-それから数時間後。そろそろ、夜明けとなる頃なのだが俺は未だ自分の産まれた国から旅立てずにいた。
「…まずは、お礼を言っておこう。
君が居なかったら、今頃大変な事になっていただろう」
「…どういたしまして」
学校の校長に感謝を述べられた俺だが、非常に気まずかった。
-あの後、校長を診療所に連れて行き診察して貰ったが大きな怪我はなかった。また、校長が事情を聞きに来た警備の人に上手い事言ってくれたおかげで、俺はこうして校長の自宅で旅立つ時までゆっくりと出来ているのだ。
「…で、どうして君はあそこに居たのかな?」
「…っ」
そして、校長は真剣な表情で本題に入ったので俺は冷や汗を流した。…まあ、こうなった以上正直に話すしかないだろう。
「…とりあえず、私の身に起こった事から説明します-」
俺は、観念してこれまでの事を話した。…それを、校長は時に驚きながらも真剣に聞いてくれた。
「…なるほど。だから、君はあの連中を楽々と制圧出来た訳か。
そして、ああいう連中が君の生まれ故郷を襲う前に、離れようと」
「……」
事実を話し終えると、校長はそう言った。…その顔は、悲しそうだった。
「…もし、先程の出来事を知らなかったらきっと私は君を説得していただろう。だが、連中の恐ろしさを知ってしまった今…君の判断が最も正しいと思ってしまう。
本当に、情けない事だ。…そして、何故十五の君がこんな過酷な運命を背負い悲しい決断をしなければならないのだろうか」
「……」
その言葉に、俺は申し訳なくなる。…本当にこの人は、良い先生だ。
「…私は、君の判断に是非を唱える事は出来ない。だが、せめて君の身を案じさせて欲しい」
「…ありがとうございます」
「…そして、せめて今まで蓄えた知識等を君に授ける事で役に立ちたいと思っている」
「重ねて、ありがとうございます。
…では、先に大陸の武術の土地についてお聞きしたいです」
「…なるほど。『星獣の力』をより巧く扱えるようになる為か。…ふむ」
「…あ、地図をご覧になりますか?」
「…うん?ああ、地図を持っていたのか。…っ!な、なんと、これを自分で描いたのか?」
「…は、はい(そんなに、上手いかな?)」
「…本当に、仁は様々な素質があるな。
おっと、話を戻そう」
校長先生は感心しつつ、筆を取り出した。そして、俺が印を付けた所を見て行く。…ん?
すると、校長先生は大陸の西にある武術の地に赤い印を付けた。
「…ここは、白の都ですね。確か、城郭の都でもありましたね」
「そうだ。…此処は、別名『鳥の都』と呼ばれている。
その由来は、優秀な伝書鳩を多く世に送り出しているからだ」
「へぇ~。…ん?『鳥』?」
校長先生の授業に、俺は関心を持った。…けれどその中で、引っ掛かる言葉を見つけた。
「…気付いたか。
実はな、都の由来はもう一つあるのだ。…その昔、大陸が戦乱の中にあった頃この都に不思議な鳥が現れたのだそうだ。
そして、その鳥は都の中で最も武芸の才に溢れた若者と共に、戦乱の終結に貢献したという」
「…(まさか、『酉の星獣』とその闘士?)」
「…恐らく、仁も同じ事を考えている筈だ。
だから、まずはこの地を目指してみるのが良いだろう」
「…分かりました。
では、もう一つ。…先生は、先程の連中に心当たりはありますか?」
最初の目的地は決まったので、次は敵の事を聞いてみる。…あいつ等はこの力を血眼になって探している上に、手段を選ばないときている。
正直、関わりたくはないが確実に今後何度も遭遇する事になるだろう。
「…一つ心当たりがある」
「…っ」
「…現在大陸では、とある組織が暴れ回っているのだという。
そいつらは、才能ある若者を拐いまたは歴史ある街の遺産を奪うという。
そして、最近は蒸気技術の生まれる場所を破壊しているらしい」
「…そんな連中が」
校長の説明に、俺は鳥肌が立った。…そして校長は、手元にある紙に筆で何かを書き記した。
「…その名は、『刃龍同盟』。…噂では、大陸の北にある険しい山々の何処かにその本拠地があるようだ」
「…分かりました。心に留めておきます」
「…他に聞きたい事は?」
「大丈夫です。…では、そろそろ失礼します」
「…ああ。…君の家族や、村の者には私から説明しておこう。
…それと、何か言伝はあるかな?」
「…っ!お願いします。
そして、言伝は-」
校長の申し出に、俺は申し訳なくなりながらお礼を言い…村の皆への言伝を口にする。
それが終わると、ちょうどその時蒸気船の汽笛が聞こえた。
「…さあ、行きなさい」
「…はい」
なので、俺は素早く準備をした。そして、最後に一礼してから校長の家を後にして駆け足で船の元に向かった-。