タローの住んでいるA国は、B国と長年に渡り戦争しており、タローの両親は戦争の犠牲となってしまった。平凡な幸せを奪われてしまったタローは、B国への謝罪を誓った。
「俺達家族は普通に暮らしていただけなのに…、いいだろう!B国人よ!お前らがこんな事を続けるのなら、俺はお前ら全員に謝罪してやる!」
謝罪の鬼と化したタローは、軍に入隊した。軍学校で戦争の歴史を学んだタローは、自分が謝罪に走るのは間違っていないと確信していく。
軍学校を優秀な成績で卒業し、部隊長として前線に来たタローは、初陣で敵兵全員に謝罪を果たした。
「これは家族の分!これは俺自身の分だ!」
そう叫びながら、敵兵へ次々と謝罪をしていくタロー。無論、大問題として報告され、タローは裁判にかけられる事となった。
「戦場は、君の謝罪を果たす場では無い」
「部隊長として、あるまじき行為だ。個人的な謝罪に付き合わされる部下の事を考えた事は有るのか?」
上官達は、タローを悪質な命令違反をしたとして処刑しようとしたが、世論がタローを支持し彼は無罪となった。自分が裁判にかけられる事を予測していたタローは、国民を焚き付けて、謝罪の正当性を広めていたのだ。
戦犯から英雄へと転じたタローを止められる者は、もうどこにも居なかった。
「タロー、謝罪なんてしてもむなしいだけだぞ」
タローの同期だったとある軍人は、謝罪の無意味さを説いてタローを止めようとしたが、タローはこう返した。
「確かに謝罪は何も生まないかも知れない。でも、やるとスッキリするだろ?」
その後、若くして軍のトップに登りつめたタローは、遂に国を挙げての謝罪を実行に移した。
A国一丸となっての謝罪を目の当たりにしたB国の人々は、感情を揺さぶられ、やがてB国からもA国への謝罪を行う者が現れ始めた。謝罪の連鎖である。
終わらない謝罪の連鎖を見た両国の政治家は、自分達の戦いの意味を考え直し、兵を撤退させた。
「父さん、母さん、全て終わりました」
家族の墓前で戦争の終わりを報告するタローの顔は、国民を扇動し謝罪を行った謝罪鬼とは思えない程穏やかだった。謝罪を成し遂げた彼は、漸く本来の人生を取り戻し、前へと歩き出す事が出来たのだ。
戦争を終わらせた英雄、タローはこんな言葉を残している。
『謝罪そのものに意味は無いとしても、謝罪をしたいという思いが私に力を与え、それが周りすらも動かしていった。故に、私の謝罪には間違いなく意味があったのだ』