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第10話

勇者が誕生してからというもの、街の武器屋は大繁盛であった。


 大繁盛と言っても、勇者には格安で武器や防具を提供するので儲け自体は少なかった。しかしその分、城から補助金が支給されるので武器屋としても積極的に商売を行なっていた。


 そうすると武器や防具を作る鍛冶屋も仕事が増える。材料となる鉱石も価格が上がり、鉱石を採掘するものたちも増える。勇者制度が始まってから街は再び活気付いてきた。


「いらっしゃい、ってアーノルド様? うちに何の御用で?」


「やあパトリック。実は僕も勇者となって魔物退治に行くことになってね。必要な武器と防具を揃えにきたんだ」


 勇者と聞いて、パトリックと呼ばれた武器屋の主人は目を丸くした。が、アーノルドの左腕に付けられた腕輪を見て冗談ではないと悟った。


「お連れの方は?」


「彼女はリディア。同じく勇者になったんだ。城でも相当の実力者だったんだよ」


「じゃあ心配ないですね、アーノルド様一人じゃ国民みんな心配して夜も寝られませんよ!」


「ありがとうパトリック。早速武器と防具を見せてくれるかな」


 アーノルド様。確かに私は一通りの剣術を習い試験にも合格して兵士になりましたが、城では悪人を捕まえる仕事しかしていませんし、実戦経験は数えるくらいしかないんです……なんて言えるわけもなく、リディアは笑顔で軽く会釈した。


「勇者の腕輪をしておられますから特別価格で。しかもアーノルド様ですからさらに格安でお売りいたしますよ。これなんかどうです? フン火山でしか手に入らない鉱石を使った、最高級品の炎の剣です」


 そう言って、主人は壁に飾ってあった光輝く一番大きな剣をアーノルドに手渡した。


「お、これは素晴らし……おっとっと……」

 柄を握った瞬間、アーノルドはバランスを崩し右へ左へふらふらと揺れ動いた。


「アーノルド様、危ない!」


 すかさずリディアがアーノルドを支え、代わりに剣を掴んだ。あと数秒遅かったらどうなっていたことか。三人ともほっと安堵の息を漏らした。


「うーん、僕には重すぎて扱えないみたいだ。もっと軽い武器はないかな」


「軽い武器……ですか。これはいかがでしょう」と、主人は壁に飾ってある武器の中から細身で長めの剣を選んだ。


「軽いので攻撃力が低いですが、その分盾をそ……」

「いいね、これなら何とか持てそうだ」


 アーノルドはでその剣を持ち、振って見せた。その腕がプルプル震えているのをリディアは見逃さなかった。


「ア……アーノルド様、防具から選ばれませんか」


 リディアはアーノルドから剣を預かり主人に返した。「王子にはもっと軽い武器を!」と目で合図を送ると、相手もそれを理解してくれたようだった。


「防具といえば最近勇者様がよく買われていくのがこちらです」


 パトリックは店の窓際に置いてある鋼鉄の鎧を勧めてきた。


「試着されてみませんか?」と言ってから、彼はリディアからの視線に気がついた。「だから、王子にはもっと軽いものをって言ってるでしょ!」という無言の圧力が伝わってきた。


「い……いや、アーノルド様にはこちらが動きやすくて良いかと」


 皮の胸当て。心臓を守るための薄い一枚皮の防具で、無いよりはましと言える代物。パトリックが手渡すとアーノルドは今着ている服の上から胸当てを取り付けてみた。


「うん、動きやすくて良さそうだ。これにするよ。いくらかな?」


「これはお代は入りませんよ。私からの気持ちとでも思ってください。あとはこちらを」


 小型のナイフ。魔物を倒すというより護身用ともいうべき物を、アーノルドのベルトに取り付けた。



「アーノルド様。国民はみな、貴方様の無事をお祈り申し上げます。決して無理をなさらず魔物退治を行われてください。リディア殿、どうかよろしくお願いいたします」

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