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第50話

「最近、我々が魔物を倒そうとするときにどこからともなく現れて手柄を横取りする勇者がいるらしい!」


 部屋じゅうの勇者たちがざわつく。


 俺もその話聞いたことあるぜ! とか、実際にやられたわ! などと近くにいた勇者たちが好き勝手に話し出した。


「静かに!」


 金色の鎧の男がそう言って両手を広げる。周りが再び静かになったのを確認して続ける。


「我々のレベルも40を過ぎると中々上がらなくなってくる。苦労して何十匹も魔物を倒して、やっと1つ上がるくらいだ。」


 あら、レベルを上げるのってそんなに大変なことだったのね、とリディアは思った。アーノルドは周りを見ながら、ということは何千匹もの魔物がこれまでに命を失っているということか……と計算して悲しくなった。


「こちらは命をかけて魔物と戦っているというのに、泥棒勇者は美味しいとこだけ奪って風のように消え去るのだ! これを許してなるものか!」


 そうだそうだ! とあちこちから声が上がる。

 その様子を見て、金色の鎧の男がうんうんと満足げにうなづく。


 次は銀色の鎧の男が話しだした。 

「そこでだ! 明日、ここにいる全員で街の西にある魔物の巣へ突入する!」


 続いて、赤銅色の鎧の男。

「我々が魔物を倒していると必ず、泥棒勇者が現れるはずだ! そこを捕らえる!」


 うおおお、と勇者たちが興奮する。自身のレベルも上がるだろうし、魔物の気を横取りする泥棒勇者も捉えることができる。一石二鳥のこの作戦に全員が賛成した。


「では、諸君! 明日の朝、西門の入り口に集合だ! このことは宿屋以外で口外することのないように! どこで泥棒が聞いているか分からないからな!」


「以上で勇者会議を終える!」


 そう言うと金銀銅の三人組は二階へと戻って行った。



 会議(というより三人組からの一方的な話じゃない、とリディアは思っていた)が終わると、他の勇者たちはまた飲み食いを再開し始めたり、明日の準備をするために自分の部屋へ戻っていったりした。


 リディアが先程話しかけてくれたアダムに向かって尋ねる。


「泥棒勇者って、私初めて聞きました。アダムさんは知っていましたか?」


「ああ、実は俺もやられたことがあってね」


 少しバツが悪そうな顔をしてアダムは話し始めた。


「魔物の気は、とどめを刺した者の腕輪に入るというのは知っているよね?」


 やっぱりそうだったんだ! という表情を出さないようにして、リディアは「はい」と答えた。アーノルドも黙ってアダムの話を聞いている。


「泥棒勇者はあと一撃で魔物を倒せるというときに、突然現れるんだ。そして、魔物にとどめを刺していなくなる。本当、いやな奴だよ。噂ではレベル50近いって聞くぜ」


「その泥棒勇者って……どんな人なんでしょうか」


「さあな、実際ちゃんと姿を見たやつはいないんじゃないかな……子供みたいな姿形だっていうやつもいるけど……真相はわからずじまいさ。」


 子供っぽい勇者、子供……はっ!

 リディアはふと、ジャスティンのことを思い出した。イヴァル村から来たという痩せ細ったあの子……考えたくないけど、もしかして泥棒勇者って……?


「おや、もしかして心当たりあるのかい? 勇者の間で受付をしている間、色々な人と会ってるだろ?」


 ぶんぶんと小さく首を振って、リディアは話題を変えようとした。


「そうですね、一番印象に残っているのは……あの人! ガルシア!」


「……あの王国一の賞金首の?」

 アダムが不思議そうな顔をして聞く。


「はい。ガルシアも勇者になって魔王を倒そうとしているはずですが……会ったことありませんか?」


「いや、聞かないなぁ。大抵レベルの高い勇者はここに集まるもんなんだが……おい! あんた! ガルシアが勇者になったって知ってたか?」


 アダムは近くにいた数人の勇者にガルシアのことを尋ねて回った。そして、掌を上に向けてお手上げの格好をして戻ってきた。


「誰も見たことないって。本当にあいつが勇者になったのかい?」


「え……?」

 リディアは狐につままれたような気分だった。

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