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第26話

「……」


「……」


「……」



 リディアもアーノルドも、そして骸骨の魔物も黙って地面を見つめたまま一瞬固まってしまった。


 アーノルドの投げた……いや投げようとした聖水は魔物に届かず、むなしく自身の目の前の地面に落ちた。

 瓶は割れ,青色の液体がこぼれ出る。



 アーノルド様、物を投げた経験がないのかも! あ、利き手とは逆の手で投げたからか! って、今はそんなこと思っている場合じゃないし!


 心の中で呟きながらリディアが聖水を握りしめる。


 いや、この体制じゃまともに投げられない。もし私の聖水が当たらなかったら最後……起き上がって、もっと近づいて……。



「ガアアアアアッ!」



 骸骨の魔物が叫び声を上げた。その圧だけでアーノルドは尻もちをつく。

それを見て、魔物はアーノルドに突進する。


 その間、わずか数秒。



 アーノルドはなすすべがなかった。苦し紛れにナイフを構えたが何の意味もないことは自分でもわかっていた。


 思わず目を閉じる。


 遅れてリディアが立ち上がり、助けに走り出す。「だめ、間に合わない!」一か八かで握りしめた聖水を投げようとした瞬間だった。



「ギャアアアアアッ!」



 再び骸骨の魔物が叫び声を上げる。今度は威圧する声ではなく、苦痛にあえぐ声だった。


「!?」


 アーノルドがゆっくりと目を開けると、目と鼻の先に骸骨の魔物が立っていた。しかしその全身は青い炎に包まれ,苦しそうにもがいていた。


「アーノルド様!」


 リディアがアーノルドを拾い起こし、敵との距離を取る。


「一体何が……」


 そうして見つめた先、青く燃えている骸骨の魔物の足下を見ると、先ほどアーノルドが投げるのに失敗した聖水が広がっていた。


「まさか、地面にこぼれた聖水を踏んだから?」


 リディアはふと、いい考えを思いついた。


「だとすれば、この聖水を私の剣にかければ……!」


 そう言って、蓋を開け聖水を自身の剣にふりかける。そして、


「ええいっ!」

 とリディアは骸骨の魔物に向かって剣を振り下ろした。先ほどは簡単にはじかれてしまった攻撃がいとも簡単に通った。


「いける!」


 剣を振るう度に,切った場所から青白い炎が立ち上る。骸骨の魔物の腕が落ち足が崩れ、しだいに形がなくなっていく。


「聖水にこれほどまでの力があったなんて……」

と、アーノルドも驚いた表情でリディアの戦闘を眺めていた。


「これでっ!」


 リディアの剣が頭蓋骨を真っ二つにすると、「ギャアアアアアッ!」と断末魔をあげて骸骨の魔物は動かなくなった。


「や、やった……」


 無我夢中で攻撃を繰り返していたリディアは敵を倒して気が抜けたのか、ぺたりとその場に座り込んだ。そして、改めて自分が倒した魔物を見つめる。


 骸骨の魔物はもはや原形をとどめてはいなかった。


 聖水による炎も静かに収まっていた。やった、私、骸骨の魔物を倒せたんだ・・・リディアがそう思ったとき、魔物の体が一瞬にして黒い煙となりリディアの左腕の勇者の腕輪の中に入り込んだ。


 そして、骸骨の魔物の姿は跡形もなく消え去った。


「……あ」


 リディアの腕輪の球体の中の数字が、「0」から「5」に変わった。




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