※ こちらも番外編です。「005 勇者になった少年」のその後となります。
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僕の村は貧しい。
魔物が住んでいる森に近いところにあるからだ、と母さんは言っていた。
だったら魔物が来ないように強い兵士でも配備してくれればいいのに、王様は何もしてくれなかった。
自分のお城は守りを固めるくせに、遠く離れた村はどうでもいいと思っているのだろう。
自分たちで魔物と戦おうにもたいした武器がない。
戦える者も少ない。
毎日のようにやってくる魔物に村のみんなはだんだん元気がなくなっていった。
そんなときだった、勇者募集の看板が立てられたのは。
村のみんなが僕に勇者になれと言ってきた。
勇者になれば武器が安く手に入る。それを村に持って帰れば魔物とも戦える。
僕が魔物を倒し、レベルを上げれば報酬も手に入る。
僕ががんばることで少しでも村のみんなが,そしてお母さんが元気になるのなら……
そう思って勇者になったけど現実は厳しかった。
村のみんなからもらったお金で必要最低限の装備を調えて戦いに出たはいいものの,西の森に住むラビティを倒すのが精一杯だった。レベルも簡単には上がらない。
魔物と思って倒したら、町の人の飼っている動物で怒られたこともあった。
しばらくして北に行ってみた。
ほかの勇者たちが簡単に倒していたイノシシの魔物に挑戦したけど、まったく歯が立たなかった。
戻ってきた王都の宿屋で仲間募集の張り紙を見て、これだ! と思った。
自分から複数のパーティに声をかけたけど、レベルの低さに断られた。当然だろう。自分が逆の立場でもそうする。
だから今度は自分から張り紙をしてみた。誘ってもらえるなら誰でもよかった。それでもレベルの低い,そしてあまりにも子供過ぎる僕を連れて行ってくれるパーティはいなかった。
それからは他の勇者たちにこっそりついていき,どうすれば魔物が倒せるようになるのか観察するようになった。
そうしてわかったのは、
「魔物の気は、最後にとどめを指した勇者の腕輪に吸収される」
ということだった。
ということは、最後の一撃を自分が与えれば労せずして魔物の気をいただけるということじゃないか? ……この事実に気づいてから僕は急速にレベルが上がるようになった。
いつしか他の勇者から「泥棒勇者」とか「横取り小僧」と呼ばれるようになった。
だけどそんなことはどうでもいい。レベルを上げて報酬をもらい、イヴァル村のみんなが元気を取り戻してくれればそれでいい。
今日も僕は強そうな勇者にこっそりついていく。
ばれないように隠れ、最後の最後で魔物にとどめを刺すのだ。