「アーノルド様いつもと違う格好をしてどこいくの?」
西門に向かい歩いていく二人に、やはり民衆が笑顔で声をかける。そんな中、一人の女の子がリディアとアーノルドの前にやってきてそう言った。
「やあノノン。元気そうだね」
アーノルドは膝をついて、女の子と同じ目線になって話を続ける。
「僕は今からサタンを倒すために旅に出るんだ」
「サタン? サタンは勇者様が倒してくれるんだよ。アーノルド様はそんなことしなくていいんだよ」
アーノルド様は国民一人一人の名前を憶えているのかしら。だとしたらすごい才能。慕われるのも当然だわ……リディアは二人の会話を話半分に聞きながらそんなことを考えていた。
「実はね、僕も勇者になったんだ。ほら,この腕輪が勇者の証なんだよ」
と言って、アーノルドが左手に着けた勇者の腕輪を見せた瞬間、ノノンの顔が曇った。
「アーノルド様が勇者? かけっこで私に負けるアーノルド様が!? 魔物なんかに勝てるわけないよ! 危ないからやめて!」
わあ、割とズバッと言うのね。私だって言葉を選んでしゃべってるのに、子どもって無邪気で時に残酷。こんなときってアーノルド様はどういう対応をするんだろう。
リディアはそんなことを思いながら興味深くアーノルドを観察した。
「ははは。確かに。僕はノノンにかなわないよ。でもね,僕一人でサタンを倒すわけじゃない。勇者はたくさんいるから、みんなで力を合わせて倒すんだよ。だからね、大丈夫。心配してくれてありがとう、ノノン」
優しいまなざしでノノンの頭を優しく撫でながらアーノルドは答えた。
ノノンはなんだか納得できないといった不満げな表情でアーノルドを見つめていたが、ふとリディアに視線が移る,
「……一緒にいるお姉ちゃんは誰? この人も勇者? それとも彼女?」
ぼっとリディアの顔が火が付いたように赤くなった。体中から一瞬にして汗が噴き出す。彼女!? か、彼女って恋人のこと!? だってまともに話をしたのも今日が初めてだし……まさかそんなことが? キャー!! と思ったのもつかの間,先ほどと変わらぬ優しい声でアーノルドが言った。
「彼女はリディア。城でも有数の実力者だよ。リディアも勇者になって私と一緒に旅をすることになったんだ。ノノン、僕だけでなくリディアも応援してくれるかい?」
ですよね。リディアの火照った体が一瞬で元に戻った。
「ふーん」
ノノンはじーっとリディアを眺めた。まるで品定めをするかのように、頭から足の先まで。
「うん、合格。お姉ちゃんのほうがアーノルド様より強そうだわ。どうか、アーノルド様にけががないようにお世話してあげてください」
ぺこりとノノンが頭を下げた。
合格……何が合格何だろうかと思いながらもリディアが言った。
「私に任せて。アーノルド様はしっかり守ってみせるわ」
「よろしくね,将来の王女様」
「なっ!」
再び顔が赤くなるリディアを見てくすっと笑い、ノノンは人込みへと消えていった。
もう、最近の子供は……! 熱くなった顔を手で仰いでいたらアーノルドが不思議そうに尋ねた。
「どうしたんだい、リディア? 顔が真っ赤だよ」
「ひゃっ! な、なんでもありません! さ、さあ先を急ぎましょう。西門まではもうすぐです!」
リディアは顔を見られないように、急ぎ足で城門へ向かった。