「どうしたっ!」
「『小さい何か』が、大量に出ましたっ!」
「…なに?……ま、まさか?」
「『はあっ!』」
「うおっ!…は、残念だったなっ!」
俺は、隙を見せた纏め役に急速に接近した。しかし、そいつは間一髪で避けてしまう。
「『それはどうかな?』」
「…あ?…っ!?」
けれど、俺は馬鹿にするような笑顔を浮かべながらそいつの右手を指差してやる。…その中には、笛だったモノあった。
「…て、てめぇ」
当然、そいつは明らかに動揺していた。やはりあれがないと、指示を出せないようだ。
「『今だっ!』」
「『風止』っ!」
「っ!?」
「しまっ-」
なので、俺は素早く上に向かって叫んだ。直後桃歌な急速に降下し連中に風の兜をかぶせていく。
「くそっ!うぎゃっ!?」
「ぎゃっ!」
そして、彼女に矢を向けようとした奴らには氣のネズミが襲い掛かっていた。…だから、俺は素早く兜の力を強くして一気に駆け出す。
「くっ!?」
すると、纏め役は例として玉を取り出し地面に投げつけようとする。…しかし、その直前で中くらいのネズミが奴に襲い掛かる。
「ぎゃあっ!?」
「『せいっ!』」
ネズミに反対の手を噛まれた男は思わず悲鳴を上げたので、俺はすかさずそいつの鳩尾目掛けて拳を打ち込んだ。
「ぐべあああああっ!」
当然、拳は奴の腹にめり込み直後そいつは後ろにぶっ飛んで行く。そして、近くの大木にぶつかった。
「…か、頭がやらっ!?」
「『戦場で気を抜くなと教えて貰わなかったのかしら?』」
それを見た部下達は驚愕し、それを好機ととらえた彼女は次々と奴らを無力化していった
「…ふう。今回は、ちょっと冷汗が出たわね」
「…まさか、闘士対策の道具を持ってる部隊までいるとは」
「…私も、初めて見たわ。
-でも、『彼』が助太刀してくれたおかげでなんとかなったわね」
「…ああ」
そして、俺達は後ろを振り返る。…すると後ろにある木の上から、智一少年が降りて来た。
「……」
「…はあ。賢い子だと思っていたけど、まさか年上の言い付けを破るとはね?」
「…っ。ご、ごめんなさい」
「まあまあ。…実を言うと、俺は助太刀してくれると思っていたんだ」
桃歌のお説教に、彼はしゅんとしてしまう。けれど俺は、そんな彼女を止めつつ自分の予想を語った。
「「……え?」」
「だって、君は勇気のある奴だから。
もし、臆病な奴なら分身に伝令を任せれば良い筈だ。…でも、君は自分で俺達に敵の事を教えてくれた」
「…あ。…そして、一度は私達に任せてくれたけど林からの音を聞いて、また勇気を奮い起こしてくれた。
そういう事ね?」
「…っ」
すると、彼女は厳しいお説教の顔わ、優しいものに変えた。…当然、彼は少しほっとした。
「…さて、後片付けをしよう。
悪いけど、村の大人達に沢山の縄を持ってくるように伝えてくれないか?」
「…っ!はいっ!
-皆、集合っ!」
なので、俺は彼に伝令を頼んだ。すると、彼は元気良く返事してネズミ達に指示を出した-。
○
-そして、翌朝。俺達は村長の家に招かれていた。
「本当にありがとうございました。貴方達が居なければ、今頃村は大きな被害を被っていた事でしょう」
「ありがとうございます」
「…恐縮です」
「…右に同じくです」
村長と奥さんに深く頭を下げられた俺達は、緊張しながら感謝を受け取った。
「…ああ、そうだ。
捕らえた賊ですが、貴方達のご指示通り厚大の街に応援を頼みました。恐らく、昼前には来てくれるかと」
「…そうですか」
すると、村長はそんな事を教えてくれた。ちなみに連中は、身ぐるみ剥いだ状態で村の北にある倉庫の中に放り込んである。
「…それにしても、まさかお二人も『息子』と同じ力を持っているとは思いもよりませんでしたよ」
「……っ」
そして、村長は改めて同席している智一を見ながらその事を口にした。…そう。なんと彼は村長夫妻の子供だったのだ。通りで、しっかりしてる訳だ。
「…本当に、驚きました。
けれど、もっと驚いたのはあの子が勇気を奮い起こして貴方達に助太刀した事です」
「……」
彼の左に座る奥さんは、本当に驚いた様子で息子を見た。…まあ、大人しそうだからな。
「…正直、私達も彼が来なければ危なかったでしょう」
「…改めて、ありがとう」
「…どういたしまして。……っ」
そして、俺達は改めて彼を褒めたり感謝を伝えたりした。
すると、彼はぺこりと頭を下げた。…けれどその顔は照れているというより、何かを躊躇っている顔だった。
「…ほら、お前から言い出せないでどうするんだ?」
「…私達はもう、『覚悟』を決めているのよ」
「……?」
「…(ああ、そういう事か)」
それを見たご両親は、彼を応援する。…その瞬間、俺だけは彼の『決断』を察した。多分、それを経験しているからだろう。
「…はい。
-二人に、お願いがあります」
「…何かしから?」
「……」
「…どうか、僕も二人の仲間にしてください」
そして、ついに彼はその言葉を口にし深く頭を下げて来た。…すると、彼女は素早くご両親を見る。
「…私達からも、お願いします」
「…っ!…分かっているのですか?私達と共に行動するという事は、必然的に敵に狙われてるという事ですよ?
正直、私達はまだまだ未熟者で自分の身を守るので精一杯です。…ですから、ご子息を守る余裕はありません」
ご両親からも頼まれた彼女は、驚愕しつつ予想出来る危険を口にした。…更に、遠回しに足手まといだとも言った。
「…すべて承知の上です。
それに、この子は貴方達のように強くなれるのでしょう?」
「…っ!」
けれど、ご両親は既に覚悟を固めていて穏やかにそう返した。その上、驚く事を言った。
「…もしかして、村長さんは彼の力の事を知っているのですか?」
「…いいえ。
この子の力の事は、たまたまこの村に立ち寄っていた『とある武術家』から聞いたのです」
「…っ!そうだったんですか(…もしかして、彼女の知り合いか?)」
「……。…確かに、彼はまだまだ成長出来ると思います。
けれど、そうなればますます敵は恐るべき刺客を放ってくるやもしれない。…そうなれば、ご子息は貴方達の元に帰って来れなくなるかもしれません。
それも、覚悟の上ですか?」
そんな予感を立てつつ彼女を見ると、彼女は少しだけ驚いていた。けれど、あくまで彼女は異を唱え続けた。…まあ、彼女の意見も良く分かる。実際俺達だって、この先無事に旅を続けられる保証はないのだ。
「…ええ」
「…はい。
-私達は、いやこの村は今日まであんな恐ろしい連中と無縁だと思っていました。
けれど、実際に被害に遭いかけて自分達がいかに愚かだった事と痛感しました。…そして、もしあんな連中が恐るべき目的を果たしてしまったら、間違いなくこの世はかつての戦乱以上の混乱に包まれるでしょう」
「…っ」
村長さんは、冷や汗を流しながら恐ろしい未来を告げた。…多分、『武術家』から連中の目的を聞いたのだろう。
「…けれど、その力を正しく扱える貴方達ならばきっと奴らを倒せる事でしょう。
その為には、同じく正しい心を持った仲間が必要ではないのですか?」
「…っ!それは…」
そして、村長さんは鋭い指摘をしてきた。…当然彼女は、困った様子になる。
「…確かに、この子が帰って来ないかもと考えると夜も眠れなくなるかもしれません。
ですが、その事を恐れ宿命を背負った息子をこの村に閉じ込めてしまえば、敵に勝てる可能性はきっと低くなると思います。
そうなれば、夫が言う恐ろしい未来は現実のものとなり、この平和な村も戦乱の炎によって喪われてしまうでしょう」
「…あ」
更に、奥さんは不安を抱きつつも最悪の結末を予想した。…そう言われた彼女は、はっとした顔になった。
でも、確かに彼を仲間にしなければ二人の予想した未来が訪れてしまうかもしれない。…いや本当に、凄い覚悟だと思う。
だって、最悪の未来にならないように最愛の息子を闘いの旅に送り出そうというのだから。
「…そこまでの覚悟があるのなら、最早私は何も言いません」
「…ですね。…じゃあ、これから宜しく」
「っ!はい、宜しくお願いしますっ!」
こうして、俺達は心強い『弟分』を仲間に迎えるのだった-。