「改めて話を整理いたしましょう。生きた人間を冥界に送り込んだのは、サーシャ様ではなく自らを魔王と名乗っている偽物の仕業だということで間違いございませんね」
飲み物とお菓子をすっかり食べ終わった大臣が場を執り仕切る。五人それぞれが席につき、真面目な顔つきに戻って話が再開した。
「ああ。しかもそやつは人間の国王に化けて、数年前から過ごしていたと思われる」
サーシャが付け加えた。
「数年前……というとあの事件の頃か」
ハデスがぽつりと呟いた。それにアーノルドが反応する。
「あの事件?」
「さーたんが魔王になってしばらくの頃の話だ。魔王城に保管されている魔の宝珠が何者かに奪われてしまってな、いまだ見つからずじまいだ」
サーシャの別荘で映像として見せてもらった金色の宝石のことか、とアーノルドは思い出していた。確か魔力の源と言っていた。
「もしかしてその宝珠を奪ったのが、偽物の魔王なんじゃ?」
リディアが思いついたように言った。それにサーシャも賛同する。
「われも今、それを思ったところじゃった。偽魔王のあの強さ、おそらく宝珠の力を借りておるに違いない」
「確かに、その可能性が高いかもしれないな……宝珠が奪われた時期と国王が入れ替わった時期もちょうど重なる」
ハデスも二人の意見を聞いてそれに同意する。
「っていうことは、まず宝珠を見つけて取り戻すのが先ですね」
リディアがそう提案すると、ハデスが拳を前に突き出しながら言った。
「直接乗り込んでぶっ倒せばいいじゃないか」
その言葉にリディアがぶるぶると顔を横にふる。
「いやいやいや、私たち全く歯が立たなかったんですよ!」
「前回は不意を突かれたからの……次戦うときは絶対に負けんぞい」
戦う気なんてさらさらないリディアに対して、サーシャは再戦に対して意欲的であった。想定外だったとはいえ、同じ魔族に負けてしまうのはやはり魔王として許せないものがあるのだろう。
「え、さーたんも戦うの?」
ハデスが目を大きく開けて問う。
「もちろんじゃ」
「じゃあ私も行く!」
ぴん! と左手を上げて即答するハデス。そこに大臣がぴしゃりと釘を差す。
「ハデス様! あなた様は冥界を統治するという仕事がございます。冥界を離れるわけにはいきませぬ」
うっ、とハデスの動きが一瞬止まったが、悪い考えが閃いたのかニヤリと悪巧みをするような顔をして言った。
「なら私がいない間、お前が冥王代行ってことで。それなら問題ないよな」
「ええ?」
「えっと、偽物の魔王をちゃちゃっとぶっ倒して、さーたんの別荘行って、手料理食べて、一緒にお風呂入って……ふふっ、泊まらせてもらって……三日……いや一週間で帰ってくるから」
ハデスは右手に持っている杖を大臣に手渡した。受け取った大臣は、前代未聞の出来事に開いた口が塞がらなかった。
「何を勝手に決めておるのじゃ!」
「でも、私がいた方が戦力になるぞ」
「それはそうじゃが……」
サーシャとハデスがもめているところに、リディアも会話に加わる。
「ハデス様って強いんですか?」
「強いなんてもんじゃないぞ。われでも全く歯が立たないくらいじゃ」
へへへ〜さーたんに褒められた! と、ハデスはその言葉を聞いて照れて嬉しそうに頭をかいている。
しかしそれが本当だとしたらどれだけ心強いことか、きっと偽魔王にも勝てるはずだとアーノルドは期待した。
「しかしハデス様……私は心配にございます。偽物といえども魔王を名乗る者。万が一のことを思うと……」
大臣が心配そうにそう告げる。
「心配するな。さーたんの目の前で醜態を晒すわけにはいかないからな。負けることなど絶対にない。……あ〜さーたんがぎゅっと抱きしめてくれれば200%の力が出せたりするんだけどな〜」
ちらちらっとサーシャの方を見ながらそんなことを言う冥界の全てを司る我が王の姿を見て、それが醜態なのでございます……と大臣はまたしても頭を抱えた。
サーシャはハデスを完全に無視して、話を進めた。
「では地上に戻り、改めて偽の魔王と再戦と行こうかの」
何だか盛り上がっているけど、私とアーノルド様って逆に足手まといなんじゃないかしら。そう思ってリディアは肩をすくめた。するとそこにアーノルドがやってきて言った。
「魔族の戦いに人間は役に立たないかもしれないけど、僕らには僕らのできることがあるはずだよ。」
「そっか。そうですね!」
とリディアは納得して笑顔になった。
「私たちは隠された宝珠を探すとか!」
「そうだね、お城のどこかに隠してあるのかもしれないし、本物の父上ももしかして幽閉されているかもしれない……」
アーノルドもその方がサーシャやハデスの役に立てるんじゃないかと思った。
そんな中、ハデスが「あ!」と声をあげて何か思い出したようだった。
「そうだ、地上に戻る前に一人、連れて帰って欲しい奴がいるんだよ。あいつのせいで今冥界がめちゃくちゃになっててさ……」