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第20話

「骸骨の魔物を退治してくれる勇者募集! 最近アンロック洞窟に骸骨の魔物が現れて作業が進みません。どなたでもいいですので退治してください。報酬は洞窟で採れる鉱石で作った装備一式。詳しくはアンロック洞窟近くのアンバー酒場店主、フォートまで……って、これ私たちにできますか?まだレベル0ですし……」


 宿を出て、歩きながらリディアは依頼書を読み上げる。


 「うん、僕にいい考えがあるんだよ」

 とアーノルドは自信ありげに答えた。


 いや……ラビティの噛みつきで気絶してしまったアーノルド様にはいきなり高すぎる関門なのでは……と思ったが決して口に出すことはできないリディアであった。


 あれ、私たちどこに向かって歩いているんだろう……アンロック洞窟に向かうなら東門の方へ行かないといけないのに……この方向はお城?


 「アーノルド様、いい考えって一体……?」


 「骸骨の魔物と聞いてね、詳しい人がいたことを思い出したんだ。」



 いつものように行き交う民衆に優しく声をかけたりかけられたりしながら、二人は王都の中心にある城へと到着した。


「アーノルド様! お帰りなさいませ! ご無事で何よりです!」

 門兵が敬礼して挨拶をする。


 すれ違う兵士たち全員が深々と礼をし、それに丁寧に答えるアーノルド。その人望の厚さに改めてリディアは次期国王となるべき人物の器の大きさを感じ,先ほどの考えを恥じた。

 ……アーノルド様に傷一つ付けないように私がしっかり護衛しなければいけないわ、と。


 そうしてたどり着いたのは城の中にある礼拝堂だった。


 正面の壁には十字架や神々の像が飾られている。

 いくつもの薄暗い明かりが部屋を淡く照らし、それが幻想的な雰囲気に一役買っている。

 部屋の中心には像に向き合い手を合わせている女性の姿があった。


 リディアは礼拝堂の存在は知っていたが、入るのは初めてだった。一歩足を踏み入れた瞬間、ほかの部屋とは違った空気を感じた。


「シスター、久しぶりだね」


 アーノルドが声をかけると、手を合わせて祈りを捧げていた小柄な女性がゆっくりと振り返った。


 ずいぶんと年をとっているのは顔に刻まれた皺からわかる。しかし、年齢を感じさせないきびきびとした立ち振る舞い……いやこれまで積み重ねてきた品格と言うべきか……そういうものをリディアは感じた。


 シスターは来客の姿を確認するとにっこりと笑って言った。


「ああ、これはアーノルド様。お久しゅうございます。……こちらの方は?」


「はじめまして。リディアと申します。魔王を倒すためアーノルド様の護衛をしております。」


 シスターの目が大きく丸くなる。


「まあ、アーノルド様が勇者になったという話は噂で聞きましたが……本当だったんですねぇ……虫一匹殺せない優しいアーノルド様がねぇ……」


「……」

 ははは、とアーノルドは笑っていたがリディアは笑えなかった。


「それで、心優しい勇者様が何のご用でございますか?」


「対悪霊用の聖水がほしいんだ。これから骸骨の魔物退治に行こうと思ってね。」


「骸骨の魔物……でございますか……ええと……」


 そう言ってシスターは自分の首に手を回し,身に付けていた首飾りを外した。そして掌の上に置いて,二人に見せる。それは竜の形をしていて細かい装飾が施され、中央に赤い宝石が埋め込まれていた。


「まずはこれをおつけなさいまし」


 まるで母親が子供にしてあげるかのように、シスターが丁寧に首飾りを装備させてくれた。


「ありがとうシスター。これは一体?」


「私が以前、ある方より頂いた魔物除けの首飾りでございます。身につけておくだけで魔物を寄せ付けないと言われております」


 二人とも興味津々で首飾りを触り、中心の宝石を指でなでてみたりした。


 何の変哲もない首飾りに見えるけど……へえ,そんなすごいものが世の中にはあるんだ,とリディアは感心した。


「では聖水を準備してきましょう。アーノルド様、リディア様。少しお時間をくださいませ」


 シスターはゆっくりと、しかし,しっかりとした足取りで礼拝堂の奥へと消えていった。礼拝堂の中はとても静かで、ここだけ時の流れがゆっくり流れているように感じられた。


 アーノルドが口を開いた。


「シスターは僕が子供の頃からの付き合いで、よくお世話してもらったんだ。神事に関することもシスターから教えてもらったんだよ」


「そうだったんですね」


「そのとき聞いた話で『悪霊には聖水が効く』という話があったことを思いだしてね。ここを訪ねたというわけさ」


「つまり、その聖水を魔物にかければやっつけることができるというわけですね」


 うん,とアーノルドが頷く。


「ほう、アーノルドなりに考えて魔物を倒そうとしているのだな」

突然、二人の背後から声が聞こえた。

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