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第十話『対峙』・ 肆

「-っ!?」

 連中とやり合っていた私の耳に、激しい雷鳴が聞こえたので思わずそちらを見てしまう。

(…今のは、寅の技だ。…けれど、おかしい。だって、彼はまだ技を身に付けていなのに。

 それに、直前に聞こえた咆哮はまるで獣そのものだった。一体、何が起こったの?)

「…っ!?…あ、姉御の『使い』が居ねぇっ!?」

『はあっ!?』

『そ、そんなっ!?』

 直ぐにでも彼の元に駆け付けたいが、敵に隙を見せる訳にもいかなかった。けれど、雷が落ちて少しして敵は急に慌て始めた。

「(…まさか、卯の闘士が気を失った事で氣の獣が消えた?…何にせよ、好機っ!)

 -『風翔』」

「…っ!?しまったっ!?」

「『風壁・蓋』」

 考える事や不安な事はあるが、まずは敵を制圧する事が先決だ。だから、私は空に飛び風の壁を敵に向けて落とした。

『ふぎゃああああっ!?』

 直後、敵は情けない悲鳴を上げながら地面に叩き付けられた。なので、私も直ぐに地面に降り立つ。

「『風界』」

『…っ!?』

「『風止・凪』」

 そして、私は敵を見えない結界に閉じ込めた。その上で、中の空気を無くす。


『-…ぁ』

「『解』」

 当然、敵は直ぐに意識を失ったので即座に結界を解いた。これで、こちらの敵は片付いたので逸る気持ちを抑えて仁の元へ向かう。

『姉御ーっ!?』

『返事をしてくれーっ!』

 すると、裏山の方から敵の声が聞こえた。…やはり、彼が卯の闘士を退けたのだ。

(……え?)

 それだけでも不安は大きくなるのに、更に私の心をざわざわとさせる事が立て続け起きた。

 まず、裏山側の塀の前では年上の門下生達が皆倒されていたのだ。

『-お、おいっ!?どうなってんだっ!?』

 次に、どういう訳か門下生達が生活する寄宿舎から敵の仲間らしき奴が出て来たのだ。

『…っ!?葛西の跡取りっ!?くそっ、-失敗-してんじゃねえかっ!』

(…や、やられたっ!?闘士の班は私達を釘付けにしていたんだっ!)

 そして、敵は私に気付き非常に分かりやすく悔しい顔をした。…それを見て、私は今になって敵の策に気付いた。

『まずは、逃げ-』

「-…させる訳、ないでしょうがっ!

 風走っ!』」

 敵は直ぐに逃げようとするが、私は風の力を借りて素早く敵を追い抜いた。…そして、すかさず手を前に出す。

『風壁っ!』

『ぎゃっ!?』

 直後、敵は見えない壁に激突し悲鳴を上げた。勿論、私は容赦なくそいつらの頭に触れる。

『風止』

『…っ』

 すると、直ぐにそいつらも地面に崩れ落ちたのだが私はそこから動けなかった。…だって、仁の方に行くか門下生達の方に向かうかで迷ってしまったのだから。


「-も、桃歌さんっ!」

 けれど、そんな時弟分の声が聞こえたのでそちらを見ると、彼は心底慌てていた。

(…遅かった)

 それだけで、私は激しく落ち込んでしまう。そして、弟分は私の前で止まり報告する。

「…その、落ち着いて聞いてください。

 …どうやら、敵は二つの班で動いていたようで片方の班がかなりの門下生を連れて行ってしまいました」

「…そのようね。……ちょっと待って。全員ではなく、拐われなかった人がいるの?」

 弟分は悔しそうな顔で報告したので、私も悔しくなって来る。…けれど、どうやら運良く難を逃れた人が居るようだ。

「…あ、はい。…実は、師匠達の所に行く途中で『友達』が寄宿舎から走って来たので、念のためそっちにも分身と少しの友達を向かわせていたんです。

 …こんな事なら、もっと多く送っておくんでした」

「…そんな事ないわ。…むしろ、多く送っていたら敵は智一にも気付いていたかもしれない。

 それに、智一のおかげで助かった人が居るのだから誇って良いわ」

 弟分は予想不足で落ち込むが、私からすればとんでもなく良い活躍をしていたので、彼の頭を撫でながら褒める。


「…っ!…そう、ですか?」

「ええ。…っ!じゃあ、私は仁を助けてくるから智一は先生達にそちらで倒れている門下生の事を伝えて来て」

「えっ!?は、はいっ!」

 とりあえず寄宿舎の事は分かったので、また彼に伝令を頼んだ。当然、彼はびっくりしつつ来た道を戻って行った。

「-『風翔』(…お願い、無事でいてっ!)」

 そして、私は仲間の無事を祈りながら裏山に飛んで行く。…すると、程なくして仁を見つけるが直ぐに彼の異変に気付いた。

(…身体の氣が、極端に減ってる?…それに、この辺りだけ氣の残滓が濃いような?)

『-っ!くそっ!?もう来やがったっ!なんとしても、姉御を逃がすんだっ!』

 何が起きたのか分からず困惑していると、下の方から敵の声が聞こえた。…一体、どうやって撤退させたのかは分からない。けれど今は仲間を助ける方が先なので、私は直ぐにうずくまる彼の元に向かった-。



「-……っ!」

 敵の声が遠ざかるのに合わせて、桃歌の気配が近くの感じた。…まあ、彼女なら大丈夫だと信じていたが。

「『…っと。大丈夫っ!?』」

「…ああ、何とかな。…それより、道場の方はどうなった?」

 そして、彼女は俺の近くに降り立ち心配しながら駆け寄って来てくれた。…だから、俺は格好を付けて笑顔で返しつつ状況を聞いた。

「『…っ!…それが-』」

 すると、ほっとしていた彼女は凄く悔しそうな顔になりとんでもない事を教えてくれた。…マジかよ。

「『…あ、でも弟分のおかげで全員拐われずに済んだわ』」

「…いや、本当に兄貴分として恥ずかしいな」

「『…それは、私も同じよ。

 それに、貴方は卯の闘士を撤退させたのだから自慢して良いわ』」

「…『実力』で追い払った訳じゃないんだけどな」

「『…とりあえず、道場に戻ろうか』」

 彼女は称賛してくれるが、俺は素直に喜べずにいた。…すると、彼女は深く聞かずに慣れた感じで俺を立たせ肩を貸してくれた。

「…っ!あ、ああ」

 当然、俺はこんな時にも関わらず少し心臓が歓喜してしまう。…はあ、なんで彼女相手だとこんな風になっちまうんだ?

 俺は、疑問を抱きながら彼女に連れられて道場に戻った。


「-仁さんっ!桃歌さんっ!」

「…良かった」

 そして、道場の方に戻ると弟分と道場主が出迎えてくれた。…二人共、心の底から俺達の無事を喜んでくれた。

「…っ!…い、一体、何があったんですか?」

「…実は-」

「…待った。彼に何があったかは、後でも良いだろう?」

 すると、弟分は俺を見るなり凄く心配そうな顔で聞いて来たので、正直に話そうとする。

 しかし、道場主が手を叩き止めた。

「…そうだね。とりあえず、後の事は私達に任せて桃歌達は先に休みなさい」

「…っ。…分かりました」

「…すみません」

「…そうさせていただきます」

 二人の気遣いに、俺達は素直に従って離れへと向かった。…もっと、強くならないと。

「…焦っちゃ駄目だよ」

「…っ」

 その道中、更なる成長を決心していると彼女は優しく忠告して来る。…どうやら、焦りも顔に出ていたようだ。

「…分かってる。…まあ、どのみち師匠を見つけない事には成長のしようがないんだよな?」

「そうよ。…けど、まずはしっかりと休み事が大切よ」

「…休む時はしっかり休むのも、修行の一つですからね」

 すると、二人してそんな事を言って来た。…それだけ、焦っている顔をしているのか?

 それか、二人が心配になるくらい氣が減っているのかな?

 そんな事を考えている内に、俺達は離れに到着した。そして、そのまま俺は客間に運ばれ既に用意してあった布団に寝かされるのだった-。

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