびっくりし直ぐに心配してくれた。
「(…本当に、優しいな。)ああ、すっかり本調子だよ」
「…す、凄い」
「…もっと掛かると思っていたのに」
俺は、仲間二人の優しさに感動しつつ笑顔で返した。…それを見た二人は、余計に驚いた。
「…あ、ごめん。鍛練の途中だったのよね?」
「良いよ。
あ、せっかくだから今日は一緒にやるか?」
「…え?良いんですか?」
「良いも何も、俺達は仲間なんだから遠慮する事ないさ」
「「……」」
俺がそう言うと、二人は意外そうな顔をしたかと思ったら見合わせた。…何か、おかしな事でも言ったかな?
「…じゃあ、せっかくですからやりますか」
「はいっ!」
そして、二人は俺の隣に並び軽く身体を動かした後氣を練り始めていく。…まあ、良いか。
少し気になるが、変な感じはしなかったので俺も自分の修行を再開した。
「-ああ、此処に居た……おや、もう元気になったんだね?」
それから少しして、道場主もやって来た。…そしてやっぱり、道場主も俺を見て驚いた。
「はい、ご心配をお掛けしました」
「…いや、本当に良かったよ。
-さあ、そろそろ朝餉にするからおいで」
「「「はいっ!」」」
すると、道場主は安堵した様子になり朝飯の事を教えてくれた。勿論、俺達は直ぐに朝の修行を終えて離れに戻る。
「…あの人、やっぱり少し落ち込んでいるな」
「「…っ」」
その途中、ふと俺が道場主の様子に触れると二人は何とも言えない顔になった。…まあ、若い門下生達の半数が拐われたうえに熟練の方は殆どが深い怪我を負わされたのだから、落ち込むのは当然だろう。
「…良く、気付いたね」
「…まあ、村の大人達の事を良く見ていたからかな。
それと、何となく氣が沈んでいるように感じたのもある」
「…っ!」
「…流石ね」
「…どういたしまして。
-っと、モタモタしてたら飯が冷めちまうな」
「っ!そうね」
「ですね」
俺は、気分を切り替えて話を終わらせた。当然二人も、明るい顔になり俺達はそのまま居間に入った。
「-さて、改めて仁君に聞きたいのだがどのようにして卯の闘士を撃退したのだろうか?」
美味しい朝飯を食べ終えた後、俺達は道場主と対面していた。…そして、道場主は改めて俺が何をしたのかを確かめて来た。
「…えっと、『相棒』の言葉に従って『星獣解放』を行いました」
「………え?」
「…そ、それって、禁断の技でしたよね?」
なので、俺は正直に答える。…すると、仲間二人は信じられないといった顔をした。
「…やはりか。…まあ、でなければ今の君が卯の闘士と痛み分けになる筈もないな」
一方、道場主は納得していた。多分、ある程度予想はしていたのだろう。
「…仁、本当に身体は大丈夫なの?」
「……」
「だから、見ての通りだって」
そして、二人は本気で心配した顔でこちらん見て来た。無論、俺は笑顔で返した。
「…恐らく、星獣がかなり気を遣ったのだと思う。それに加えて、彼自身の氣が多かったから無事だったのだろう」
「…あ、そう言えば直前で氣装を解くように言われましたね。そして、雷を落とした直後にはいつの間にか居なくなってました」
「…嘘っ!?」
「…闘いの中で、氣装を解いたんですかっ!?」
すると、仲間二人は俺の行動にまた驚いた。まあ、当然の反応だと思う。
「…よく、星獣を信じたね?」
「まあ、信じるしかなかったので。…まあ、おかげでかなりしんどかったですが」
「…本当に、凄い氣の量だね。流石、闘士にななれるだけはある」
「…ありがとうございます」
すると、道場主は褒めて来たのでとりあえず頭を下げる。…しかし、心の中は複雑だった。
「だが、出来れば二度とその技を使ってはならない」
「はい」
「…まあ、それに頼らなくても良いくらい強くなれば良いのさ。
-そして、心強い仲間も頼れ」
「そうだよ」
「僕も、頼って貰えるように強くなります」
道場主が二人を見ながらそう言うと、二人は直ぐに返した。…その瞳には、強い意志と決意が宿っていた。
「分かってる」
「…ふふ。
-ならば、その心強い仲間は『多い』ほうが良いとは思わないか?」
「「「っ!」」」
道場主は俺達のやり取りを見て、優しく微笑んだ。…そして、そんな提案をしてきた。
「…例の『三人の闘士』の居場所が分かったのですね?」
「ああ。…本当は、昨日の夜に教えたかったのだがな。
まあ、こうして無事に情報を教えられたたのだから良しとしよう。
では、これを-」
「「「……」」」
道場主はそう言って、沢山の字が書かれた紙を机の上に置いた。…それには、丑と申と戌の闘士の情報が事細かに書かれていた。
「…凄く正確な情報ですね」
「この内の二人、即ち申と戌の闘士は此処と同じような家だからな」
「…なるほど。
あ、もしかして知り合いか?」
「ええ。同時に、この二人は私と同じ立場でもあるの」
「つまり、家の跡取りって事か。…どんな人達なんだ?」
「どちらも、大変素晴らしい方よ。そして、お互い凄く競争意識が強いわ」
「なるほど」
「…でも、まさかこの二人までもが闘士に選ばれていたとは思いませんでした」
「まあ、闘士として一人前になるまで口外しなかったのだろうね。実際、この情報はついこの間来たのだよ」
「まあ、当然の判断でしょう。もし安易に情報を出してしまっていたら、奴らに襲われていたかもしれない」
「あり得るな。…どうした?」
関係者同士がそんな話をしている一方、弟分は残り一人の名前をじっと見ていた。
「…この北村さんって方もしかしたら見覚えがあるかも知れません」
「「え?」」
「おや、そうなのか?」
「…えっと、多分この『北村牧場』の牧場主だと思います。
以前、この街や日向村に牛乳とお肉を売り来ているのを見た事があります」
「ほう」
「…でも、その時は修行中でしたので闘士だとは気付きませんでした」
「いや、私達も彼の事を見たがその時は普通の人だった。だから、恐らくお前が修行を終え村に戻った頃に力に目覚たのだろう」
「…あの、それから彼はまたこの街で販売に来た事はなかったのですか?」
「それがな、翌月には息子と思わしき若者達に変わっていたのだよ」
「…あ、日向村にも息子さんが来てました」
「…それも、『安全の為』でしょうね」
「ああ。恐らくは、彼の師匠である楠殿が知恵を与えたのだろう」
「…どこも、凄いですね」
「まあ、それだけ警戒しているって事よ。…けれど、今回のような事がまた起きるかもしれないわ」
「その通りだ。どれだけ策を立てしっかりと備えていても、今回のように不測の事態は起きるのだ。
だから、不測の事態を楽々と乗り越える為には日々成長するしかない」
「「「はいっ!」」」
「では、話はこれで終わりだ」
「「「はいっ!」」」
そこで話は終わり、俺達は客間に戻って旅立ちの準備を始めた-。