やっほ~みんなこんにちは! ラケルだよ。
ラケルってrachelって書くんだよ。え? レイチェルとも読める?
ふふふ。そんな人、知らな~い。
なんてね。
イヴァル村の空高くから、ばれないように勇者たちを追っかけてま~す。
今、勇者たちはイヴァル村の一番奥、大きな山の麓にある洞窟に入っていったところ。この洞窟は私の隣にいるケプカが一生懸命作ったんだって。
すごいよね。……え、ちがう? 本人が言うには、
「俺様が作ったのは最初だけだ。あとは途中に転移魔法の魔方陣が仕掛けてあって、勇者たち全員を気づかれないように魔の森に転送するんだよ」
だって。……やっぱりすごいじゃん。
知ってる? 転移魔法ってすっごい魔力を使うんだよ。魔方陣を作って、そこに転送したい場所のイメージと魔力を込めてやっと発動するの。
一人分でも大変なのに、ケプカは千人の勇者をまとめて転送するんだって。やばくない?
なんか、超すごい魔族は魔方陣とかなしで転移魔法が使えるらしいけど、そんな魔族いるわけないじゃん。見たことないし。だって魔王様でさえ魔方陣を使ってるんだから。ま、噂話みたいなもんでしょ。
もうちょっとしたら魔法が発動して、勇者たちは全員魔の森に移動するかな。魔王城は森のすぐ先にあるから、あっという間に
じゃあ、ちょっと先回りして魔の森で待ち伏せするから、行くね。え? どうやっていくのかって? そりゃ、空を飛んで暗黒山脈を越えていくのよ。魔族だもん。空くらい飛べるでしょ。
人間も空を飛べたら、魔の森なんて飛び越えてすぐに魔王城に向かうことができるのにね。
じゃ、またね〜。
◇◆◇
イヴァル村の洞窟に入るちょっと前にこんなやりとりがあった。
「俺が先頭を行く。ウルフは最後尾から来てくれないか。万が一魔物に挟み撃ちされた場合、被害をできるだけ少なくしたいんだ」
「……わかった」
元騎士団長ルイスの申し出に対して、孤高の槍使い「神速のウルフ」がそう答えて、集団の最後尾へと移動した。もちろん一部のウルフファンもそれについていく。
ふはははは、ウルフに手柄は渡さんぞ。洞窟内の魔物たちは先頭の我々だけで狩っていくのだ! そして魔王との戦いが始まる頃には、レベルもかなり上がっているという算段だ! 魔王との戦いも、ウルフが先頭にやってくるまでに倒してしまえばいいのだ。そしたら大量の気を独り占めできるぞ! そして私が大臣に。……いや、アーノルド様が戦死してしまった今、ゆくゆくは次期国王になれるのではないか? ふはははは、笑いが止まらん!
「ルイス殿、顔がにやけておりますぞ。大丈夫ですかな」
「我々も先頭に立ちますゆえ、どうぞよろしく」
「この鎧、光に反射して目立ちますもので目印としてなかなか好評なのです」
金銀銅の鎧を着た三人組が集団の先頭にやってきて、順番にそう言った。
こいつらは、ポンボールの勇者たちを束ねる指揮官か……。まあいい。こいつらは俺の引き立て役にでもなってもらおう。しかし、派手な色の鎧を身に付けやがって。ええい、俺より目立つんじゃない!
「ああ、よろしく頼む」
ルイスは心に思ったことを決して口には出さないようにして、本人なりに自然に対応したつもりだった。
「金の鎧の男」ゴルドはゴルドで、ここで目立っておけば多くの勇者の中でも一目置かれる存在になれるはず! という小さな野心をもっていた。
そうして、千人近い集団がぞろぞろと洞窟の中へ入っていく。
アダムやレベル22の男は真ん中くらいの、ホフマン姉妹と「狙撃手」ダニエルは後ろの方の集団に加わり、それぞれ洞窟へと入っていった。
最後に孤高の槍使い「神速のウルフ」が無言のまま、時折後ろを振り返りながら洞窟へと消えていった。
しばらくして、
「なんか怪しくないか?」
と、松明を片手に歩きながらアダムが言った。前方をゆく集団からは戦いの音のような騒がしさは聞こえてこない。聞こえるのは鎧のガシャンガシャンという金属音ぐらいだった。遠くを見やると、小さな灯りとそれを反射している金銀銅の光が微かに見える。おそらくあそこに先頭のルイスや三人組がいるのだろう。順調に進んでいると思われる。
なので、後ろをゆく集団は大した緊張感もなく単なる洞窟探検をしているような雰囲気になっていた。
「何が?」
レベル22の男がめんどくさそうに聞く。
「こんな大きな洞窟、どうして今まで誰も見つけられなかったんだ? しかもこれ、魔の森に続いているんだろ? 暗黒山脈を超えなくていいとか、めっちゃ楽じゃん」
「あの村の住人が隠していたとか?」
「何のために?」
「さあ?」
アダムとレベル22の男がそんな話をしていると、突然他の勇者も話に乗ってきて盛り上がった。
「イヴァル村の住人はさ、魔の森に繋がるこの洞窟を封印している一族の集まりだったんだよ。だけど魔物に襲われて村は焼け、封印が解かれちまったんだ」
アダムたちは驚いた顔をして
「なんだそれ? 本当か?」
と尋ねた。相手は真剣な表情をして、
「……今俺が考えた」と言って表情を崩した。一瞬の静寂の後、どっと笑い声が起きる。
「んだよー、本当の話かと思ったよ!」
「びびったー!」
「だったらここは魔物の通り道になるはずじゃん!」
「それもそうだ! この洞窟、魔物なんて一匹もいないしな!」
なかなかに平和な集団が洞窟の中を進んでいった。
◇◆◇
ねぇ、いつまでたっても勇者たち来ないんだけど。
ケプカさぁ、魔法失敗したんじゃないの?
「俺様が失敗などするわけないだろう。魔の森で迷っているだけじゃないのか!」って言ってるけど、どうだかなぁ。
もっと森の奥深くまで行ってみる? もしかしたら私たちより先に勇者たちが進んでいったのかも。
バチィッ!
痛っ、なにこれ? この先見えない何かで行けないようになってるんだけど! ほらケプカも触ってみなよ!「痛って! 何だよこれ、結界か何かか?」
ふふっ、私だけ痛い目に遭うなんてなんか癪じゃない? 道連れにしてみちゃった。
結界……ってことはだれかがこれ以上進めないようにしたってことだよね、
ってことは、勇者たちはどうなっちゃったの? やば、洞窟の中に取り残されたままとか、最悪全滅したとか?
とりあえず、魔王様に報告じゃない?