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第30話

 王都から南へ進むと徐々に緑が少なくなっていき、砂漠が広がっていく。その砂漠を越えるとテレジア王国最南端の町、リースがある。そこからさらに南に行くと、交流が途絶えている隣国、テペ共和国がある。


 リースはもともと、砂漠で暮らしていた民族が集まって作った町で、そこにテペ共和国から流れてきた者たちも合流した。厳しい環境の中でお互い助け合いながらこれまで繁栄してきた。


 しばらくして町外れに犯罪者たちの収監施設も作られ、国内の犯罪者はリースに送られるようになった。


 よほどの者でないと単独で砂漠を越えるのは難しく、脱走を図った者は少ない。脱走したとしても大抵は砂漠で野垂れ死ぬか、砂漠の殺し屋サンドドラゴンの餌食になっていた。


 ……最近は魔物の進行により、多くの者はここから「勇者様」となって旅立っていったので今ではごくわずかな犯罪者しか残っていない。



「……暑いですねぇ」 



 ちょうど太陽が真上に昇る頃、四匹のラクダが列をなして砂漠を進んでいる。


「……あとどれくらいで着きますか?」

一番後ろから着いてくるリディアが、先頭を歩いているひげ面の男に尋ねる。


「そうだなぁ……二日くらいじゃねぇかな?」

「ええ~!?」


「大変だけど、辛抱しようね……」

 リディアの前にいるアーノルドが後ろを振り向いて言う。平静を装っている彼も、実は体力を大分消耗していて極力話をしないようにしていた。


 全員が全身に布を覆い、できるだけ皮膚をさらさないようにして砂漠を進んでいる。当然のことながら暑さで体力を奪われないためである。


 先頭を征く二頭のラクダには、王都とリースを幾度となく往復している熟練の案内人ハリーとその弟子ジミーが乗っている。アーノルドとリディアが王都で雇った者たちである。


 その二人が砂漠を見渡しながら言った。


「この辺はいつも魔物が出てきて邪魔するんだが……今日はやけに静かだな。」


「サンドドラゴンが近くにいて、みんな逃げ出したんじゃないっすか?」


 サンドドラゴン、と聞いてリディアが震える。

「やめてください! そんなこと言ったら本当に出てきますよ!」


「もし出てきたら倒してくれよ、勇者様!」

 がっはっは、とハリーが豪快に笑い飛ばす。


 リディアが不安な顔をしていると、

「大丈夫っすよ。サンドドラゴンにもし遭遇しても、ラクダで走れば逃げ切れますから」

 と弟子のジミー。

 どうやらこれまでも数度、サンドドラゴンに遭遇して無事に逃げ切っているとのことだった。それを聞いてリディアは安心した。無言で黙ったままのアーノルドもほっと安堵の息を漏らした。


 そのまま魔物に遭遇することもなく、休憩も取りながら数時間。ラクダに乗りながら、アーノルドはシスターのメモを思い出していた。


 「魔王があなたを狙っています、気をつけて」


 魔王が狙っている……一体どういうことだろう。監視しているということか? でもどうやって?


 配下の魔物が近くで見張っている? いやそれはあり得ない。街中には魔物は入ってこないはずだ。


 魔物が人間に化けて街に入り込んでいる?


 いやそれなら街の中で勇者や街の人々が襲われるだろう。っていうか、魔物って人に化けることができるのだろうか?


 「あなた」とは文字通り、自分のことを指しているのか、勇者全員のことなのか……。


 もし勇者全員を監視しているとしたら……いやいや千人近い勇者を全員監視しているなど現実的ではない。

 とすれば、自分だけ……どうしてレベル0のひ弱な自分を……王子だから? いずれ捕らえて脅迫の材料にでもするつもりだろうか?


 さらに気になるのは、それをどうしてシスターが知っているのかということだ。シスターが魔物と接触して情報をつかんだ? まさかシスターが魔物と一枚噛んでいる? ……考えれば考えるほどわからなくなる。


「いやぁ~今回は運がいいぜ、お二方! 魔物が一切出てきやしねぇ!」


「これなら、明日にはリースに着きそうっすね!」

 先頭を征くハリーとジミーが嬉しそうに言った。


「よかったですね、アーノルド様!」

 リディアが嬉しそうに話しかける。


「そうだね」と答えたアーノルドの首飾りがキラリと輝いた。

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