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第37話

 自称「魔王の右腕になる男」のケプカは炎を避けながら考えた。  


 こんなはずじゃなかった。一瞬で終わらせるつもりだったのに。

 魔力は圧倒的に俺の方が上だ。なのになんだ、あのラームというやつは。どこにあんな力を隠していやがった。

 炎の威力も悔しいけど圧倒的にあっちが上だ。だが、あの魔力の量でこの威力はありえない。なにかカラクリがあるはずだ。探せ。



 ケプカはラームの繰り出す攻撃を避けるので精一杯だった。空中をまるで鳥が飛ぶように高速で移動するが、それでも炎は確実にケプカを狙って襲いかかる。


「逃げるなよ」

 ラームの炎がケプカの右半身を捉え、削り取った。血反吐を吐きながら、ケプカが地面に落ちる。


 なくなった右半身からボコボコと黒い泡が沸き立つ。泡が収まるとケプカの体が元に戻っていた。


「回復にも相当の魔力を使うだろう。諦めて帰るんだな」


 ラームがケプカの前に立つ。実力差は明らかだった。




 私たちはとんでもない者と戦おうとしているのではないか、と魔物同士の戦いを見ながらリディアは思った。

 人間は魔法なんて使えない。

 なのに、魔物は当たり前のように魔法を使って戦っている。しかも掌から家を吹き飛ばすほどの炎を出す。

 それに体を半分失っても魔法で元に戻すなんて反則過ぎる。自称魔王の右腕というケプカでさえこの強さだ。魔王は一体どれほどの魔法を使うというのだろう。


 アーノルドも同様のことを考えていた。

 勇者が千人いたとしても、魔法を使う魔物に勝つことができるとは思えない。……そもそも他の勇者はこのような人の姿をした魔物と戦ったことがあるのだろうか?

 そして……父は、国王は魔物の強さをどこまで把握しているのだろうか。

 魔王の強さをわかった上で勇者制度を始めたのか、それとも魔物の強さがここまでだとは知らないのか……。



 二人は魔物同士の戦いに圧倒されて一言も発することはできず、未だに動くことすらままならなかった。 

 一緒に戦うなんて足手まといになるのは明らかだったし、何より空中に浮かぶ相手に対抗する手段もない。

 ただその場で見ていることしかできなかった。



 地面に這いつくばりながら、ケプカはまだ諦めていなかった。


 何か、何かあるはずだ。なぜこいつはこんなにも強いのだ……。ふと目を上げた先に人間が二人、目に入った。

 金髪の男と緑色の髪の女……くそ、人間なら簡単に始末することができるのに。


 そのとき、金髪の男の胸元に赤い竜の首飾りがあることに気づいた。巧妙に隠されているが,首飾りの中心にある赤い宝石に魔力が凝縮されている。


「それか!」

 倒れたまま、ケプカがアーノルドに向かって手を伸ばす。


「!!」


 アーノルドの身に付けていた首飾りが宙に浮く。

 ケプカが手を握ると、首飾りも音を立てて粉々に砕け散った。首飾りの赤い宝石から大量の黒い気が宙に舞い、消えた。



「ふははははは! あんたの魔力の秘密はあの首飾りの宝石だろ! もう俺が壊したから力は出せないはずだ!」


 地面に這いつくばったままのケプカが勝ち誇ったように言う。が、すぐに表情が青ざめる。

 首飾りが破壊されたことで、ラームが今まで以上恐ろしい顔つきでケプカを睨み付け,顔を踏みつけた。


「お前は絶対に許さん。跡形もなく消し去ってやる」


 ラームの掌から再び炎が立ち上る。しかし、先ほどと比べて炎に勢いがなく小さい。

 ケプカの言うとおり、首飾りがなくなったことで本来の力が出せなくなっていた。これならいける! と、ケプカが手でラームの足を払い退け,再び空中に飛び上がる。


 そして、両手を広げて

「魔王様! どうか私に力を!」

と叫ぶ。


 すると、突然空が暗くなり黒い雲が周囲を埋め尽くした。

 同時に風が強くなり、雲が動き渦を作る。その中心にケプカがいた。次の瞬間稲妻が鳴り響き、ケプカの体に命中する。


 リディアとアーノルドは驚きながらも、ケプカが雷に打たれて倒れた! と思った。だが、実際は違った。


「おい、二人とも」

 ラームが二人の方を見て言った。


「できるだけ遠くに逃げろ。こいつは俺でも止められるかわからん」



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