「-あ、こんにちはっ!」
『こんにちはっ!』
「「こんにちは」」
そして、村に到着すると入り口の辺りで遊んでいる子供達と出くわした。…見たところ、十歳より下かな?
「えっと、私達は旅をしているんだけどこの村に宿屋さんとかってあるかな?」
「え、お姉さん達旅人さんなの?」
『へぇ~っ!』
すると、桃歌が子供達に目線を合わせ宿屋の事を聞いた。多分、子供との話す事に慣れてるのだろう。
一方、子供達は興味津々といった反応で俺達を見て来た。…やっぱり、こういう所だと俺達みたいなのは珍しいんだな。
「宿屋さんなら、村の広場ありますよ」
「本当?…良かった」
けれど、最初に声を掛けて来た男の子は態度を変えずに広場の方を指差した。それを聞いた彼女は、少しほっとしていた。
「ありがとう。…あ、目印とかあるかな?」
「えっと、赤い屋根のお店です。
そのお店だけ、背が高いから直ぐに分かると思います」
目印を聞くと、彼はとても役立つ情報を教えてくれあ。やっぱり、歳の割に凄くしっかりしているようだ。
「…本当にありがとう」
「じゃあね」
「はい」
『さようなら~っ!』
そして、子供達と別れて広場へ向かう。すると直ぐに、彼が教えてくれた目印が見えた。
「…あの子、随分としっかりしてたわね」
「…ああ。まあ、多分家でも下の子とか居るんだろう」
「なるほど」
すると、彼女は先程の彼に感心していた。なので、故郷での経験からそんな予想を立てると彼女は納得した。
「「-こんにちは」」
「いらっしゃいませ~っ!」
宿に入ると、受付に居る女性が返事をしてくれた。どうやら、待たずに済むようだ。
「何日お泊まりですか?」
「一泊だけお願いします」
「畏まりました。では、お一人銀貨十枚となります」
すると、女性は宿泊費を言ったので俺達は自分の分をそれぞれ出した。…しかし、港の素泊まり宿と同じ値段か。でも、宿がここしかないとなるとご飯の金額も含まれるのか?
「はい、確かに。
それでは、こちらがお部屋の鍵です」
そんな事を考えていると、女性はカウンターの下からトレーを取り出した。…そこには、質素な鍵が乗せられていた。
「(あれ?後ろから取らずに、直接出した?まるで、俺達が来るのを知っていたみたいだ。)ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「ああ、そうだ。
-お風呂は、夕食の一時間後くらいに出来ますので」
「「…っ!」」
さらに、女性はお風呂が沸く時間までも告げてきた。…これは、どういう事だろうか?
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
「「…はい」」
凄く気になるが、とりあえず俺達は鍵を取り自分の部屋に向かった-。
「-…ふう~」
それから、宿で昼食を済ませた俺達はそれぞれの部屋で休んでいた。…いや、まさかこれだけのサービスを港の素泊まり宿と同じ値段で受けられるとはな。
しかも、昼食も暖かみがありお腹いっぱいになるぐらいの量があった。
「……っ!どうぞ~」
凄く楽しみな反面、先程の事で彼女と話したいと考えた。…すると、凄く良いタイミングでドアがノックされたので直ぐに返事をする。
「おじゃまします」
「いらっしゃい」
そして、彼女は静かにドアを開け一礼しそれから丁寧に閉めた。…道場では、礼儀作法も教えているのだろうか?
「…っと」
そんな事を考えていると、宿が用意した部屋着に身を包んだ彼女は空いてる椅子に腰を下ろした。…そういえば、旅衣装以外を見るのは初めてだな。
「…?どうかした?」
「…っ!(…いかんいかん)
…話しは、さっきの事だよな?」
どうやらじっと見ていたようで、彼女は不思議そうに首を傾げた。なので、俺は直ぐに気持ちを切り替え本題に入った。
「正解。…仁はどう思う?」
すると、彼女は真面目な顔になりこちらに意見を求めて来た。
-実は、先程俺達の元にわざわざ村長さんが挨拶に来たのだ。…それだけでも驚きだが、なんと村長さんは俺達が部屋に入って直ぐにこちらに来たのだ。
当然、誰かが伝えに行った様子もなかったし…そもそも俺達がこの村に訪れたのを知っているのは、入り口で会った子供達だけだ。
例え、その子達が伝えたとしてもあんなに早くは来ない筈だ。
「…多分、桃歌の小鳥みたいな伝令役が居るんだろう。…でも、彼はそんなの奴の姿や気配は見つけていないんだよな?」
「…その通りよ」
俺が確認すると、彼女はこくんと頷いた。…つまり、かなり特別な方法を使っているんだと思う。
「…やっぱり、宿屋の人に聞いてみたいわね」
「…だな」
という事で、俺達は部屋を出て宿屋の受付の人に聞いてみる事にした。
「すみません、ちょっと良いですか?」
「はい、何ですか?」
「…この村って、雑貨屋さんはありますか?」
そして、彼女は当人に質問をしてみる。…にしてめも、上手い聞き方だな。これなら、変に思われる事なく『仕組み』が分かるかも。
「はい、ありますよ。何をお探しですか?」
すると、受付の人は慣れた様子で対応してくれた。多分、そういう客が沢山いたんだろう。
「えっとですね-」
勿論、彼女は自然な感じで旅に必要なちょっとした物を挙げていく。…あ、もしかして港で買うよりも安いのかな?
「以上です」
「大丈夫です。今仰いました商品は多分あると思います。
あ、雑貨屋さんは宿を出て左手の方にありますよ。目印は、青い屋根です」
「ありがとうございます。
じゃあ、行こう」
「ああ」
そして、受付の人は案内までしてくれたので俺達は宿屋を出た。…さあ、何が起こるかな?
「…じゃあ、『耳を研ぎ澄ませながら』行こうか」
「…了解」
少し緊張しながら氣を練り上げていると、彼女は合図を出した。なので、俺は氣の兜を装備する。
「「-っ!」」
直後、猫より小さな足音が宿の屋根から聞こえた。…というか、この足音には聞き覚えがあるんだよな。
「…当たりだね」
「…あれは、ネズミだな」
「…もしかして、見た事あるの?」
俺が自信を持って答えると、彼女は少し引きながら聞いて来た。なので、俺は頷く。
「…村の備蓄倉庫で、頻繁に出て来たからな」
「…うわあ」
すると、彼女は顔をしかめた。まあ、当然の反応だ。…勿論、俺も同じ顔をしている。
『-ふむ。どうやらあのネズミは、ただのネズミではないな』
「…っ!」
「…あ、もしかしてそちらの相棒もネズミの正体を教えてくれた?」
そんな時、寅はそんな事を言った。そのすぐ後に、彼女は確認してきた。
「…ああ。
(-…どういう事だ?)」
『あれは、氣によって生み出された存在だ』
(…え、マジで?)
「…そうか。この村に、闘士が居るのね」
「…っ!」
寅の言葉に驚いていると、隣を歩く彼女は結論を出した。…確かに、そう考えるの自然だ。
「…とりあえず、雑貨屋さんに入ってみよう」
「…ああ」
そうこうしている内に、俺達は雑貨屋さんに到着したので兜を維持したまま中に入ってみる。
「はーい、いらっしゃいませ~っ!」
すると、ドアに付けられたベルが鳴り店の店主が奥から出て来た。
「ああ、旅の方ですね。
-では、お探しの品はこちらになります」
そして、店主はこちらが何も言ってないのに俺達の素性を口にして、更に商品も不足なく準備していた。…やはり、あのネズミが伝令役のようだ。
「…ありがとうございます」
「ありがとうございます」
勿論、俺達は驚かないようにしながら店の中で耳を研ぎ澄ます。
-すると、店の奥からはっきりと氣を感じた。
「では、合計で銀貨三十八枚となります」
「分かりました。…っ!」
一方、店主はこちらの様子に気付かず値段を告げたので、彼女は硬貨の入った袋を取り出し中を見る。…その瞬間、彼女ははっとした。
「…?どうされました?」
「…あ、俺が出すよ」
当然、店主は彼女の反応を不思議に思う。なので、俺はすかさず助け船を出した。…というのも、俺も彼女と同じ事に気付いたからだ。
「…すみません」
「仲間なんだから気にするなよ。…っと」
すると、彼女は少し申し訳なさそうにしたので俺は気にしてないと返した。そして、自分の袋から数枚ずつ銀貨を取り出しトレーに置いていく。
「-…はい、確かに頂戴致しました」
それから、ぴったりの金額を置くと店主はきちんと数えてからそれを回収した。
「じゃあ、物は半々で持ちましょう」
「了解」
支払いが終わると、持参した袋に買った物を入れて行く。…お。
そんな時、店の奥に居た気配が移動するのを察知した。多分、窓から外に出るのだろう。
「じゃあ、ありがとうございました」
「こちらこそ、ウチをご利用いただきありがとうございましたっ!」
そして、物を入れ終えた俺達は店を出る。…すると直ぐに彼女はこちらを見た。
「…さっきはありがとう」
「…どういたしまして」
「…はあ、まだまだ修行不足ね。
-まさか、『あの程度』の事で動揺してしまうなんて」
彼女は、ため息を吐き少し落ち込む。…要するに彼女は、店の奥に居た『闘士』の正体に気付き動揺したのだ。
「…多分だけど、君は正義感が強いから本能的に人を欺くのが苦手なんだよ。
だから、ああいう事は俺に任せてくれ」
「…あ。…じゃあ、お願い」
「了解。…しかし、びっくりだな」
「…ええ。…っ!」
そして、俺達は周りに気を配りながら改めて闘士の正体に触れる。…けれど、直ぐに彼女は気を引き締めた。
「……あ」
すると、ちょうど村の子供達が広場に来るのを見掛けた。ただ、皆それぞれ小さなリュックを背負っていた。
「…子供達だけで何処かに行くのかな?」
「いや、多分午後のお勉強だろう。…っ」
当然、その中には例のしっかりした男の子も居た。…そして、ふと彼だけこちらをチラ見したのだ。
「…どうやら、彼もこちらの正体に気付いたみたいね」
「…ああ」
…そう。つまり、彼こそが闘士なのだ。だから俺達は、驚いてしまったのだ。
「…あんな小さな子までもが、こんな過酷な宿命の中に居るのか」
「…流石に、彼を仲間には出来ないわね」
「…ああ」
彼女の意見に、俺はすぐさま同意した。…彼らはこのまま何も知らずに、この村で生きていくべきだ。
「…とりあえず、朝になったら彼に会わずに此処を出ましょう」
「…だな」
俺達は直ぐにそう決めて、宿へと戻った。…しかし、この時の俺達はまだ知らなかった。
-『宿命』の恐ろしさと、幼い闘士の力を。