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第十話『対峙』・壱

 -そして、更に一日後。

「それでは、周防智一行って来ますっ!」

「…ああ、行っておいでっ!」

「…どうか、元気に帰って来てねっ!」

 村に朝が訪れる中、智一が決意に満ちた顔で出発を告げると、ご両親は一緒になって彼を抱き締めた。

 今日、智一はいよいよ生まれ育った村を旅立つ事のだ。…何でもう一泊したかというと、村総出で彼の送迎会をしたからである。

『…元気でなっ!』

『…手紙、書けたら寄越してくれよっ!』

 他の村人達も、涙ぐみながら送る言葉を掛けていく。…多分、村長の息子だからじゃなく心から別れを惜しんでいるのだろう。

「…智くん」

「…ううっ」

 一方、彼の幼なじみ達は本気で泣きそうな顔になっていた。…まあ、実際昨日は涙が枯れるまで泣いていたが。

「…絶対、帰って来るよ。

 -それまで、『お手伝い』の事はお願い」

『…っ。……うんっ』

 すると、智一は彼らに帰って来る事を約束したうえで『伝令役』の事を代理を頼んだ。

 どうやら、彼らには自分の不思議な力をこっそりと見せていたようで、しかも自分が病気とかで動けなくなった時の為の準備を、日頃からしていたようだ。…本当、驚くほどしっかりしてるな。


「…では、お世話になりました」

「…まさか、村長さんのお家に招いて頂けるとは思ってませんでした」

「なに、貴方達は村の恩人だ。ならば、もてなすのが筋というものだ」

 そして、智一とご両親が別れを済ませたので俺達は旅立ちを告げる。…実は、昨日は村長さんのお家に泊まられて貰ったのだ。当然、食事だけでなくお風呂まで頂いてしまった。

「…それでは、皆さんお元気で」

「ありがとうございました」

『二人も、どうか元気でっ!』

『しっかりねっ!』

『智一君の事、宜しくお願いっ!』

「「はいっ!」」

 桃歌が挨拶すると、村の人達は俺達も暖かく送り出してくれた。…本当、この素敵な村を守れて良かった。

「「……」」

 俺が達成感を抱いていると、彼女と弟分もそんな顔をしていた。…そして、彼女が歩き出したので俺と弟分も後に続いた。


「-…本当に、素敵な村だったわね」

「…はい。自慢の故郷です」

 それから、村が見えなくなるほど進んだ時ふと彼女は優しい顔で村の感想を言った。するとすかさず、弟分は嬉しそうに返す。

「…それじゃあ、改めて呂奈の街を目指して行こう」

「…そこには、何があるんですか?」

「実はね-」

 弟分の質問に、彼女は分かりやすく説明していく。そして、それを聞いた彼はしっかりと理解し頷く。

「分かりました」

「…本当に、賢いわね。

 それだけでなく、戦いの中でも凄く機転が利くし…」

「…どうも」

 すると、ふと彼女はそんな事を言う。…当然だが、ちゃんと彼と彼女は手合わせをしているのだ。…しかも、意外な事に彼女はかなり彼の技に翻弄されていた。

 だが、やはり経験と実力の差で彼は彼女に一撃入れる事は出来なかった。

「…まあ、俺達はこれから強くなっていけば良いんだよ」

「っ!はいっ!」

「そうね。…ただ、少し急いで貰う必要はあるけれど」

 俺の励ましに、彼は元気良く返事をした。すると、彼女はふと真剣な顔でそんな事を言う。

「…それほどまでに、敵は強大なんですね」

「…ええ。私も、実家とか伝手を使って調べたのだけど恐らく最低百以上の人員がいるわ」

「…マジか」

「しかも、組織名の由来となっている『辰の闘士』を筆頭に、四人の闘士が敵の側にいるの」

「……」

 すると、彼女は今まで調べた情報を教えてくれた。…当然、弟分は言葉を失った。


「…なるほど。相棒と出会いを見ていた凄く強そうな奴は辰の星獣か」

「…っ!?…まさか、あの声が?」

「…間違いないわ。…そして、現在判明している敵の闘士は『卯・巳・亥』よ」

「…本当、良く調べているな(…多分、俺の故郷を襲った奴らは亥の部下だろう。)」

「…ありがとう。

 だからね、二人になるべく早く『私の所』にまで上がって来て欲しいの」

「…っ!分かった」

「分かりました」

「それと同時に、奴らに見つかっていない闘士を探し仲間にする必要もある。

 後、出来れば大量の構成員を相手にする手段や味方も欲しいかな」

「…なるほど。確かに、必要だな」

「…でも、何処にそんな人が?」

「それを探す為にも、まずは呂奈に行くのよ」

「…え?」

「どうした?」

「…いや、実は呂奈の街に行くのは久しぶりなんです」

「…へ?」

「…やっぱりね」

「…?」

 それを聞いた瞬間、桃歌はため息を吐き頭を抱えた。…っ!もしかして、日向村を訪れていた旅の武術家と彼女の知り合いって同じ人か?


「…ねえ、智一。

 貴方の村に来た旅の武術家って、『根津』という名前かしら?」

「っ!は、はい。

 -『根津冬子』さんという方でした」

「……」

 弟分が名前を告げると、彼女は言葉を失ってしまう。…多分、その人が物知りのお婆さんなのだろう。

「…ごめんなさい。

 えっと、彼女と出逢った時にはもう力を宿していたのね?」

「は、はい。それに気付いた根津先生が、両親に事情を説明し直ぐに呂奈の街で修行する事になったんです」

「…良く、ご両親が納得したな」

「…実は、先代の村長が『大戦』の経験者らしくその時の事を書いたする日記が残っていたのです。

 当然、『闘士』の事も書いてあったんです」

「…なるほど、先代の村長さんが。

 ちなみに、どちらの関係者?」

「えっと、父の方になります」

「…すげえ宿命力だな」

「…はい。

 あ、それで大体四年くらい根津先生の道場で修行をしていたんです」

「…はあ。お婆様も、教えてくれれば良かったのに」

 すると、彼女はまた深いため息を吐いた。…しかし、どうしてその根津先生とやらは彼女にそんや大事な情報を教えなかったんだ?


「…まあ、理由は直接本人に聞くとしよう。

 -…さて、少し話題を変えても良いかな?」

「ん?ああ、良いよ」

「大丈夫です」

「じゃあ、仲を深める為にもお互いの事をいろいろと話そう」

「っ!賛成」

「はいっ!」

「良し。まずは、好きな事から話そう。

 …私は、鳥を見るのが大好き。故郷の中に居るコも、野生のコもね」

「そういえば、白の都は『鳥の街』でもあったな」

「へえ~。…あ、じゃあ次良いですか?」

「ああ」

「ありがとうございます。…僕は、走るのが好きです。

 修行をしていた頃は毎朝街の中を走っていたんですが、季節毎に違う景色が見れるので苦じゃなかったです」

「分かるっ!」

 次に、弟分が話すと直ぐさま彼女は同意した。さて、次は俺の順番だ。


「で?仁は?」

「…そんなに期待するなよ?

 俺は、知らない事を知るのが一番好きだ」

 すると、彼女や弟分は期待した目を向けて来たので俺はそんな前置きをしつつ話す。

「「…っ」」

「…?外の世界の事や、役に立つ事。特に、蒸気技術の話題とかはいつもワクワクしていた」

「良いね」

「はい」

 すると、二人は良い笑顔を浮かべた。…そんなに、良い事を言ったつもりはないんだが。

「じゃあ、次は-」

 そして、彼女はニコニコしながら次のお題を出した-。


 ○


 -そして、そのまま雑談しつつ街道を進んで行くと大きな壁が見えて来た。…その都は、港と同じくらいの大きさがあった

「…ふう~。…あれが、呂奈の街か」

「そうです」

「じゃあ、まずは知り合いの道場に行きましょう」

「分かった」

「はい」

 街の大きさに驚いていると、街に詳しい桃歌が先頭に立った。勿論、俺達は素直にその後ろに続いた。

 それから、俺達は話しながらどんどん街の奥に向かって行く。この辺りになると、旅人向けの建物は殆ど見掛けなくなり普通の家が建ち並んでいた。

「…っ。あれです」

 すると、そこの一角に大きな建物があり彼女はそこを指差す。…でかいな。


「-ん?…っ!桃歌さんっ!?」

「お久しぶりです」

 呆気にとられながら道場の門に近付くと、そこには道着を身に付けた二人の男性が厳しい顔で門番をしていた。

 しかし、彼女が挨拶をすると二人はとても驚いた顔をした。…てか、手紙とかで知らせてないのか?

「いや、成長なされましたね」

「ありがとうございます。

 あ、後ろに居るのは私の『仲間』です」

「「…っ!?」」

 彼女がそんな紹介をした直後、門番の人達は驚愕してこちらを見る。…まあ、そりゃ二人も闘士が居れば驚くよな

「…なんと」

「…見事、お役目を果されたのですね」

 そして、二人は年下の彼女に尊敬の眼差しを向けた。…なんか、不思議な関係だな。

「…っと。それでは、どうぞお入りください」疑問に思っていると、二人は協力し片方だけ門を開けてくれた。

「失礼します」

「「失礼します」」

 なので、俺達は素早く敷地内に入り彼女の案内で敷地の端にある離れに着いた。

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