番外編です
◇◆◇
「シスター!!」
アーノルドとリディアが声を震わせて,涙を流している。
俺が人間で唯一愛したフィリアが今、息を引き取った。最後に少しだけでも話ができてよかった。すぐに俺も後を追うから。
「おお、アーノルド……惜しい人を亡くしてしまったな……」
遅れて部屋に入ってきたのは……どうやらアーノルドの父親、国王だろう。見たところ貫禄もある。しかし、何か変な感じがする。まあいい。どうせこの場限りの相手だ。
「おや、この方は……?」
当然ながら俺の存在に気づく。まずい、ここで俺が魔族だということがバレてはめんどくさいことになる。何とかはぐらかす方法を……。
「……ラームさんです。リースの街に住んでいる、シスターの……友人です」
ふっ。ここはアーノルドに感謝しなければいけないな。あいつ、どうも頼りないと思っていたがなかなかどうして気がきく男じゃないか。
「あなたがラーム……シスターから話を伺ったことがあります」
国王が俺の肩に手を置いた。……俺のことをフィリアから聞いたことがある?嘘をつけ。
とその瞬間、国王の手を通して誰かの記憶が俺の頭の中に流れ込んできた。
◆ ◇ ◆
「……さて、本当はなんの用事ですかな」
「おや、ばれておったか」
フィリアと国王が話をしている。……これは、フィリアの記憶? いつのものだ?
「さっきシスターがアーノルドに渡した首飾り、あれのせいでなかなかここに近づけなくてね。よかった、渡してくれて」
首飾り! そうかこれはアーノルドたちがリースに来る前の出来事か。この時にフィリアはアーノルドに首飾りを渡したのか。そしてこの国王は……。
「……あなた……誰? ニクラスじゃないわね」
「おっと、今頃気づいたのかね? とっくに知っているかと思ったよ」
フィリアが国王の異変に気付いたが、遅かった。国王の手から黒い気が湧き立ち、フィリアの腹に手を突き刺した。
「うっ!」
おい、早くフィリアから離れろ! 当然ながら俺の声は届かない。あくまでこれはフィリアの記憶の中。俺は黙って見ていることしかできない。
「聖水を作られると困るんだよ……魔族にそれは劇薬だ」
国王がゆっくりと手を引き抜く。ズチュッという気味の悪い音がした。
フィリアが腹を抑えるが、傷一つない。確かに手が体の中に入ったのに、衣服に汚れひとつさえついていない。
「あなた……今何を……」
「ここで血を流して死んでしまうと私が疑われてしまうだろう? シスターの体の中に魔法を埋め込ませてもらったよ。じわじわと死に向かっていく魔法をね」
「なんてことを……っ!」
「大丈夫。みんなただの病気としか思わないよ……では、残りわずかな人生を楽しんでくれたまえ」
国王が笑いながら礼拝堂を出ていく。
「そうそう、さっき来た二人に私のことを話すなよ。話したら……やつらも殺す」
「くっ……」
フィリアが膝をついて、何か喋っている……何と言っているんだ?
「……二人を助けて、ラーム」
◆ ◇ ◆
ドクン!
「お前か……。お前がフィリアを……! 許さん、許さんぞォォォォ!!」
この時、俺の中で何かが壊れた。頭の中に何かどす黒いものが流れ込んでくる。
何だこれは……こんなもの、俺の体の中にはなかった……国王か! さっき俺に触れたときに、フィリアの記録と同時に何か入れやがった……。あいつ……人に化けた魔族か!
くそっ,最後の最後で訳のわからん魔法に引っかかって……しまう……ワケニハ……
「ガアアアアアアアアアッ」
やめろ……コンナの……俺ジャ……なイ……
体ガ……心ガ……コワレテイク。
ダレカ,オレヲ……止メテクレ。