「-……」
そして、時は流れて夕方。俺は部屋の真ん中で集中していた。
『…良し。それでは、先程言ったような想像をしてみるのだ』
(……)
俺の氣の昂りを見ていた相棒は、そんな事を言う。…なので、俺は相棒の象徴である雷の力を手のひら集める想像をした。
(……っ。……あっ)
すると、手の中に小さな光の玉が出現した。けれど、それは直ぐに消えてしまった。
『…まあ、最初はそんなものだ。
また、やってみるのだ』
(……っ)
相棒がそう言ったので、俺はまた想像した。するとまた、光の玉が現れるが今回も直ぐに消えてしまう。
(……っ!)
そしてまた想像をしようとするが、その際氣の減りが少し多い事に気付いた。…どうやらこの技は、氣をたくさん使うようだ。
『…気付いたか?』
(…ああ。…でも、まだ余裕がある)
『ふふ。修行の成果が出ているな。…おや』
(…ん?)
相棒がドアの方を見ると、ノックの音が聞こえた。…どうやら、また彼女が来たようだ。
「…はーい。……って、どうした?」
俺は修行を一時止めてドアに向かい、静かに開ける。…すると、真剣な顔をした桃歌が俺の部屋の前に立っていた。
「…これを見て」
「…っ!?」
そんな彼女は、直ぐに部屋に入ると右手を差し出して来た。…その手には、昼間見つけた氣のネズミが居た。
『ちゅ~っ!?』
しかも、そいつは何だか慌てているような気がした。…っ!
その瞬間、俺は嫌な予感がして彼女の顔を真剣に見る。…当然、彼女はこくんと頷いた。
「…はあ、最悪だ」
「…全くだわ。…とりあえず、宿の前に彼が来ているらしいから行こう」
「…ああ」
なので、俺達は気持ちを闘いに切り替え準備をしながら部屋を出た。…っ!
「…あ、あの、どうかしましたか?」
『……』
そして、宿の外に出ようとすると不安そうな顔をしている経営者と従業員達に出くわした。多分、ネズミが『危険』を伝えたのだろ。そして
既に、村中にも伝わっている筈だ。…本当、優秀な伝令役だ。
「…少し『嫌な予感』がするので外の様子を確認して来ます」
「…っ!?」
『……っ』
すると、経営者や従業員達は更に不安になってしまう。しかし、直ぐに彼女は自信に満ちた笑顔を浮かべた。
「ご安心して下さい。
私達が、必ずやこの村の方々をお守りいたします」
『…っ』
それを聞いた皆さんは、じっとこちらを見つめて来た。…だから、俺も笑顔を浮かべて口を開く。
「…どうか、お任せ下さい」
『…っ!』
すると、皆さんから少しだけ不安が消えた。多分、俺達を信じてくれたのだろう。
「…では、行って来ます」
「…行ってきます」
「…どうか、お願いいたしますっ!」
『…お願いしますっ!』
「「はいっ!」」
そして、皆さんの応援を受けた俺達は意を決して外に出る。…さて、彼はどこにいる?
『ちゅ~っ!』
「「…っ!」」
そんな思いを乗せながら、彼女の手の上に居るネズミを見つめる。…すると、ネズミは彼女の出から飛び出し宿の裏手に向かって走り出したので、俺達は直ぐに駆け出し後を追った。
「-…っ」
「「………」」
そして、俺達は合流し互いに見つめ合う。…その顔は宿の人達以上に不安そうで、またその小さな身体ははっきりと震えていた。
「…まずは、君の名前を聞いて良いかな?」
そんな彼に、桃歌は昼間の時のように目線を合わせ名前を聞いた。…すると、彼はゆっくりと口を開く。
「…僕は、周防智一です。…えっと、『子』の力を持っています」
「…そう。…私は、葛西桃歌。酉の力を持っているの」
「…俺は、木之本仁だ。寅の力を持ってる」
「…桃歌さんに、仁さんですか。…やっぱりお二人も、僕と同じ力を持ってたんですね」
なので、俺達は名前と星獣を名乗った。…すると彼は、とても納得したようだ。
「…もしかして、気付いていたのか?」
「…はい。…お二人が、雑貨屋さんで買い物をしている時に」
「…マジか」
「…凄い才能だわ。
氣の獣や分身を生み出すだけでなく、それらを通じてこちらの正体を看破するなんて」
彼の言葉に、俺は単純に驚き彼女は彼がどれだけ凄い事をやってのけたかを軽く解説する。
「…じゃあ、敵に気付いたのもその技のおかげか?」
「…はい。
実は、僕は友達…氣で作ったネズミを村の周辺に放っているんです」
「「…っ」」
すると、彼はまた凄い事を言った。…いや、末恐ろしいな。多分、旅人が来た事を素早く伝える為だろう。
「…その友達が、この村に来る怪しい連中を見つけたのね?」
「…はい。…しかも、全員武器を持っているうえに微かに氣を纏っていたのです」
「…はあ、決まりだな」
「…間違いないわね」
「…もしかして、お二人は敵の事を知っているんですか?」
それを聞いた俺達は、深いため息を吐いた。そんな俺達の反応を見た彼は、当然の疑問を口にした。
「…ああ。…奴らは、刃龍同盟と呼ばれるヤバい連中だ」
「……え?…た、確か、蒸気技術ある所を壊したり、いろんな所から大人を連れ去っていく人達でしたよね?」
「…良く知ってわね。…まあ、嫌でも耳に入ってくるか」
「……。…さて、そろそろ切り替えようか?」
彼女は、子供の彼が正確な情報を持っている事に驚くがそれだけ噂が広まっているのだと痛感した。…一方、俺はなんとなく彼の素性を察しつつパンと手を叩き場の空気を入れ替える。
「…そうね。
あ、敵は何処から来るか分かる?」
「…えっと、南の方からです」
「分かったわ。
-じゃあ、此処から先は私達に任せて君は宿に隠れていて」
「…っ」
すると、彼女は微笑みながら彼に避難するように伝えた。…まあ、当然の判断だな。
いくら才能があり凄い技を使えたとしても、彼はまだ子供だ。流石に危険過ぎる。
「…分かり、ました」
無論、彼も分かっているのか素直に頷き入口のほうに掛けて行った。…さて、『どうなる』かな?
「…さあ、行こうか」
「…了解」
俺は、彼の背中を見ながらとある予想をした。そして、彼女と共に言葉を紡ぐ。
「「『纏身』っ!」」
直後、俺達の身体は氣装に包まれた。それから素早く敵の居る方へと向かった。
『-っ!?』
すると、程なくして林の中で連中と出くわした。…数が多いな。
「な、なんだこいつらっ!?」
「いや、それよりもどうして俺達の事をっ!?」
一方、向こうは夜襲が読まれた事にかなり驚いていた。…なので、俺は無言で駆け出す。
「っ!?迎撃っ!」
『り、了解っ!』
そのまま一方的に攻撃出来るかと思ったが、敵の纏め役が素早く指示を出し部下達は武器を構える。
「『はあっ!』」
無論、俺は慌てずに右手に氣を集め鋭く大きな爪を作り出し、一番近くに居る刀を持った奴にそれをお見舞いしてやる。
「はっ!馬鹿がっ!
-……は?」
当然、そいつはこちらを馬鹿にして来る。しかし直後、自慢の長刀をゴミにされたそいつは馬鹿面をした。
「…っ!闘士だっ!」
「ば、馬鹿なっ!先の村に居る奴って、小さなガキの筈だろっ!?」
「…っ(…こいつら、彼も狙っていたのか。多分この村の不思議な噂も、奴らに伝わっていたんだろう)」
連中がこぼした重要な情報に、俺は予想を立てつつ次の奴に迫る。…けれど、その時纏め役は小さな笛を素早く取り出し吹いた。
『…っ!』
すると、部下の何人かが小さな煙玉のような物を取り出し力強く地面に投げつける。…またあの煙幕か?だが、甘-。
直後、それが地面にぶつかり眩い閃光と大きな破裂音が発生した。
「…っ!?……っ」
当然、目と耳を強化していた俺はその場でうずくまるほどの影響を受けてしまう。…くそ、氣装の対策をしている奴らが来るとは。
「-『風塀』」
『ちいっ!?』
すると、上に潜んでいた桃歌が風の塀を出し連中の足を止める。…本当、頼りになるな。
「…っ!葛西の跡取りまで居るとはっ!
ならば、『あれをやる』っ!」
けれど、纏め役は怯まずに笛を二回吹いた。すると、部下達は何かをし始める。…良し。
とりあえず、俺は兜の力を抑えて頭を襲う痛みを和らげる。これで、少しはまともに動けるだろう。
「…っ!」
直後、複数の矢が放たれる音が聞こえた。…その瞬間、俺の頭の中に嫌な予感がしたので俺は氣を喉に込める。
「『守りを消せっ!』」
『っ!?』
「…っ!」
すると、お返しは成功し奴らはびっくりした。一方、彼女は俺を信じ塀を消し矢を回避していく。
「ちいっ!?機転が利くなっ!ならば、『こんなのは』どうだ?」
当然、纏め役は苛立ちながらまた笛を吹こうとする。…さて、どうしたものか?
「-ぎゃっ!?」
「いでぇっ!?」
確実に追い込まれる予感がした時、ふと何処かから悲鳴が聞こえた。…ああ、やっぱり『来てくれた』か。