「…皆知って通り、奴らは積み荷や金目の物に目もくれず乗客を拐っていく。
しかも、船を守る俺達は容赦なく踏み潰した上にまるで俺達の無力を嘲笑うかのように、船の機関部を破壊し航行不能にするのだ」
『……っ』
船員頭の解説に、船員達は僅かに恐怖を感じていた。…本当、最悪な連中だ。
「…一つ、質問良いですか?」
「…何だ?」
「…どうして、連中は行きの段階で襲って来なかったんですかね?」
気分が沈んでいくのを感じていると、ふと船員の一人が質問した。…言われてみれば、少し気になる。
「…恐らくだが、行きよりも若者が多く乗っているからだろう」
「…なるほど」
すると、船員頭は予想を口にした。…うわ。つまり、俺達が目的なのか。そういえば、東の国を旅立った人の大半は消息が分からなくなっていると、授業で聞いたな。…最初は手紙を出していないからだと思っていたが、授業を聞いてから人攫いに捕まったと考えるようになった。
「…他に、質問は?」
『……』
「…なければ、デッキに上がるぞ」
『アイアイ』
そして、船員達は静かに素早く階段を昇って行った。…くそ、本当に厄介な宿命を抱えてしまったな。
俺は、思わずため息をこぼしてしまう。だが直何とか気持ちを切り替え、階段を少し昇り踊り場で息を潜める。
『良い判断だ』
(…まあ、見つかったら強引に部屋まで連れ戻されかもしれないからな。…っと-。)
すると、寅は俺の判断を褒めて来たので俺は少し照れつつ、耳に意識を集中した。
-すると、夜風と船の進む音が聞こえた。…今のところは、大丈夫だな。
『どうだ?』
『問題ありませんっ!』
そして、上でも海賊は見つかっていない。…もしかしたら、今日は来ないのかもしれない。
『…ん?』
『…どうした?』
『…いや、今何か船体に当たったような、うわああっ!?』
『…っ!?ぐあっ!?』
しかし、そんな希望的観測はあっさりと打ち砕かれてしまう。…ちょっと待て。他の船が近付いて来る気配がなかったのに、敵が来たって事は…まさか、連中は暗い海中を進んで来た?
『どうしたっ!?』
『うわっ!?』
驚愕している内に、デッキはわざわざ耳に頼らなくても良いぐらい騒がしくなって来た。
(…ああ、やっぱりこうなるかっ!)
『さあ、我らの出番だっ!
まずは、どうすれば良いか分かるなっ!?』
「…っ!」
寅がそう言ったので、俺は自身を奮い立たせ氣を足に集める。すると、両足は半透明の獣の足に包まれた。……良しっ!
それを確認した俺は、意を決して階段を駆け上がる。
「ぐわあっ!?」
「うぐっ!?」
すると、甲板のあちらこちらから船員達の悲鳴が聞こえて来た。当然というか、海賊は武器を持っているようだ。…くそ、流石に全員武器を持ってるのは厄介だな。
『ちょうど良い。
-次は、身を守る術を身に付けよ』
(……っ)
どう動くか考えていると、寅はふとそんな事を言った。…どうやら、この力は本当に色々な事が出来るみたいだ。
『まずは、目と耳の氣を解け』
(……-)
『では、全身に氣を纏うのだ。…そうだな。鎧と兜を着けているような想像をすると良いだろう』
(…鎧と兜)
寅の言葉に従い、目と耳を普通の状態に戻す。そして次に、それらを強く想像してみる。…すると、全身は半透明の鎧に包まれていた。
『…素晴らしい。
それは、-氣装-と言う闘士の基本の技だ』
(…これが、基本か)
『さあ、これで憂いはなくなったな?』
(…っ!)
「-うわああっ!?」
(…まずいっ!)
「おらあっ!……なっ!?」
改めて決意した直後、後方から危機の気配がしたので素早くそちらに駆け出す。そして、今まさに船員に振り下ろされそうな刀を左腕で受け止めた。
「ば、馬鹿なっ!?腕で止めたっ!?」
「…やあっ!」
当然、刀を持っている海賊は驚愕した。その隙に俺は気合いを入れて刀身を右手で殴る。
「んなっ!?…ぐへっ!」
すると、刀身はあっさりと折れてしまう。そして、拳はそのままそいつの顔面にめり込みその巨体を転落防止の柵までぶっ飛ばした。
「…えいっ!」
それから俺は、ごみと化した刀を渾身の力を込めて素早く海に捨てる。…本当は海にごみを捨てたくないが、こうしないと壊れた刀をまた武器にされかねないので、仕方なくだ。
「どうしたっ!?」
(…凄いな、この兜。目と耳の感覚が自然と強くなっている。…なら、こちらから攻めるっ!)
直後、異変に気付いたお仲間がこちらに接近して来た。なので、こちらから距離を詰め即座に身を屈める。
「…はあっ!」
「ぐあっ!?」
そして、そいつに足払いをしてやった。すると足が丸太のように太いそいつは、簡単に転んでしまった。
「…はあっ!」
「ぐふっ!?……っ」
更に、俺は倒れたそいつの鳩尾に的確に拳を打ち込んだ。…当然、そいつは直ぐに夢の世界に旅立った。
「おいっ!?どうしたっ!?」
「気を付けろっ!二人やられてるっ!」
そして、そいつの武器も海に捨てていると他のお仲間も異変に気付いた。…こっちは兜で強化しているのに、奴らはこの暗闇の中でどうやって俺を認識してるんだ?
「そいつを先にやれっ!船員共は、一ヶ所に追い込めっ!」
少し気になるが、複数の敵が一気にこちらに来たので後回しにする。…くそ、海賊のクセしてなかなか頭が回りやがる。
「掛かれっ!」
『オラァっ!』
『くたばれやっ!』
そして、制圧グループの纏め役の号令で十人の海賊達が一斉に襲い掛かって来た。…っ!
『慌てるなっ!
鎧を厚くすれば、ただの刀など恐るるに足らんぞっ!』
(…信じるぞっ!)
思わず恐れてしまう俺に、寅は自信満々に指示を出した。…だから、俺は寅を信じ鎧を分厚くる想像をする。
『くたばれぇーっ!』
そして、鎧がはっきりとした形になった直後海賊達は俺を突き刺したり切り伏せようとしてくる。
『…なっ!?』
『嘘だろっ!?』
しかし、敵の刀は一切俺の身体に当たる事はなかった。…何故なら、氣装が全ての攻撃を防いでくれたからだ。
「…おりゃあああっ!」
『うわああっ!?』
そして、俺は渾身の力を込めて腕を広げた。それから、適当に暴れるとそれだけで敵は刀ごとふっ飛んでいく。
「うわっ!?」
「ぐわっ!?」
おまけに、何人かはそれぞれ別の方向に吹き飛んでいき他の場所で暴れてる味方にぶつかった。良し、このまま行こう。
「…コイツ、『闘士』だっ!」
『…なっ!?』
そして、俺はまだ動かない敵に攻撃を仕掛けるが誰かが俺の正体を叫んだ。
すると、海賊達は驚愕する。…そうか、コイツら『刃龍』だ。……ん?
こちらも、連中の正体に気づいたその時。不意に、船の外から何かが飛んで来て床に落ちた。
-直後、デッキは白い煙に包まれてしまった。
「撤収ーっ!」
『了解っ!』
当然、視界は煙で覆われてしまいほとんど見えなくなった。…更に次の瞬間、指示を出していた奴が撤収を宣言し海賊達は素早く逃走を始めた。…なんて判断力。…本当に、厄介な連中だ。
俺は、ただそれを見ているしか出来なかった。それから少しして、煙は薄くなったので俺は素早く階段に向かい、力を解除する。…あのまま現場に居たら、いろいろと面倒な事が起きる予感がしたからだ。
『…っ!損害確認っ!』
『あ、アイアイッ!』
『…あれ?助っ人は?』
すると、船員達はようやく事後処理を始めるのだが、当然直ぐに俺が居ない事に気付かれた。なので、俺はそそくさと、自分の部屋に戻るのだった-。