目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第六話『迫る暗雲』前編

「-っ!………」

 東の国を出て、間も無く夜になる頃。俺の居る客室の外から鐘の音が鳴り響いた。…いや、本当慣れないな。

「ふう、やっと夕飯の時間か~」

「何が出て来るかな~?」

 すると、同室の人達は顔を綻ばせて部屋を出て行く。ちなみに、彼らは港の学校の同級生だったので直ぐに意気投合した。

 おかげで、船旅は快適だった。…ん?

「……っ。……ぁ」

 ふと、残りの一人が起きていない事に気付き二段ベッドの下を覗き込むと、そいつは船酔いにやられていた。

「…大丈夫?」

「…む、り……」

 とりあえず夕食に行けるか聞いてみると、彼はなんとか駄目だと答えた。…仕方ない。

「じゃ、ゆっくり休んでな。…あ、一応鍵は閉めておくから」

「…ああ。…うぅ」

 彼にそう伝えた俺は、部屋の鍵を持って外に出る。そして、上の階にある食堂に向かった。


「-いらっしゃいませ~っ!」

「こちらでは、パンとスープで銀貨五枚で販売しておりますっ!」

 それから少しして、俺は食堂に入る。すると既に、食堂は他の客達でごった返しており様々な売店の前に列をなしていた。…何食おう。

 とりあえず俺は、昼食とは違う売店に並ぶ。まあ、比較的空いてるからという理由もある。

「-あ、ご注文をお伺いしますねっ!」

 すると、俺の元に売店の関係者がやって来て注文を聞いてくる。…なんと、この船は乗客への待遇がめちゃくちゃ良いのだ。

 確か、旅の本ではこういう民衆向けの客船の待遇はあまり良くないと書いてあったが、どうやら『当たり』の船を引いたようだ。

「えっと、二番の品をお願いします」

「畏まりましたっ!それでは、少々お待ち下さいっ!」

 すると、彼女は直ぐに売店の方へと戻って行った。…ふう。


 それから、数十分後。ようやく夕食を確保した俺は、空いてる所を探した。…お。

「お、来たかっ!」

「…どうやら、彼は駄目みたいだね」

 偶然にも、そこには同室の奴らが居たので彼らの元に行く。そして、直ぐにもう一人が残りの奴の不在に気付いた。

「…まあ、体質だろうな。…いただきます」

 俺はそう返し、自分の献立を開封する。船旅初日の夕食は、やはり米が主役の物だった。

「やっぱり、お前もそれか」

「本当、気が合うね」

 すると、同郷の二人は似たような献立を広げながら笑顔を向けてくる。…正直、パンを食べてみたい気持ちもあるが冒険は明日からにしようと思う。

「…大陸じゃ、米とパン半々って聞いた事がある」

「…マジで?…はあ、場所によってはパンしか食べられないとかあるのかな?」

 すると、早速二人は大陸での新た生活に不安を抱いていた。…うーん、何とか慣れるしかないのかな?


「-…ねえ、さっきのアレって何だったんだのかな?」

「…さあ?」

 そんな事を考えながら夕食に手を付け始めた矢先、ふと隣に来た客が正面の知り合いに何かを確認していた。

「…でも、明らかに船員達緊張してたよ?」

「…大事な物でも、乗せてるんじゃないか?」

 どうやら、隣の彼は先程船員達と出くわしたようだ。…船員達の様子がおかしいのか?

「…?どうした?」

「…っ!…いや、後で向こうの食事事情に詳しい人でも探そうと思って」

 すると、同室の奴がこちらを見たので適当に返しておく。…しかし、内心は嫌な予感でいっぱいだった。

「ああ、そりゃ良い考えだっ!」

「じゃあ、夜の間聞いて来るから楽しみにしててくれ」

「頼む」

「ありがとう」

 すると、二人は笑顔で頭を下げて来た。それから俺達は夕食をしっかりと楽しみ、部屋に戻った-。



 -そして、夜。俺は、同室の奴らが寝たのを確認しそっと部屋を出た。…うわ、やっぱり暗いな。

 当然、通路の明かりは消されているので俺は慎重にデッキの方に歩き出した。

『-やはり、気になるか?』

「…っ!?(びっくりした~)」

 すると、不意に寅が目の前に現れたので思わず悲鳴が出そうになった。…正直、こういう場所で急に現れないで欲しい。

『…やれやれ。行動力があると思えば、我のような存在に恐怖する。

 つくづく、お前は可笑しいな?』

(…びびりで悪かったな。…で?こうして声を掛けて来たのは、何でだ?)

 俺は少し恥ずかしくなったので、本題を聞いてみる。すると、寅は真面目な顔になりその黄色の眼を輝かせた。

『それでは、闘う時以外での我の力を教えてやろう』

(…っ)

『その前に、まずは氣の練り上げからだな』

 けれど、寅はふとそんな事を言って来た。…そういえば、港の時みたく身体の中心が熱くないな。


『まあ、あの時は我が巧く引き出してやったからな。…だが、今後は自分の為にもお前自身が操りを身に付けなければならない』

(…分かった)

『では、始めるとしよう。

 -…そうさな。まずは、我の力の象徴を想像してみろ』

(……?こいつの力の象徴?……あっ-)

 そして、寅は『授業』を始めるが早速意味が分からない事を言った。…だけど、俺は直ぐに思い出した。

(…こいつの力は、『雷』。…でも、なんか想像しにくいな。…そうだ、『玉』にしてみよう)

 それから、頭の中で雷を放つ大きな玉を想像する。

『……そうだ。では、その想像を心の臓を中心にしてやるのだ』

(……。……っ!)

 寅がそう言ったので、言われた通りの想像をしてみる。…すると、身体の中心に熱が生まれるのを感じた。

『…港での闘いの時に思ったが、お前は随分と想像力が豊かだな。それに、集中力もあるようだ』

(…ありがとう。…で、この後は?)

『では、いよいよ本題だ。

 -その状態で、また目に氣を集めるのだ。ただし、優しく包むような想像を心掛けよ』

(…分かった-)

 とりあえず、俺は言われた通りにしてみる。すると、真っ暗な通路がハッキリと見えるようになった。

(…そうか、『猫の目』)

『理解が早いな。

 さあ、行こうか』

(…ああ)

 そして、俺は真っ暗な通路を早歩きで進んで行く。それから少しして、デッキに上がる階段の前で複数の明かりを見つけた。


『-……?』

『……』

(…何話してるのか、聞こえない。…あ、もしかしたら『耳』に氣を集めれば良いのか?)

『どうやら、理解して来たようだな』

(……っ)

 すると、寅は肯定したので俺は氣で耳を優しく包む想像をする。…直後、船員の話し声が聞こえて来た。

「-それでは、改めてこれから起きるであろう『厄介事』について話しておこう。

 皆、知っての通りこの海域には『とても厄介な連中』が出没する」

『……っ』

「……(…やっぱり、『海賊』か)」

 船員頭の話しを聞いて、俺は気分が落ち込んでしまう。実は、学校の授業で海賊の事を学んでいたのだ。だから、直ぐに予想出来た。…出来れば、当たって欲しくなかったが。

「…しかも、この時期に遭遇するのは極めてクソな奴らだ」

 更に、船員頭は不安になる情報を出した。…まさか、嘘だろ?

 俺は、直ぐに海賊の授業の内容を思い出していき血の気が引いていく。

「……そう、『人攫い』だ」

 すると、船員頭は連中の名前を口にした。…最悪だ。

 俺は、船酔いしてないにも関わらずとても気分が悪くなった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?