※ こちらは番外編です。「003 賞金首ガルシア」の話の続きとなります。
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「こらぁガルシア、離さんかぁ!」
首根っこをつかまれた兵士三人が空中で手足をばたばた動かして暴れている。
しかし、筋骨隆々の元賞金首ガルシアはそんな三人をものともせず、軽々と持ち上げたまま王宮の中を進んでいく。
「で、国王はどこにいるんだ?」
「国王様はお忙しいのだ! おまえと話をする暇はない!」
ガルシアは少しいらっとして、つかんでいた手の力を強める。
が、今は勇者であることを思いだし首を握りつぶすのは我慢した。
そして偉そうに言った。
「ちゃんと案内しろよ、俺は魔王を倒す勇者様だぞ!」
「ゴホ……わかった! ……わかった! ……ちゃんと案内するからとりあえず降ろしてくれ!」
息が苦しくなり兵士の一人がそう叫ぶと、ガルシアが三人を掴んでいた手をパッと放した。
「ぎゃっ!」
2メートルくらいの高さから突然落とされて三人は悲鳴を上げる。
「ほれ、早く案内しろ。勇者様は気が立っているんだ。じゃないとこんなになっちまうぞ!」
兵士たちの顔の前に、腰にぶら下がった人間の頭部が三つ。ガルシアがわざと見せつけるように体を横にする。
「ひっ!」
ガルシアにとってはアクセサリー代わりなのだろう。
そして、自分たちと同じくらいの大きさの戦斧も反対側の腰に装備しているのに疲れているそぶりは少しも見せない。
当然だが、三人で戦っても勝てる気がしない……兵士たちはガルシアにおとなしく従うしかなかった。
「さあ、着いたぞ。ここが国王の部屋だ」
王宮の最上階、一番奥の部屋。扉の前に兵士三人と大男の勇者一人が並んだ。
「……ここが国王の部屋か。……おう、お前らもう用済みだから帰っていいよ」
ガルシアが「しっしっ」と言いながら手を払う。それを見た兵士の一人が怒りをあらわにするが、もう一人がなだめる。
「ガルシア、国王様に失礼のないようにしろよ! じゃないと連れてきた俺たちの首が飛んじまう」
「あぁ? 心配すんな。その前に俺がお前たちの首を飛ばしてやるよ」
その言葉を聞いて、三人の兵士たちは逃げるようにその場を後にした。
「どれ!」
ガルシアは目の前の扉を勢いよく引いた。
部屋の中央には赤い敷物がガルシアの目の前から一番奥の玉座まで続いている。金の装飾がまぶしい玉座には、国王ニクラス1世がどっしりと構えていた。
その右横に宰相と思わしき老人が一人。さらに、両脇に側近の兵士が二名。
突然扉が開き、全員がガルシアの方を向く。
側近は剣を抜き構える。
宰相は怯えて玉座の後ろに隠れる。
しかし、国王は表情一つ変えなかった。
「よお、国王様!」
ガルシアがニクラス一世に向かってわざと”様”を付けて叫ぶ。
「お前、ガルシアか! 何しにここへ来た!」
と、側近二人が国王の前に立ち威圧するが、それをガルシアは意にも介さない。
「勇者になったんで国王様にご挨拶を……と思ってね」
ずかずかとガルシアは敷物の上を進む。ぴんと張っていたそれがぐしゃぐしゃになろうが知ったことではなかった。
そうして国王に対峙した。
いや、正確にはガルシアと国王の間に側近が二名いるのだが、その上から見下ろすような形で立っているので、彼の視界の中には国王しか入っていなかった。
ふっと国王ニクラス一世は笑い、言った。
「……三人とも席を外せ。私はこの勇者
まさかの発言に国王の後ろに隠れていた宰相が驚いた顔をして横槍を入れる。
「お待ちください! この者は極悪非道の大犯罪者ですぞ! そんなものと二人きりなど……!」
「はっはっは。ドーカスよ。ガルシアの左腕を見てみよ。勇者の腕輪を付けておる。彼もれっきとした勇者の一人ということだ。国王に牙をむくとは思えんよ」
国王の発言、表情からは余裕が感じられる。その言葉を聞いても宰相は気が気ではない様子だった。
「それに……」
国王はガルシアを見ながら続ける。
「私がこの者と戦ったとて負けるわけがなかろう。」
「ほおぅ?」
ギラリとガルシアも国王を睨み付けた。