番外編です。
◇◆◇
なあグラハムさん、聞いてくれよ。
「勇者の心得」っていう規則があるだろう? あれは絶対守らなきゃだめだ。え、どうしてかって?
見てるんだよ、神様が。……いや、笑うところじゃねぇし。
この間、俺たちは……って言っても今は一人だけどさ、仲間だった奴らと四人でリースにいたんだ。リースには勇者があんまりいないっていうからさ、俺らが行けば英雄扱いだろうと思ったわけ。
でも実際行ってみたらよ、みんながみんな「サンドドラゴンを倒してくれ!」の繰り返し。
ほら、砂漠の真ん中にいるやつ。
王都からの物資をそいつが襲うせいで、リースの街は食べるもんがないんだよ。わかる?
しかもさ、正直言って俺らにサンドドラゴンを倒せるわけがないじゃん。見たことある? サンドドラゴン。すっげぇデカイの。この宿屋ぐらいとは言わないけどさ、とにかく勝てるような相手じゃないんだよ。
だからさ、俺ら……いや俺だ。
俺はさ、ずっとリースに着いてからイライラしてたの。街の奴らはうるさいし、食事も大したものがないし、魔物は強すぎるしよ。
そこでついつい、一般人の婆さんを傷つけちまって……いや、わざとじゃないんだよ。冗談で剣を向けたらたまたま当たっちまって……それがいけなかったんだ。
グラハムさんも聞いただろ、リースの街が崩壊したって。
あれ、俺のせいなんだ。
婆さんを傷つけちまってせいで神様が怒ってよ……街に火の雨を降らせたんだ。そのせいで家はほとんど崩れて、その下敷きになった人もいたよ……。
何人助けたのか? ……いや、助けられなかった。怖くて身動きすらできなかった……今思えば情けねぇ。しかも、当時の仲間が「決まり破ったのはこいつです」とか言って、俺を指差すわけ。それを聞いた神様は俺に向かって直接火の玉を投げつけてきてさ……死ぬかと思ったよ。
なんとか王都に戻ってこれたはいいけど……あ、そうだった。そこのハリーとジミーの宿代と食事代、俺が払うから。いいんだよ、あんたら俺の命の恩人だからな、それくらいさせてくれ。じゃないとなんか……申し訳ねぇ。
◇◆◇
そうそう、それと俺……魔王にあったんだよ。
嘘じゃねぇって。マジで。
どこでって……そこの西の森で。いやいやいや、本当だから! って誰だよ、笑ってんの! お前ら遠くで聞き耳立ててんじゃねぇよ、この話マジだから!
情けねぇ話だけどよ、リースでの出来事があってから仲間が離れていってよ……俺は一人で西の森で狩りをしていたんだよ。あそこ、たまにラビティ以外の魔物も出るじゃん。なんかちょっと強めだけどレベルが上がりやすいやつ……名前は知らんけど。
そいつでも狩ってレベルを上げてさ、ポンボールの勇者たちの仲間にでも入れてもらおうと思ってよ。あそこ確かレベル30以上だっけ……じゃないと入れないんだったよな。
まあ、そんな感じで西の森を歩いていたわけよ。「くそ、サタンの野郎め!」とか言いながら。そしたら、森中がざわざわって音を立ててよ……で、俺は言ってやったわけ。
「サタンか!? でてこい!」って。
したら、何と「誰だ、我の名前を気安く呼ぶ奴は!」って返事が返ってくるわけよ。そんとき俺は思ったね。ここでサタンに会って倒せたら、マジもんの英雄だって。
「うらぁ、サタンよぉ、ビビってんのか? 姿を見せろコラァ!」
とか言ってたら、俺は見たんだよ。サタンを。
まあ待てよ。そんなにがっつくんじゃねぇよ。……なんだよお前ら! 集まってくるんじゃねぇよ……へへっ、まあいい。聞いてくれよ。
サタンは森の奥にいてよ、黒い闇の中に赤い顔だけが浮かび上がっていやがった。んでよ、「サタンか?お前がサタンなのか?」って叫ぶと、
「うるさい!」と言って火を吐いてくるんだよ。火だぜ、火。あれは俺じゃなきゃ避けられなかったね。次に飛んできたのは氷。魔王ってのはさ、噂には聞いていたけど魔法ってもんを使うらしいぜ。ま、神様のに比べりゃ大したことはなかったけどな。
え、攻撃したのかって?
それがよ、俺を見ておそろしくなったのかすぐに森の奥に消えちまったよ。剣を投げつけようかと思ったけど、それっきり。
せっかくの機会を逃しちまった。サタンを倒せてればレベルがあがってよ、新しい街の長になれたかも知れねぇってのに。全く惜しいことをしたぜ。