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第51話

     翌朝。


 太陽が今まさに昇ろうとしている頃、ポンボールの街西門には五十名を超える勇者たちが集まっていた。

 ほぼ全員が重厚な装備に身を包み、誰かが歩くたびにガシャンガシャンと音を立てる。さらに顔を隠すような兜まで被っているものだから正直誰が誰なのかわからない。


 なるほど、だからみんな個性的な鎧を装備しているのか……とリディアは感心した。

 当の彼女は、アンロック鉱山製の胸当てに盾のみ。アーノルドは皮の胸当てという、周囲の者たちと比べると大変心許ない装備であった。


「おいおいおい、そんな装備で大丈夫か?」


 多くの勇者の姿に圧倒されている二人に、鋼鉄の鎧と兜に身を包んだ男が声をかけてきた。リディアは一瞬誰だろうとびっくりしたが、その声は昨日気さくに話しかけてきたアダムのものだった。


「アダムさん!」


「今からいく魔物の巣は結構な強敵揃いだぜ……とはいえ、そんな装備でもレベル70だもんな。リディアは相当強いんだろう。アーノルド様は……うん、まあ気を付けてくれよ。最後尾にでもいればいいさ」


 なんだか私は相当強い人って思われているけど……説明しても信じてもらえそうにないし……と、リディアはレベルのことには触れず、ニコニコと振る舞っていた。


 アベルが「じゃ、また後で」と去っていくと、リディアは周囲を見回してみた。

 ガルシアらしき人物は……いない。全身を鎧で覆っていたとしても、常人じゃないほどの大きさのあの男がいればすぐにわかるはずだった。


 彼女の頭の中には、昨日アダムが言った「あいつが本当に勇者になったのかい?」という言葉がずっと引っかかっていた。


 あれ……私の記憶違いだったかな……いや、確かにガルシアは自分で勇者の腕輪を身につけていたはず。そして、国王に会いにいくって言ってた……。そうか、今度陛下に会ったときに聞いてみればいいか。


「どうしたんだい、リディア」

 明後日の方向を向いてぶつぶつ言っているリディアを見かねて、アーノルドが声をかける。


「へっ、あ、すみませんアーノルド様!ガルシアのことを考えておりまして……」


「ガルシアって、昨日話をしていた賞金首の?」


「そうですそうです。あいつも勇者になったはずなんですけど、誰もその姿を見ていないって変だなぁと思いまして」


 再びリディアが周りを見渡してみる。アーノルドもそれに合わせて同じ方を向く。


「……僕もガルシアは写真でしか見たことはないけど……賞金首だし、他人とつるむってことはあまりしないんじゃないかな」


「そうですね、きっと一人で魔王城に直接乗り込んでいるのかもしれませんね!」



 そんな他愛もない話をしていると、金銀銅の三人組が姿を現した。昨晩と違うのは、顔全体も同じ色の兜で覆っていることだった。


「相変わらず派手な格好ですね」

「まあいいじゃない。わかりやすくて」

 リディアとアーノルドがこそこそ話をする。


「諸君!」

 と、金色の鎧の男がこれまた金色に輝く剣を取り出し、空高く掲げて叫んだ。


「今日こそ、闇の巣に潜む魔物たちを一掃するのだ!」


 おおおおおっ!と周りの勇者たちが雄叫びを上げる。二人も周囲の迫力に押されながらも、「おー!」と控えめに手を上げる。


「いざ行かん! 目標は西にある魔物の巣!」


 こうして、金銀銅の三人組を先頭に勇者一行は目的地に向かって歩き出した。




 しばらくして、静かになった西門に小さい影が一つ。勇者と思わしきその人物が、同じく西に向かって走り出した。



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