-それから、行きよりも遅いペースで山の中を進みようやく中間の辺りに差し掛かった。…というのも、大人達が俺に気を遣ってゆっくり進む事になったからだ。
本当に、ありがたい。…しかし、その大人達は少し前から緊張しているように見えた。
「…やはり、おかしい」
「ああ」
「…ですね」
そして、開けた場所に出た時村長の息子さんがぽつりと呟いた。すると、父さん達も真剣な顔で同意した。
「…どうしたんですか?」
「…先程から、山の動物の気配がしないんだ」
「…え?」
「…そういえば、行きは獣の足音や鳥の鳴き声が聞こえましたが、今は不自然なほどに聞こえませんね」
当然、幼なじみは不安になり質問した。それに対し大人の一人が答える。…それを聞いて、俺は大人達の様子に納得した。
「…本当、仁は良い耳をしているな」
「…だね」
すると、幼なじみ達は尊敬の目で俺を見た。…ただ、俺からすれば二人の方が羨ましい特技を持っていると思う。
大は、小さな頃から身軽で木登りが得意だったので、木の実の採取や屋根の修理の手伝いをしていた。
また、透は俺達の中で泳ぎが一番得意で大河をまるで魚のようにその身一つで泳ぎ、漁業の手伝いをしていた。
「…ふふ。仁は、狩の役割が向いているな」
一方、父さんは期待の眼差しを向けて来る。…実は俺が、村から出たいなんて考えているなど夢にも思っていないんだろう。
「…とりあえず、なるべく早く村に帰ろう」
「仁、大丈夫だな?」
「うん。……っ!?」
村長の息子さんが指示を出すと、父さんが俺の体調を確認して来た。だから、俺は頷いたのだが…直後、直感的に嫌な予感がした。
「…何だっ!?」
すると、大人の一人が素早く左の方を向き全員に注意を促した。…これは、獣の足音?
俺はそちらを向き、耳を研ぎ澄ませる。…すると、獣の足音がこちらに向かって来るのが聞こえたので、俺は叫ぶ。
「群れが来てますっ!しかも、かなり大きいですっ!」
『なっ!?』
「…来たぞっ!」
当然、全員動揺してしまう。何故なら、今は狩猟の道具を持っていないからだ。そして、程なくしてそいつらは姿を現した。
『ぶひぃいいいっ!』
「…猪っ!?」
「なんだ、このデカいヤツはっ!?」
なんと、茂みから飛び出して来たのはどう考えてもこの辺りに居ないような、馬鹿みたいにデカい猪の群れだったのだ。
「全員、何とか避けるんだっ!」
『ああっ!』
「「は、はいっ!」」
そして、猪達は勢いそのままに突進して来た。すると、息子さんは素早く回避の指示を出し全員直ぐに従った。…あのデカイ身体で突進されたら、大人でもひとたまりないだろう。
「うわっ!?」
「ひいっ!?」
だから、俺達は必死に避けた。すると、本当に幸運な事に全員何とか無事だった。…だが次の瞬間、俺達は恐ろしい光景を見る事になる。
『…っ!?』
やり過ごした猪達は後ろにあった沢山の大木にぶつかり…直後、大木達は轟音と共に根元から折れていく。
しかも、随分と頑丈なのか猪達はぶつかって直ぐにこちらを向いた。…どういう訳か、俺達は奴らの獲物になってしまったようだ。
「少年達っ!猪達は私達が引き付けるから、村へ知らせてくれっ!」
「っ!?」
「…えっ!?」
「……。…っ、分かりましたっ!」
すると、息子さん達は囮をかって出た。…当然幼なじみ二人は驚愕するが、俺は少し悩んだ後返事をした。
「…っ!皆、行くぞっ!」
『おおっ!…せいっ!』
そうこうしている内に、猪達は突進の予備動作を始めた。それを見た大人達は、そこら辺に落ちていた大きい石を素早く拾い上げ、それを力一杯、猪達に向かって投げつけた。
『ぶひっ!?…ぶひぃいいいいいっ!』
すると、そこら中で痛そうな鳴き声が聞こえた後、猪達は明らかに激怒した様子で大人達へ突進した。
「行けっ!」
「はいっ!…っ!二人共、行くぞっ!」
そして、息子さんの合図で俺は走り出す。けれど、幼なじみ達は走り出そうしなかったので俺は怒号を飛ばした。
「「…くそっ!」」
それを聞いた二人は、くやしそうにしながら走り出した。…二人の気持ちは、痛い程分かる。だって、俺も泣きそうになるくらい悔しいのだから。
「このまま、下の道を行くぞっ!」
「…っ、ああっ!」
「分かったっ!」
けれど、俺は何とか堪えつつ二人に告げる。…この開けた場所の出口側は道が二つに分かれていて、上の道は平坦で下の道は起伏だらけだ。
なので俺は、下の道を選んだ。その方が、猪達から追われにくいと考えたからだ。
「…大丈夫かな?」
「…俺達に出来るは、大人達を信じる事と少しでも早く村に緊急事態を伝える事だ」
「…ああっ!」
「…うんっ!」
すると、幼なじみは不安な様子で俺に聞いて来たので俺は今の自分達に出来る事を告げた。それを聞いた幼なじみ達は、力強く頷いた。
「良し。……え?」
…だが次の瞬間、俺の耳は絶望の音を捉えてしまった。
なんと、俺達の後ろからではなく左側から、また大量の足音が聞こえて来たのだ。
「…っ!な、なんだっ!?」
「…ま、まさか、別の群れっ!?」
直後、かなり急な斜面の上の方から…別の群れが遅い掛かって来たのだ。…くそっ、なんで考えてなかったんだっ!
「「うわあああああっ!?」」
そして、狭い山道の中俺達は避ける事も出来ずに猪達に突進され……あ、れ?
その瞬間、世界がゆっくりとなるのを感じた。おまけに、意識が遠のいていく。
『-…闘え』
…っ!?…この、声は?
そして、頭の中にまたあの声が聞こえた。…闘え、だって?…どう、やって?
『…闘え』
…っ!?…な、んだ?…身体、が、勝手、に?
どうすれば良いか分からず、思わず方法を聞いてしまう。…けれど、声は同じ言葉を繰り返すだけだった。
だが直後、俺の視線は勝手にゆっくりと低くなっていく。…つまり、俺は無意識に身を屈めた事になる。
訳が分からず戸惑っていると今度は左腕が勝手に動き、目の前に迫る大きな猪の横っ面をぶっ叩いたのだ。
当然、猪はゆっくりと右の方にゆっくりとお仲間達を巻き込こみながらふっ飛んでいく。
…鳴き、声まで、ゆっくり、だな。…っ!
けれど、猪はまだ六から七匹くらいおりそれが二列になっていた。…う、あ。
すると、俺はいつの間にか走り出していた。しかも、獣のような体勢で。
「…~~~っ!?」
そして、走りながら…俺は獣のような雄叫びを上げていた。…その直後、空から蒼白い光が降注ぐが猪達にら当たらなかった。…雷、か?
しかし、地面に落ちた瞬間小さな爆発が発生し猪達は四方八方に吹き飛ばされた。…なる、ほど、な。その、まま当たって、気絶させた、として、も、勢いは、殺せない。
だったら、奴らの、中心に、落として、吹き飛ばした方が、良い。…なんか、凄く、頭の良い奴、だな。……っ!
直ぐ傍まで迫っていた危機が去ったからか、俺は謎の声の主について考える余裕が出来た。しかし、俺はそのまま山を駆け…大人達の方に向かい出す。…っ!?
すると直ぐに…大人達の悲鳴が聞こえて来たので、俺は焦ってしまう。…だから、つい-。
「……っ!?」
俺が開けた場所に戻ると…やはり、大人達の何人かは負傷していた。…ただ、見た所重症ではないように見えた。
けれど、俺は…敵と味方がごちゃ混ぜになっている所に、お構い無しに雷を落としていた。
「…~~~っ!?」
当然、その場は混乱に陥る。…ヤバっ、と、まれっ。とま、れっ!とまれっ!
俺は、頭の中で何度も強く願う。…すると、だんだんと意識がはっきりして来た。だから、俺は大きく息を吸い込み叫ぶ。
「止まれぇえええええっ!」
直後、まるで願いが通じたかのように雷は止まり、同時に猪だけがバタバタと倒れていった。
「…はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」
「…じ、仁?」
「…い、一体何が?」
「…良かっ、た」
すると、我に返った大人達が驚愕やら不安の目でこちらを見て来る。…一方、俺は大切な人達を傷付けなかった事に安堵した-。