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第13話

 西門を抜けしばらく道なりに進むと、深い森の入り口にやってきた。


 道は森の中へも続いている。この道を進み森を抜けるとイヴァル村へと着くのだが、大木が乱立しており昼間なのに森の奥は真っ暗で不気味な雰囲気を醸し出していた。体を震わせてアーノルドが言った。


「いかにも何かが出てきそうな森だね」


「そうですね。この道を使ってイヴァル村へ向かう人も今では皆無ですから」



 リディアはそう答えながら、先日勇者の間を訪れた少年のことを思い出した。

 あの子はこんな物騒な森を一人で歩いてきたのかしら。途中で魔物に遭遇してもおかしくない状況の中でよくやってこれたわね。宿に泊まって,装備を調えて……もしかしたらまたこの道を通ったかもしれない……などといろいろと思いを巡らせた。



「昼間の明るいところではあまり魔物は出てこないと聞いています。少し森の中に入りましょうか」

「そうしよう」


「アーノルド様、いつでも武器を出せるようにしておいてくださいね」

二人はそのまま道を進み,森の中に入っていった。


 森はしんと静まり返っていた。歩みを進めるたびにザッザッと靴が土を踏みしめる音がやけに響く。昼間だというのに木々に遮られて光があまり届かず、辺りは深い緑色の世界だった。



 足跡らしきものがほとんどない。ということはここに人も動物も足を踏み入れていないということか。

 しかし800人弱の勇者がいながらここに立ち入らないとはどういうことだろう? いかにも魔物がいそうな場所なのに……。


 アーノルドは地面を観察して、そんなことを考えながらリディアの後を追っていた。と思ったら、足元の小さい木の根っこに足を取られて派手に転んだ。


「アーノルド様!」

 リディアがはっと振り向いて叫ぶと、その声に反応して鳥たちが一斉に飛び立った。数十匹のバサバサっとした羽音が重なり、二人ともびくっと体を震わせた。



 そしてすぐに静寂が訪れる。森はまた落ち着きを取り戻した。


「お、お怪我はございませんか。」


 リディアは急いでアーノルドのもとへ駆け寄った。

「大丈夫。心配かけてすまないね。転んだことよりもそのあとの鳥の羽ばたく音にびっくりしてしまってね……。」


 少し恥ずかしそうに、ゆっくりとアーノルドは立ち上がった。服についた土やコケを手で軽く払う。


「……実は私も。これから魔物と戦うというのに、鳥の羽音ぐらいで驚いてしまって情けないです。」

「いやいや、今のは誰でもびっくりすると思……」


 と言いかけて、突然アーノルドがリディアを抱き寄せ近くの大木に身を隠すように移動した。


「きゃっ!」と声を出してリディアの頬が赤くなる。アーノルド様、こんなところで抱きしめてくださるなんて……「将来の王女様」……キャーあの子、なかなかいいこと言ってくれるじゃない! ……木の陰に隠れて何するのかしら、何するのかしら! と幸せ全開のリディアの耳元にアーノルドの口が近づく。



「リディア、少し後ろに何かいる。まだ気づかれていないようだ」



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