「-…ふう~」
空が茜色に染まる頃、俺は敷地内の休憩場所で少し休みんでいた。
-あの後、俺達は男女に別れて尚且つ歳の近い門下生達と共に風呂に入り、それから皆で夕食を食べた。…いや、本当に家族みたいな生活をしてるんだな。
「…あっ、居た」
「お疲れ様です」
そんな事を考えていると、仲間二人がやって来て自然流れで隣に座って来た。
「…いや、しかしまさか服まで貸して貰えるとは思わなかったな」
「まあ、此処から巣立っていた人のお古だけどね」
今、俺達はゆったりした服を着ているのだがかなり着心地が良かった。多分、割りと良い素材を使ってるのだろう。…そして、きっと大事に保管していたんだろう。
「…本当、良い所だな」
「それは良かった」
「はい」
だから、俺はそんな感想を口にした。すると二人は、とても自慢気にしていた。……ん?
そんな穏やかな空気が流れるなか、不意に何かが倒れる音がした。
「…どうしました?」
「…っ!…智一、道場主や指導役の人達に伝令を頼む」
「……え?」
直後、門の方から複数の足音が聞こえた。…しかも、そいつらは不穏な感じがする金属のような物を所持している気がしたので、弟分に指示を出す。
「…っ!?…嘘でしょう?」
すると、すかさず桃歌は風を操り周囲の様子を探った。…そして、直ぐに信じられない物を見たような顔になる。
「…ま、まさか?…直ぐに行きますっ」
それを見た弟分は、素早く状況を理解し蔵の方に向かって駆け出した。…今、道場主達は例の調べ物をしてくれている。
「…行くわよ」
「…ああ」
そして、俺達は門の方に走り出しつつ瞬時に氣を練り上げていく。…っ!な、なんだ?
けれど、その最中門の外から強烈な氣を感じ身体に鳥肌が立った。
「「-っ!?」」
直後、でかい門に馬鹿みたいに大きな穴が開いてしまう。…なにが、起こった?
「「…っ!」」
思わずびびっていると、その穴から武装した奴らがぞろぞろと敷地内に入って来た。…やはり襲撃者は、刃龍の奴らだった。
「…止まれっ!」
『…っ』
そして、直ぐに奴らはこちらに気付き足を止める。…すると、纏め役は素早く小さな笛を吹いた。
「…っ!避けてっ!」
「…っ!?」
次の瞬間、相方は慌てて俺に指示を出した。なので俺は、すかさず左に走り出す。…直後、俺達の居た場所から凄い音が聞こえた。
「-…『おや、なかなかの判断ですね』」
「「……」」
そして、振り返るとそこからは土煙が上がっていた。…更に、そこから大人の女性の声が聞こえた。
「「……っ」」
やがて、土煙は収まり『敵』の姿がはっきりと見えた。…あ、あれは『ウサギ』?
-そいつは、頭から伸びる長い耳と穴掘りに向いてそうな手。…そして、強靭そうなでかい足を持っていた。
しかも、その大きさはまさに人間の背丈ほどあるのだ。…間違いなく、アイツは『卯』の闘士だ。
「「…纏身っ!」」
「っ!『姉御』、コイツら例の二人だっ!」
だから、俺達は氣装を纒い構える。…すると纒め役は、卯の闘士に向かって叫んだ。
「…『やはりでしたか。ならば、此処で討たねばなりませんね』」
「「…っ!?」」
奴は淡々とそう言い、素早く身を屈めた。…そして次の瞬間、奴は目の前から消えた。
「『寅っ!』」
「『分かってるっ!』」
直後、酉が叫ぶのと同時に俺は後ろに向かって走り出した。…直感的に、俺から潰そうとしていると気付いたからだ。
すると、予想通りほんの少し後にまた後ろから凄い音が聞こえた。
「『…ふむ、葛西の者よりは劣りますが侮れないですね。ならば、-あれ-を使いましょう』」
「「…っ!」」
けれど、奴はは苛立ちもせず冷静にこちらを評価してくる。…そして、奴はすっと左手を上げた。
「-っ!了解でさあっ!」
『っ!』
「「…っ!?」」
すると、合図を受けた纏め役は笛を短く三回吹いた。…直後、部下達は一斉に動き出し俺達を取り囲んだ。
「『寅っ!…くっ!?』」
当然、酉は包囲を突破しようするが妨害されているようだ。…つまり、俺は完全に孤立させられた。
「『覚悟なさい』」
「っ!」
そして、奴はまた跳躍の準備をしあっという間に目の前から消える。…このままでは、奴の強烈な蹴りを受けてしまうだろう。
「…っ!?」
だが、絶体絶命の俺の耳に頼れる味方の声が聞こえたので、俺は全速力でそちらに向かって走り出した。
『…っ!?』
「『邪魔だっ!』」
『ぐわああああっ!?』
ついでに、そのまま立ち塞がる部下共に突進してやる。当然、奴らは反応出来ずに何人かあちこちにぶっ飛んだ。
「…っ!」
『逃がすかっ!』
すると、また笛の音が聞こえた。…それを聞いた部下達は、俺を追い掛け始める。…っ!
だが、俺は何も考えずに逃げている訳ではないのだ。
『来たぞっ!』
『侵入者だっ!』
『…っ!?』
ふと、前方から道場の熟練者達が走って来るのが見えた。…どうやら、弟分はしっかりと役割を果たしたようだ。
「-『なるほど。どうやら、いつの間にか新たな闘士を味方にしていたようだ』」
「…っ!?」
だが、安堵したのもつかの間卯の闘士は俺にそんな事を言う。そして、熟練者達の前に着地しその凶悪な武器を向ける。
『…っ!?』
「『蹴激弾』」
直後、奴は目にも留まらぬ早さで蹴りを繰り出した。…なっ!?
『ぐわああああっ!?』
しかも、蹴りを放つ度に足の形した氣の弾丸が
熟練者達に向かって飛んでいく。…当然、彼らは文字通り蹴散らされていった。
「…(…ヤバい。間違いなく、桃歌と同じくらいの実力者だ。…このままじゃ、確実に負ける)」
『-…ああ、そうだろうな』
(…っ!?)
圧倒的な力の差を目の当たりにし、俺は戦意を失いそうになった。…すると、ふと相棒が目の前に現れた。
『…諦めるか?』
(…っ!)
そして、相棒は真剣な様子で問い掛けて来た。それを聞いた瞬間、ふと考えた。
-もし、俺達が闘う事を諦めたら此処の人達はどうなる?…きっと、若い人達は全員拐われ年上の人達は最悪武術家としての人生が絶たれてしまうかもしれない。
もし、俺達の相棒が敵に渡ったらどうなる?間違いなく、敵は仲間に力を与えるか手元に置いて封印するかもしれない。
もし、敵が野望を果たしたらどうなる?…その戦火はいずれ、俺の故郷をも襲うだろう。
だから、俺は諦めない。相棒も絶対に奪わせはしない。
そして、必ず奴らの野望を打ち砕いてみせる。
『-そうだ、それで良い。…ならば、此処は我を信じて欲しい』
(…っ!何か、策があるのか?)
『ああ。…ただし、この策は大量の氣を使い更には一時だけ我に全てを委ねる必要がある』
(…っ。…分かった)
『…良いのだな?』
(…それしかないのなら、やるべきだ。…それに俺は、自分の相棒が絶対に敵以外を傷付けないと信じている)
『…本当に、可笑しな奴だ。さほど時が過ぎていないのに、此処まで我を信じてくれるとは思いもしなかったぞ。
-ならば、我もその信頼に応えるとしよう』
「(…頼むぞっ!)…っ」
すると時は流れ出し、奴はこちらを向いた。だから俺は、瞳に強い意思を宿して奴を見た。
「『…おや、今のを見ても戦意を失わないとは驚きですね。
ならば、次は直接その身体に教えてあげましょう』」
『まずは、場を変えろっ!出来るなら、山の中に誘き寄せろっ!』
「(…分かったっ!)…っ!」
直後、奴はこちらに向かって蹴りを放とうとしたので俺は左にある塀に駆け出した。
「『…逃がしませんよ』」
『おらあっ!』
当然、敵はこちらを逃がさないように行く手を塞いだ。…こういう時は、『あれ』だよな。
俺は素早く息を吸い込み、それと同時に喉へ氣を集めた。
「『はあああああああっ!』」
「『なっ!?』」
『いぎゃああああああっ!?』
そして、氣で強化した咆哮を放つと奴らはその場に崩れ落ちていく。…しかし、俺達の事はあんまり正確には伝わっていないのか。
「『くっ!?』」
事実、卯の闘士は俺が最低限闘える事を知らなかったようだし。…まあ、以降は正確に伝わるようになるだろうな。
今後の予想をしながら、俺は素早く塀を越えてその先に広がる山に入る。…いや、道場の立地に助けられたな。
「『無駄な事は止めなさい』」
運の良さを感じていると、後ろから凄い速さで敵が追い掛けて来た。…こちらも相当な速さで走っているが、やはり『ウサギ』はヤバい。
(-…良し、そろそろ良いだろう。…次は、氣装を解くのだ)
(…なっ!?……分かった)
敵に恐怖を抱いていると、相棒は止まるように言って来た。…だが、その後信じられない指示を出した。
当然、俺は驚くが改めて相棒を強く信じて氣装を消す。
「『っ!何をするつもりか分かりませんが、これ以上-』」
「…うぐっ!?」
それを見た奴は一瞬だけ困惑するが、直ぐに蹴り構えを取る。…だが、直後どうでも良くなる事が俺の身に起きた。
「『…は?…え?…な、なんで宝珠が?』」
奴も、信じられないと言った反応をした。…どうやら、さっき俺を襲った激しい痛みは宝珠が外に出たからしい。
「…うっ、あっ……」
そして、今度は身体の氣が抜けていく。…そのせいで、俺は凄い脱力感を体験した。
「『…っ!?まさか、これは-星獣解放-っ!?』」
『ぐおおおおおっ!』
すると、敵は相棒のやろうとしている事を察して逃げようとした。…しかし、直後凄まじい氣を放つ白く大きな『寅』が俺の前に出現し雄叫びを放つ。
「『…嘘っ!?』」
すると、周囲は急に暗くなった。…しかも、まるで雨の前のように寒くなっていく。
『雷招』
「『しまっ-』」
そして、相棒が技の名前を口にした次の瞬間。空から、雷が落ちて来た。…けれど、どうやら遠くに落ちたのかそこまで耳がキーンとはしなかった。
「-あああああああああっ!?」
だが、『凄い耳』を持つ敵はその場に崩れ落ち激しくのたうち回っていた。しかも、あまりにも激しく動いたせいかゆっくりと山道を転げ落ちて行った-。