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第三話『旅立ち』

「…うっ……」

「…っ!大丈夫かっ!?」

 そして、不意に脱力感が襲って来て倒れそうになってしまう。…すると、真っ先に父さんが駆け寄り支えてくれた。

「…ありがとう、父さん」

「…お礼を言うのは、こっちの方だ。

 -助かったよ、仁。本当に、ありがとう」

「…っ。…ああ、君が来なければ今頃奴らの腹の中だっただろう」

『…っ!…ありがとう』

 父さんがお礼を返すと、息子さんは最悪の予想を口にした。それを聞いた大人達は、皆お礼を言って来た。

「…あはは、どういたしまして(…あれは、何だったんだ?…いや、一つだけ分かっている事がある。

 -あれは、村に、幼なじみ達、家族にとんでもない迷惑を掛ける物だ)」

 とりあえず、俺は素直にお礼を受け取る。…けれど心の中は、先程の不可思議な現象に戸惑いと恐れで一杯だった。

「…なあ、さっきのは何だったんだ?」

「…ごめん、俺にも良く分かってないんだ」

 それに気付いていない父さんは、ふとさっきまでの俺の状態の事を聞いて来た。…けれど、正直俺にも良く分かってない。

「…もしかして、洞窟で倒れたのと何か関係があるかもしれませんね。

 だが、今は一刻も早く村に戻るべきでしょう」

 すると、息子さんは予想を口にするが…最優先にやるべき事を指示した。…そうだ、二人は?


「…ですね」

「では、四人の無事な者は若者二人の保護を」

『はいっ!』

「その他は、ゆっくりと平坦な道を進みましょう」

『…は、はい』

 そして、息子さんは適切な指示を出し大人達はそれぞれ動き出した。…あれ?

 俺は父さんに支えて貰いながら、上の道を行こうとする。…けれど、ふと体力が回復している事に気付き真っ直ぐ立った。

「…っ!大丈夫か?」

「う、うん(…俺、本当にどうなってしまったんだ?)

 じゃあ、俺下の方に行くよ」

 自身の身体に起きている変化に戸惑いつつ、俺は幼なじみ達の保護に加わった。

「…仁君、大丈夫かい?」

「はい、ご心配をお掛けしました」

 すると、息子さんは心配してくたので俺は頭を下げ大丈夫だと返した。

「…じゃあ、宜しくたむよ」

「はい」

 そして、大人三人と俺は幼なじみ達の元へと向かうのだが…息子さん以外の二人は、俺に困惑の目を向けて来る。…まあ、あんな事が起きた直後にあんなモノを見せられて、平然としていられる訳がないよな。


「…二人共、さっきも言ったが今は少しでも早く無事に戻る事が大事だ。

 正直、私も動揺しているし彼の身に何が起きたのかも気になる。

 だが、彼は『家族』だ。…そして、彼は私達を危機から救ってくれた。

 今は、それだけ分かっていれば十分ではないかな?」

「「…っ!」」

 すると、息子さんは二人に寄り添いつつ注意した。…本当に、次の村長にふさわしい人だ。

「すまない」

「そうだよな。お前が、俺達を傷付ける事なんてないよな」

「…当たり前じゃないですか(…今まで、本当にありがとうございました)」

 それを聞いた二人は、こっちに謝って来た。なので俺は笑顔で返し…内心で、感謝の言葉を紡いだ。


「-…っ!」

「………っ」

 それから少しして、幼なじみ達が居る所まで来た。すると、二腰を抜かしていた二人はこちらを見るのだが…二人共少し怯えた目でこちらを見た。…やっぱり、こうなるよな。

「二人共、大丈夫かっ!?」

「…は、はい。仁のおかげ?…で、なんとか」

「…僕も、大丈夫です。…あの、そちらは大丈夫だったんですか?」

「…良かった。…こちらは、多少負傷者は出たが皆大丈夫だ」

「「…はぁ~~、良かった~~」」

 息子さんから、大人達の状況を聞いた二人は心底安堵した。…すると、二人の大人が幼なじみ達に近付き手を差し出す。

「二人共、立てるか?」

「ほら、掴まって」

「「…は、はい。…っと」」

「良し。では、村に帰ろう」

「「「はいっ」」」

『ああ』

 そして、俺達は村へと戻り始めた。…当然、戻る間中二人はじっとこちらを見ていた-。



「-あっ!帰って来たっ!」

『良かった~っ!』

 それからかなり経ってなって、ようやく俺達は村に帰ってくる事が出来た。…当然、村の人達は入り口に集まっておりこちらに気付くと、皆心底安堵した。

 きっと、迎えが出発した辺りからずっと心配してくれていたのだろう。

 そして、怪我人は待機していた大人達に担架で自宅まで運ばれて行った。…ちなみにだが、怪我人はちゃんと応急処置をしている。

 これは、島の港に新しく出来た診療所が指導しているからだ。…まあ、流石に命に関わる事だから村長は快諾したし大人達も直ぐに受け入れた。

「さあ、仁も家に帰って休みなさい」

「分かった(…なんで、『必要なモノ』以外はダメなんだろうな?)」

 俺は、心底疑問に思いながら家へと帰った。そして、家に着くと心配した母さんに抱き締められ直ぐにお昼ご飯を食べる事になった。


 -その後、村長や大人達は祭りをしばらく延期とする事を決定した。…まあ、当然の判断だと思う。

 だって、もしかしたらまたあの猪達に襲われるかもしれないのだから。

「-…という事だ」

「分かった。…じゃあ、部屋で休んでるね」

 夕食後、父さんからそんな事を聞いた俺はなるべく明るい顔で返事をして、ゆっくりと自分の部屋に戻った。

「…はあ」

 そして、部屋に入ると…俺は直ぐに深いため息を吐いた。…正直、頭は混乱したままだ。

 …何で、俺が?何で、この村の近くにあんな物が?

 俺は、あれこれ考えるが当然答えは出る訳もなかった。…だが、やるべき事は分かっている。


「……」

 俺は、ベッドから立ち上がり箪笥の一番上を開いた。…そこには、大きな革の鞄が入っていた。

 これは、前々から用意していた旅用の背負い袋だ。…確か、外ではリュックサックと呼ばれている物だ。

 俺はリュックを取り出し、それを机の上に置き中身を確認していく。

 まず、最初に出したのは大きなメモ用紙だ。これは、港の学校にあった『旅行の手引き』の内容…特に旅の必需品と大陸に渡った後どう行動するかが書き写してある。

 しかし、外の世界じゃこんなにも旅が流行っているとはね。

 俺は、改めて大陸の流行を羨ましく思った。…普通、旅というのは覚悟のいるモノだと思うのだが。

 これも、『蒸気技術』のおかげなのかな?

 俺は、港の学校や大人達から度々聞いているこの世界で起きている、『大きな変化』の事について考える。…実際、この東の国でも蒸気技術はゆっくりと浸透している。

 有名な所では、蒸気船だろうか。あれのおかげで、船旅はかなり安全になったと聞いた。そのせいで、俺と近い年代の奴らはより国の外に出やすくなってしまった。

 結果、隣の島では港でさえもあまり若い奴らを見掛けなくなったようだ。…っと。

 俺は、本題を思い出しメモの裏側を見る。そこには、簡略化した大陸の地図が書き写してあり幾つか丸印が付けてあった。


 -まず、大陸の玄関口である厚大の港で日雇いの仕事を探し路銀を稼ぐ。その後は、大きな都を転々としながら本格的な仕事と移住先を見つける。

 これが、以前までの計画だ。…だが、これではいつか敵に見かり確実に負けてしまう。その後は恐らく、最悪な結末がこの身を襲うかもしれない。

 だから、港を出てからの行動を大きく変える必要がある。…まずは、あの力以外で闘う力を身に付ける必要がある。

 その為には、大陸の各所にある武術の所縁のある地を巡るのが良いと思う。…その中で、もしかしたらこの力の制御する方法が見つかるかもしれない。

 俺は、最初に付けた都にバツを付けとりあえず分かっている武術の都に丸を付けた。


 そして次に、小さな袋を取り出し中にある硬貨を出していく。…本当、良くここまで貯められたな。

 俺は、数を数えながら自分の自制心に感動していた。

 これは、港にある学校へ通っている時に休憩時間や放課後などを利用し、港や学校のちょっとした雑用をお手伝いして得たお駄賃だ。…無論両親には、『将来の為に貯金している』っと話してある。まあ、嘘は言っていない。

 ただ、このお金は間違いなく船旅で底を付くだろうな。

 そして、俺は硬貨を一枚一枚丁寧に袋に入れそれをリュックに戻した。…後は。

 それから、俺は大きな物を取り出しては紙に確認の印をいれていく。…良し。

 それが終わると、最後に丈夫な靴と旅に適した靴を用意しリュックと合わせ、箪笥の一番上に入れた。

 そして、最後に俺は机から小さな箱を取り出して中に入っている、上質な紙を取り出した。

 それは、両親への別れの手紙だった。…俺はそれを、心の中で読み始めた。


『-父さんと母さんへ。

 私は、今日この村を出て行きます。…きっと今頃は、大陸に向かう船の中でしょう。

 どうか、親不幸な私を許さないで下さい。そして、どうか私の物はすべて捨てて下さい。

 でも、せめて二人の健康と日々の安寧を祈らせてください。

 仁より』

 そして、俺はそれを箱に戻し旅立つまで机の中に隠す事にした。後は、そっと窓を開けておく。…玄関から出ると、バレてしまいそうな気がするのだ。

 それが終わると、俺は逸る気持ちを抑えベッドの上に座り真夜中まで待ち始めた。


「…ん?」

 すると、お隣の土田さん家の方から何やら話し声が聞こえた。しかも、彼らは直ぐに我が家に向かって歩き始めた。

「(…多分、心配して来てくれたんだろう。)おーいっ!」

『-っ!?』

 俺は、窓から身を少し乗り出し表通りに居る幼なじみ達に向かって声を掛ける。当然、彼らは驚きつつこちらにやって来た。

「…仁ちゃん、大丈夫なの?」

 すると、朝子が真っ先に声を掛けて来た。…その顔はかなり不安そうだった。

 多分、俺達が帰って来た時は集会所で待機を言い付けられていたから、余計に不安になっていた事だろう。

「…ああ、不思議な事にな」

「…良かったぁ~」

 俺が笑顔で返すと、彼女は心の底から安心した様子になった。…こんなにも優しい娘とも、俺は離れなければらないのか。

 彼女の顔が晴れやかな物になっていく一方、俺の心の中はどんどん曇っていく。

「…透や大人達から話を聞いた時は、凄くびっくりしたよね」

「…うん。…本当、皆無事で良かった」

 そして、俺の心の変化を知らない恋と愛は改めて俺達の無事を喜んでくれた。

「…なあ、仁。さっきは、本当にありがとう」

「…ありがとうございます」

「私からも、ありがとう。それと、父さんとおじさんも守ってくれてありがとう」

「ありがとう、仁ちゃん」

「…ありがとう」

「…どういたしまして(…やっぱり、辛いな。でも、おかげで本当に決心が着いた)」

 そして、幼なじみ達は俺に礼を言って来たので俺は照れながら返す。…けれど、その心の中では決意を固めた。

「じゃあ、まあ明日」

「それじゃあ、お休み」

「「ばいばいっ!」」

「…じゃあね」

「ああ(…本当に、ゴメンな)」

 やがて、幼なじみ達は自分の家に帰っ行くので俺は見送った。…けれど心の中では、彼らに深く謝った-。



-…良し。

 それから、かなりの時間待った後…俺は旅支度を整え外に出る。無論、両親が寝たのは確認済みだ。

 何故なら、両親はいつも寝る前に俺の部屋の前で挨拶をするのだから。

 そして、俺はなるべく裏通りを通って…この村の名前の由来となった大河へと向かった。

「…ふう(ここまでは、大丈夫だ)」

 少しして、大河に到着した俺は近くに掛けられた橋を渡り、下流の方へ向かう。すると直ぐに河沿いにある、船小屋が見えて来た。


 …幼なじみ達と港の学校に行く時は、いつもここから出発だったな。

 俺や女子三人は早起きだから余裕を持ってここに来るが、大や透はいつもギリギリだった。…んで、船頭役の大人と女子達に笑われていた。


 そんな事を思い出しながら、俺は素早くそこに入り月明かりを頼りにして一番端に停めてある小舟に乗る。…この舟は本来、港に物を運ぶ為の物だが今回は俺の旅立ちに利用させて貰う。

 だって、大河を使った方が朝には港に到着しているのだから。

「…っと」

 そして、俺はロープを外しオールで舟を操って大河に出る。…まさか、日頃の手伝いがこんな形で役に立つとはな。

 俺は、複雑な気持ちになりながら河を下り始めた-。

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