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第73話

イヴァル村は戦場と化した。

「ガアアアッ」と魔物が声をあげて勇者たちに襲いかかる。



◇◆◇



 巨大な爪で引っ掻くような攻撃を、ある勇者が盾で防ごうとした。すると、いとも簡単に盾がぐにゃりと曲がり、使い物にならなくなった。


「嘘だろ?!」

 その勇者は盾を捨て、攻撃に出る。魔物は攻撃は恐ろしい威力を持っていたが、守ることは知らずただただ突っ込んでくるのみだった。


 爪の攻撃を交わし背後からを背中を突くと、魔物は叫び声を上げたあと動かなくなった。そしていつものように倒れた体から黒い気が出てきて勇者の腕輪の中に吸収された。


 腕輪の中の数字が一気に増えたのだろうか、勇者はニヤニヤしながら「こいつらすげぇぞ!」と言って、他の魔物を倒しに向かった。



◇◆◇



 一方、アダムは苦戦していた。自身の武器である斧は、威力はあるが攻撃の速度が遅い。動きの速い魔物には分が悪かった。


 敵の攻撃を斧で防ぐので手一杯になってしまったアダムはじりじりと後退する。そうしていると、敵の攻撃で斧が柄の部分から折れてしまった。


 「ここまでか!」アダムは死を覚悟した。次の瞬間、魔物の首が綺麗に切られ、地面に転がった。

 驚いてアダムが様子を伺うと、魔物の後ろには元騎士団長のルイスがいて剣についた血を振り払ったところだった。ルイスは自身の腕輪に魔物の気が吸収されたことを確認すると、アダムに一本の剣を手渡した。


「大丈夫か、ほらこの剣を使うといい。この村にあったものだ」


「助かったよ、あんた命の恩人だ!」


「この魔物たちは攻撃が直線的だ。避けてから攻撃を加えれば簡単に倒せる。」

 ルイスがそうアドバイスすると、颯爽とその場を去って行った。



◇◆◇



「うわあぁぁぁぁ、なんで俺にだけ三匹も来るんだよォ!」


 レベル22の勇者は、追いかけてくる三匹の魔物から逃げ続けていた。自身の剣は攻撃した時に爪に弾かれ、真っ二つに折れたので投げ捨てた。

 攻撃手段をなくした彼には逃げることしか思いつかなかった。しかし徐々に追い詰められ、家の外壁を背にして三匹の魔物に囲まれた。


「待て待て待て待て、な! 金なら! 金なら積むからよ!」


「ガアアアアァ!」


 魔物たちが大きく口を開けたときだった。ザシュッという音が立て続けに三回。三匹の魔物の眉間に背後から矢が突き刺さった。


 遠く離れた場所から弓を打ったのは、「狙撃手」ダニエルだった。ダニエルの腕輪に向けて三体分の魔物の気が吸収されていく。


「す……すげぇ。あんな離れた場所から全員同じ位置に矢を撃ち込むなんて!」


 レベル22の勇者が喜んだのも束の間、三体の魔物たちが命を失い一斉に彼の方に倒れてきた。


「うそぉ!」レベル22の勇者は避けることができず、三体分の魔物の下敷きになってしまった。幸い、魔物を貫通した矢が勇者に刺さることはなかった。



◇◆◇



「……」

 神速のウルフは無言のまま、襲いかかってくる魔物を次から次へと蹴散らしていた。長い槍を魔物に突き刺したかと思えば、そのまま振り回し周りの魔物をなぎ倒した。敵の攻撃は槍で受け流し、体勢が崩れたところを一閃。戦い方に隙がなかった。


 その姿に見惚れている者、戦い方を参考にしようとする者、とりあえず近くにいれば魔物にやられることはないだろうと目論む者、たくさんの勇者が彼の周りに集まっていた。


「……ちょっと戦いづらいんだが」


 やっと口を開いたウルフが他の魔物を探しに行こうとすると、ぞろぞろと他の勇者たちもついて行った。



◇◆◇



 それぞれ金銀銅の鎧を着たゴルド、ジルバ、ブロズの三人もまた、一匹の魔物と戦っていた。他の勇者たちが戦っている魔物よりもひと回りもふた回りも大きく、なかなかの強敵だった。


 これまでの魔物は攻撃を避けさえすれば隙が生まれて簡単に倒すことができたが、この魔物は攻撃力はさることながら、その大きさゆえになかなかの体力があり、しかも硬い皮膚のせいで刃が通りづらかった。三人がかりで攻撃を繰り出すのだが、なかなか致命傷を与えられない。


「しかし、このままでは埒が明かないな」


 金色の鎧を着たゴルドが敵の攻撃を避けて、少し距離を取って言った。三人とも戦闘が長引き、肩で息をしていた。


 魔物は叫び声を上げてまだまだ疲れた様子を見せない。長期戦になるほど不利になる……早く勝負を決めなくては。とゴルドが思っていた矢先のことだった。


「お助けします!」


 威勢のいい声と共に、二人の女性勇者が加勢に入ってきた。二人とも髪の毛を二つ結びにして、両手には拳鍔を装備し、拳法着を身に纏っている。


 ホフマン姉妹だった。


 ゴルドたちは後ろから姉妹の姿を見る形になったが、身長も体型もほぼ同じで見分けがつかなかった。まるで分身の術を見ているかのようだった。


「はっ!」

 とホフマン姉妹は声を合わせて魔物へ向かっていった。


 一人が魔物の攻撃を避け、足払いで魔物のバランスを崩す。その間にもう一人は宙を舞い、豪快な飛び蹴りを魔物の顔面にお見舞いする。


 続けて二人で同時に倒れた魔物に向かって飛びかかり、手につけた剣鍔で魔物の顔を潰した。地面に黒い血が広がり、そして魔物の体から出る気が二人の腕輪の中へと吸い込まれていく。


「……ありがとう、二人とも」


 ゴルドたちはあっという間の出来事に信じられないと言った顔をしながら礼を言った。あんなに苦戦した魔物を一瞬で倒してしまった。


 これが噂のホフマン姉妹か……強いなんてもんじゃない、強すぎる。振り向いた姉妹はびっくりするほど瓜二つだった。しかし、可愛い顔してなんのためらいもなく魔物を始末する二人が恐ろしくもあった。


「お怪我はありませんか? まだ魔物は残っています。一匹残らず退治しちゃいましょう!」




 こうして、勇者たちは襲いかかってくる魔物を、連携しながら倒し続けていった。



 ◇◆◇



「あーあ、みんなやられちゃった」


 空の上から一部始終を眺めていたラケルが残念そうに言った。ケプカはさも当然という表情をして

「元の素材が弱かったからな、仕方がない」

 とあっけらかんとしていた。


 せっかく作った魔物人間が勇者たちに簡単に蹴散らされたのは残念ではあったが、彼にとってみればこの戦いは単なる余興でしかなかった。


 強そうな勇者がちらほらいたが、どうせ戦う機会なんてないのだからどうでもいいことだった。


「で、この後どうするの?」


「勇者たちが魔王と戦うまでこうしてついていくさ、ラケルはこれから仕事だろ?」


 ケプカの言葉に、ラケルが首を横に振って答えた。


「んー、今日は休み。もう勇者って募集しないんだって。」


「まあ、国中の強そうな人間はあらかた勇者になったもんな」


「報酬をもらいにくる勇者がいるかもしれないけど……ほとんどここにいるんでしょ? 今日は来ない来ない!」


 二人は眼下に集まっている勇者たちを見ながら、そんな話を続けていた。



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