「じゃあよ、俺たちはこの宿に泊まってるから王都に戻るときはまた声をかけてくれ」
「魔物が出ない砂漠越え、久しぶりだったっす!」
リースに到着したのは、予定通り翌日の朝のことだった。
案内人ハリーとジミーの二人にお礼を言って別れた後、早速アーノルドとリディアはラームという人物を探すことにした。
「なんだか、前に来たときと違う……」
リディアが町を見渡しながらつぶやいた。
土を固めた四角い家々が所狭しと建ち並び、街全体が茶色に染まっている。緑はほとんどといっていいほど見られず、乾いた風が吹くと砂埃が舞い上がる。
街には日焼けした肌をさらす薄着姿の人々が多く、この暑さを気にもしていないようだった。だが、町全体に活気がない。露天も出てはいるが、商品の数が明らかに少ない。それはアーノルドも感じ取ったようだった。
「これも魔物の影響なのかな……」
最近は王都からリースに訪れる者も少ないと、案内人のハリーも言っていた。物資などもあまり届かないのかもしれない。このような砂漠地帯では食料になるような植物も育たないだろうから……人々は苦しい生活を送っているに違いない。
王都に戻ったら、たくさんの食料をリースに送ってあげよう。そして少しでも早く魔王を倒して平和な世の中にしなければ。アーノルドは街の様子を見てそう思った。
「おお、その腕輪……勇者様ではありませんか!」
街を歩いていると、二人の身につけた腕輪に気づいた一人の老人が声をかけてきた。
「ええ、そうですが……何かご用ですか?」
リディアが応対する。
「魔物が出てからというもの、王都からの物資がなかなか届かんでの……街のみんながひもじい思いをしているんじゃ……」
やはり、思った通りだ。この老人も大分体が痩せ細っている。アーノルドが無言で老人を見つめる。
「ご覧の通り、リースは砂漠の街。作物はほとんど育たんので、食料は王都に頼りっぱなしなのです。ですが、砂漠に現れたサンドドラゴンがことごとく輸送を邪魔するもので……今やリースは深刻な食糧不足なんです」
一息ついて、老人が続ける。
「そこで、勇者様にお願いです。砂漠にいるサンドドラゴンとその巣を破壊してくださいませんか」
深々と頭を下げる老人に、二人は慌ててしまう。自分たちから「レベル0(と5)なんで、無理です」とも言うわけにはいかず、かといって「おまかせください」と言える自信もなく……。
「でも、サンドドラゴンってラクダで走れば逃げられるって聞きましたけど?」
リディアが言うと、老人は首を横に振って話を続ける。
「確かに。しかし、毎回そのような危険を冒してまでリースに食料を届けてくれる者たちもなかなかおらんのです……」
「巣があるってことは、ドラゴンは複数いるんだね?」
アーノルドの問いに、老人がうなずく。
「さすがは勇者様、その通りでございます。やつらは複数で襲ってくることもあるもんで……先日もたくさんの食料を乗せた商隊がやられてしまいました」
ここまで聞いて頼みを断るわけにもいかない。アーノルドとリディアが顔を見合わせ引き受けようと決意したときだった。
「話は聞かせてもらったぜ、ジイさん!」
二人の後方で複数人の声がした。