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第16話

翌日。


「ん……ここは……」


 アーノルドが目を開けると、そこは建物の中だった。


 はっとして体を起こし、周りを見る。

 窓から心地よい朝日が入ってきて部屋は明るい。どうやら宿屋の一室らしい。 

 ベッドの脇のテーブルに自身のナイフと胸当てがある。リディアの剣も立てかけてある。……彼女はいないようだ。


 そして、自分がベッドに寝かされていることもわかった。ゆっくり体を動かそうとすると、右手の指先がチクリと痛んだ。


 ああ,そうか。西の森でラビティに指を噛まれたんだった。……そのまま倒れてしまったのか……。情けない。ということは、リディアがここまで運んでくれたということか……。彼女にも済まないことをしたな。


 アーノルドはゆっくりとベッドから降りて体を伸ばした。指以外に痛むところは特にない。何も問題はなさそうだった。


 扉の向こう、さらに下の方からガヤガヤと声が聞こえる。たくさんの人が階下にいるようだ。とそのとき、扉が開き食事を持ったリディアが部屋に入ってきた。


「あ、アーノルド様! やっと目が覚めましたね。よかったぁ」


 食事をテーブルに置いて、リディアが駆け寄る。


「お体は大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。迷惑をかけたね。」

 いえいえ、そんなこと! と笑顔でリディアが返事をする。


「この食事、アーノルド様のですからいつでも召し上がってください。私は先に下に降りてますね! ちょっとやらなければいけないことがありまして!」

 そう言って、リディアは階下へ降りていった。


 ぐう、とアーノルドのお腹の虫が鳴いた。そうか、昨日の昼から何も口にしていないんだった。


 食事を済ませてから、アーノルドも一階へと向かった。



「ですから、私たちも同行させていただけませんか?」


「はっはっは、俺たちと同じレベルになったらいいぜ!」


 階下では、リディアが屈強な勇者たちと話をしていた。そこにはこれから魔物討伐に出かけんとする戦士たちが十数名、食事をしたり、談笑したりしてくつろいでいた。当然の如く全員が勇者の腕輪を身につけている。


 二階から降りてきたアーノルドに部屋中の勇者たちが視線を向ける。


「おっ、王子様の登場だ!」

「女の子を連れて魔物退治なんて、いいご身分だなぁ!」

「嬢ちゃん、王子様と一緒じゃレベルは上がんねぇぜ! 俺たちのパーティに入んなよ!」


 一斉に勇者たちから嘲笑の声が上がる。そのうちの一人がニヤニヤとした表情でアーノルドに近づき、腕輪を掴みあげる。

 そして球体の中にある数字を覗き込んで言った。


「オイオイオイ、この勇者様はレベル0だぜ! つまりまだ一匹も魔物を殺していないってことだ!」


 またも勇者たちの笑い声が響く。


「ここら辺の魔物はほとんど狩り尽くしたからなぁ!!」

「最初から大物相手に勝負を挑んで、右手に大怪我をしたんだとよ!」

「がはははは!」


 あちらこちらでアーノルドを小馬鹿にした野次が飛び交う。



バン!



 リディアが両手で思いっきりテーブルを叩いた。


 瞬間、部屋中が静まり返る。

 そして、むっとした表情でリディアが勇者たちを睨みつけ、そのうちの一人に対して平手打ちを……しようとしたら他の勇者に腕を掴まれた。


「おっと、勇者同士の戦いは御法度なんだろ? あんたが教えてくれたことだぜ。」


「……っ!」


 何も言い返せずに掴まれた腕を振り解き、リディアはただ唇を噛み締める。部屋中に重い空気が漂う。


 しばらくして勇者の一人が声をあげた。


「……みんな行こうぜ。気持ちいい朝が台無しだ!」

 そうすると次々と声が上がってくる。


「魔物でも狩ってストレス発散といこうぜぇ!」

「オヤジィ! この料理みんな取っといてくれよ! また今日の夜お世話になるからよ!」

「王子様もレベル上げ、せいぜい頑張ってくれヨォ!」

「ま、最初はラビティとか狩るのがいいんじゃねぇの? もう絶滅したかもしれねぇけど!」

「ガハハハハ!」



 ぞろぞろと勇者たちは自分の装備を手に取ると,宿から出て行ってしまった。


「……」


 アーノルドはリディアになんと声をかけていいかわからなかった。自分の不甲斐なさのせいで、彼女に恥をかかせてしまったことを悔いた。


 するとリディアは両手を広げ、自分の頬を数回叩いて言った。


「あー悔しい! アーノルド様、絶対あいつらよりレベルを上げて魔王を倒しましょうね!」


「……ああ、そうだね」


 少し驚いたアーノルドだったが、リディアの言動に救われて笑顔がこぼれた。

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