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第35話

「話が長くなってしまった。それで、他に聞きたいことは?」


 アーノルドが口を開く。

「魔物って何なのでしょう?」


 ん? とラームが眉をしかめる。すみません、と慌ててアーノルドが言葉を付け足す。


「これまでは、魔物とは悪さをする動物や悪霊のようなものとばかり思っていました。でも、あなたのように人間と姿形が変わらない魔物もいる。……何をもって魔物とするのかわからなくて」


 洞窟内でリディアも同じことを考えていた。王都に戻ったら図書館で調べようと思っていたが、そんな間も無くリースへ来てしまった。アーノルド様も同じことを考えていらっしゃったなんて……と少し嬉しくなった。


「簡単なことだよ。体内に魔力があるかどうか。それだけ」

 それだけ? という顔をしているアーノルドたちを見て、ラームは言った。

「ああ、魔法が使えるとか、寿命がちょっと長いとかそんな違いはあるけど、それ以外は人間や他の動物と変わらないよ」


 もう一ついいですか、とアーノルドが質問する。

「命が尽きたときに消える魔物について教えてください」


「……もう少し詳しく」

 ラームが真剣な表情になって聞き返す。


「……王都の西の森にいるラビティという魔物が他の勇者に倒されたときは、そこに死骸が残ったままでした。ですが、リディアが洞窟で倒した骸骨の魔物は煙のように消えて何も残らなかったんです。骸骨の魔物は聖水をかけて倒したのでその影響で消えたのかと思ったんですが、シスターは違うと……」


 しばらく考え込んでラームが言った。


「ふむ……恐らくそれは『作られた魔物』だろうね。恐らく、誰かが魔力を使って生み出したものなんだろう」


「作られた魔物……ですか」


「ああ、魔物の中でもとりわけ魔力の強い『魔族』だけにできることだ。魔力次第で特定の行動をするように仕組んだり、全く別の自我を持たせて普通の魔物として『産み出す』こともできる」


「じゃ……じゃあ、あの骸骨の魔物は『魔族の誰か』が魔法で産み出して洞窟に忍ばせたってことですか?」

リディアも横から話に参加する。


「話を聞いている限り、そうだろうな。きっとその洞窟に入られたくない何かがあったんだろう」


 リディアは自然と自分の胸当てに手を置いていた。――この防具の材料となる鉱石だ――と、瞬時に理解した。きっと魔王は勇者たちにこの鉱石で作られた装備を使われたくなかったんだ。


「それらの魔物を見分ける方法はありますか?」


アーノルドがさらに尋ねると、ラームが首を横に振った。


「いや、こればっかりは倒れた後じゃないとわからない。消えるか、消えないか。それしか判別方法はない」


「その魔物を作ることって、ラームさんもできますか?」


「もちろん……と言いたいところだけど、ここ数年、俺の魔力も衰えてきてしまってね。魔物を生み出すほどの力はないんだ。今できるのは、部屋の入り口を隠したり、お茶を入れたりするくらいだ。……俺もフィリアと同じで歳をとったのかな。」


 力なくラームは笑った。「フィリアと同じ」というその言葉にどこかうれしさをにじませたような……アーノルドはそんなことを思った。


「でもどうして……初対面の私たちにここまで詳しく教えてくださるんですか? ラームさんにしてみれば……私たちは敵じゃないですか」


 リディアが言いにくそうだったが、言葉を選んで話す。


「フィリアに頼まれたからな。彼女が信頼する人間なら、俺も信頼する」


 それに、とラームが続ける。

「人間にもいい奴や悪い奴がいるように、魔物だっていい魔物もいれば、悪い魔物もいる。別にみんながみんな人間と敵対しているわけではない。むしろ人間に興味をもっているものも多いよ」


 その言葉にリディアが反論する。

「でも、最近は魔王が中心になってテレジア王国に侵攻しているじゃないですか」


 不思議そうな顔をしてラームが言い返す。

「魔王が? そんな馬鹿げたことをするはずがない。あの方は人間とはできるだけ距離を置いて、見守ろうとしているはずだ」


 リディアも負けじと続ける。

「ですが、実際に魔物は侵攻してきているんです。今約千人の勇者が魔王討伐のために戦っていますよ」


 それを聞いてラームが驚いた。

「なんてことを! 魔王は魔力の調和を保つ存在なんだぞ。魔王が倒れるとそれこそ魔物たちは暴走を始めるぞ」


 アーノルドもリディアもそれは初耳だった。当たり前と言えば当たり前だが、魔物の事情など考えたこともなかった。ただ、御触れの通り「最近の魔物の侵攻を食い止めるために、魔物と戦い魔王を倒す」のが正義と考えていた。


「まさか君たちも勇者なのか?」



 アーノルドとリディアはこくりとうなづき、最近の勇者制度について詳しく説明をした。



「まあ、事情は分かった。人間がそういった制度を作ったのもわからんではない。で、それが勇者の腕輪ってやつか」


 ラームがアーノルドの腕を掴み、腕輪を触る。まるで何かを確かめるかのようにゆっくりと両手を動かしていく。


「……これを作ったのは誰だ?」


「さあ、そこまでは」

 困った顔つきでアーノルドが答える。

 リディアも勇者の腕輪を誰が作ったのかは知らなかった。これまで毎日何十個と勇者たちに配ってきたのに、そんなこと考えたこともなかった。


「ちょっとその腕輪を貸してくれ。一日あれば分析できる」


 そう言ったときだった。



ドオオオオン!



 頭上で大きな音がして部屋全体が大きく揺れる。


「崩れるぞ!」

ラームが叫ぶのと同時に、天井がぐにゃりとうねり崩れ落ちた。

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