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第七話『出逢い』後編

「新入り、逃げるぞっ!」

「…っ(…いや、一旦指示に従おう。)

 は、はいっ!」

 直後、監督役はそう叫んだ。俺は、少し迷ったがこの人や会社に迷惑を掛けない為にも、一旦逃げる事を選択した。

「ついて来いっ!」

「はいっ!」

 そして、俺達は連中とぶつからない進路を取り倉庫を飛び出す。すると、予想通り連中は俺達に見向きもせずに倉庫の中へと侵入した。

「…クソッ!やはり、賊かっ!

 私は、このまま憲兵を呼んで来るっ!お前は念の為港の保安所に向かえっ!」

「わ、分かりました(…良し、別行動だ)」

 そして、倉庫区画から出た直後俺達は別行動を取った。…勿論、俺は港の方向に行く振りをして近くの人気のない路地に入る。

『-…良い判断だ。仁の予想通り、あの者達は例の連中だろう』

(…やっぱり)

 すると、目の前に寅が現れ俺の予想が正しいと告げる。…恐らく奴らの狙いは、倉庫の中にある蒸気自動車の部品だろう。

 更に、別の部隊がいる可能性もある。…っ!?

 直後、表通りは急に騒がしくなった。…どうやら、嫌な予想は当たってしまったようだ。 


『…さて、どうする?』

 …そんな中、寅は俺に問い掛けて来る。…そんなの、決まっている。

 まだ、働き始めてほんの少ししか経っていないがあの会社が良い所だという事は、良く分かった。…そして、共に働く先輩達も本当に良い人達ばかりだ。

 そんな人達が、訳の分からない連中に襲われ最悪総て失う事なんて、あっちゃいけないっ!

 だから、俺は守る為に闘うっ!

『…ああ、それで良い。…さあ、氣を漲らせて我を纏えっ!』

(応っ!)

 すると、寅はそう言ったので素早く氣を練り上げていく。…この数日、ずっと鍛練していたおかげか大分準備も早くなった。

「-『纏身』っ!」

 そして、俺は氣装を身体に纒った。それから直ぐに足に力を溜め、大きく跳躍し直ぐそばの建物の屋根へ飛び乗った。

「ふっ!」

 そこから、俺は屋根伝いに倉庫へと戻る。…すると、直ぐに倉庫が見えて来た。なので、俺はそのまま前に跳んだ。


「-『そこまでだっ!』」

「…っ!?」

「なんだっ!?」

 そして、倉庫前の空間に降り立ち早速新しい技を使う。

「こいつ、『闘士』かっ!?」

「ま、まさか、『回収』の奴らはこいつにやられたのかっ!?」

 すると連中は、俺を見て直ぐに正体を察したようだ。…そして、纏め役と思われる大男はこちらを指差した。

「…目標変更。最優先で、奴を叩くっ!」

『応っ!』

 直後、奴らは資材箱への攻撃を止め素早く俺を取り囲んだ。…何かの陣形か?

「-『周走の攻』」

『応っ!』

 俺は、敵の一挙手一投足に注意を払う。…すると、纒め役の男が何かを叫んだ。

 直後、敵は俺の周りをぐるぐると走り始めるがこちらに攻撃して来なかった。…ん?

 それから、外側にいる奴らも走り出した。…何がしたいんだ?

『一投っ!』

「…っ!?」

 訳が分からず身構えていると、一つめの奴らが短刀を投げて来る。なので、俺は身を屈めた。


『二投っ!』

 直後、二つめたの奴らが身を屈めた俺に短刀を投げて来た。…なるほど、一投目は囮か。しかし、甘いっ!

 俺は、瞳と足に氣を集めた。すると、直ぐに世界はゆっくりになったので俺はしっかり軌道を見極め、そして走り出した。

『なっ!?』

 当然、容易く囲みを突破した。それを見た連中は激しく驚いた。…どうやらきちんと情報は伝わっていないようだ。

「馬鹿なっ!?もう『氣装』を使いこなしているだとっ!?…ついこの間、目覚めたんじゃなかったのかっ!?」

 すると、纒め役はかなり驚いていた。…どうやら、連中からしても俺の成長速度は驚異的なようだ。

「っ!おらっ!」

 俺は、少し自信を得つつ纒め役に接近する。しかし、向こうもすかさず短刀を投げて来た。

「『甘い』っ!」

 俺はそれを、跳躍で回避するが…纏め役はニヤリと笑った。…っ!まさか?

『三投っ!』

 直後、後ろに居た部下達が一斉に叫んだ。…恐らく、空中では攻撃を避けれないと思ったのだろう。


(…とりあえず、鎧を分厚くしよう-)

「-『風壁』っ!」

 俺は慌てずに防御に徹しようとした。だが、直後上の方から強く気高い少女のような声が聞こえたかと思ったら、俺の前に空色の壁が出現した。

 すると、飛んで来た短刀はまるで上から強風を受けたかのように、ことごとく地面に落ちてゆく。…っ!

 俺は直ぐに、声の聞こえた方を見る。…そこには、背中から氣の翼を生やした闘士がいた。

『…そ、そんな……』

『…闘士が、もう一人……』

『…しかも、あいつは……』

 一方、敵はその人を見て恐怖していた。…恐らく、敵の間じゃ相当な有名人なのだろう。

「…また、てめえかっ!

 -『酉の闘士』…いや、葛西の跡継ぎっ!」

 すると、纏め役は心底怒りながらその人の正体を告げる。…葛西さん、というのか。

「…その言葉、そっくりそのまま返すっ!

 さあ、覚悟しろっ!」

 直後、葛西さんは素早く屋根の上から飛翔し敵に向かって下降した。


『うわああああっ!?』

 直後、纏め役以外は一斉に逃げ出した。…どんだけ、恐れられているんだ?

 俺は、少しだけびびりつつこの空間に通じる唯一の出入り口に駆け出す。…当然だが、こいつらを逃がすつもりなどない。

『くそっ!?』

「…す~~~っ。

 -『はああああああっ!』」

 そして、俺は足を止めた敵に向かって雄々しく叫んだ。その雄叫びは、まるで雷鳴のように周辺に轟いた。

『うぎゃあああああっ!』

 直後、近くでそんな音を聞いた敵達は耳を抑えて怯んだ。…当然、その隙をあの人が逃す筈もなく素早く纏め役の方に飛んで行く。

「『風止』」

 その人は、まず纏め役の頭上に近付き次に俺の前に居る奴らの頭上を通り過ぎた。…ん?

『…っ!?……っ』

『…ぁ』

 すると、奴らの頭に空色の兜が次々と装着されていく。…そして、次の瞬間。敵はバタバタとその場に崩れ落ちていった。…そうか、空気を止めて呼吸出来なくしたのか。なんて恐ろしいやり方だ。

『-賊はこっちですっ!』

「『直ぐに此処から離れましょう』」

「『…分かりました』」

 その人のやり方に若干引いていると、監督役の人の声が聞こえた。…すると、その人はそんな提案をしたので俺は了承しその場から消えるように移動した-。

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