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第57話

番外編です。


 ◇◆◇



なあグラハムさん、聞いてくれよ。


 「勇者の心得」っていう規則があるだろう? あれは絶対守らなきゃだめだ。え、どうしてかって?


 見てるんだよ、神様が。……いや、笑うところじゃねぇし。


 この間、俺たちは……って言っても今は一人だけどさ、仲間だった奴らと四人でリースにいたんだ。リースには勇者があんまりいないっていうからさ、俺らが行けば英雄扱いだろうと思ったわけ。


 でも実際行ってみたらよ、みんながみんな「サンドドラゴンを倒してくれ!」の繰り返し。


 ほら、砂漠の真ん中にいるやつ。


 王都からの物資をそいつが襲うせいで、リースの街は食べるもんがないんだよ。わかる?


 しかもさ、正直言って俺らにサンドドラゴンを倒せるわけがないじゃん。見たことある? サンドドラゴン。すっげぇデカイの。この宿屋ぐらいとは言わないけどさ、とにかく勝てるような相手じゃないんだよ。


 だからさ、俺ら……いや俺だ。

 俺はさ、ずっとリースに着いてからイライラしてたの。街の奴らはうるさいし、食事も大したものがないし、魔物は強すぎるしよ。



 そこでついつい、一般人の婆さんを傷つけちまって……いや、わざとじゃないんだよ。冗談で剣を向けたらたまたま当たっちまって……それがいけなかったんだ。


 グラハムさんも聞いただろ、リースの街が崩壊したって。


 あれ、俺のせいなんだ。


 婆さんを傷つけちまってせいで神様が怒ってよ……街に火の雨を降らせたんだ。そのせいで家はほとんど崩れて、その下敷きになった人もいたよ……。


 何人助けたのか? ……いや、助けられなかった。怖くて身動きすらできなかった……今思えば情けねぇ。しかも、当時の仲間が「決まり破ったのはこいつです」とか言って、俺を指差すわけ。それを聞いた神様は俺に向かって直接火の玉を投げつけてきてさ……死ぬかと思ったよ。


 なんとか王都に戻ってこれたはいいけど……あ、そうだった。そこのハリーとジミーの宿代と食事代、俺が払うから。いいんだよ、あんたら俺の命の恩人だからな、それくらいさせてくれ。じゃないとなんか……申し訳ねぇ。


◇◆◇


 そうそう、それと俺……魔王にあったんだよ。


 嘘じゃねぇって。マジで。

 どこでって……そこの西の森で。いやいやいや、本当だから! って誰だよ、笑ってんの! お前ら遠くで聞き耳立ててんじゃねぇよ、この話マジだから!


 情けねぇ話だけどよ、リースでの出来事があってから仲間が離れていってよ……俺は一人で西の森で狩りをしていたんだよ。あそこ、たまにラビティ以外の魔物も出るじゃん。なんかちょっと強めだけどレベルが上がりやすいやつ……名前は知らんけど。



 そいつでも狩ってレベルを上げてさ、ポンボールの勇者たちの仲間にでも入れてもらおうと思ってよ。あそこ確かレベル30以上だっけ……じゃないと入れないんだったよな。


 まあ、そんな感じで西の森を歩いていたわけよ。「くそ、サタンの野郎め!」とか言いながら。そしたら、森中がざわざわって音を立ててよ……で、俺は言ってやったわけ。


「サタンか!? でてこい!」って。


 したら、何と「誰だ、我の名前を気安く呼ぶ奴は!」って返事が返ってくるわけよ。そんとき俺は思ったね。ここでサタンに会って倒せたら、マジもんの英雄だって。


「うらぁ、サタンよぉ、ビビってんのか? 姿を見せろコラァ!」

 とか言ってたら、俺は見たんだよ。サタンを。



 まあ待てよ。そんなにがっつくんじゃねぇよ。……なんだよお前ら! 集まってくるんじゃねぇよ……へへっ、まあいい。聞いてくれよ。



 サタンは森の奥にいてよ、黒い闇の中に赤い顔だけが浮かび上がっていやがった。んでよ、「サタンか?お前がサタンなのか?」って叫ぶと、


 「うるさい!」と言って火を吐いてくるんだよ。火だぜ、火。あれは俺じゃなきゃ避けられなかったね。次に飛んできたのは氷。魔王ってのはさ、噂には聞いていたけど魔法ってもんを使うらしいぜ。ま、神様のに比べりゃ大したことはなかったけどな。


 え、攻撃したのかって?


 それがよ、俺を見ておそろしくなったのかすぐに森の奥に消えちまったよ。剣を投げつけようかと思ったけど、それっきり。


 せっかくの機会を逃しちまった。サタンを倒せてればレベルがあがってよ、新しい街の長になれたかも知れねぇってのに。全く惜しいことをしたぜ。



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