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第50話 うまくいかない

「シャール様!お手紙が届きましたよ!」


「ありがとう戻るよ!ほらミルキー行こう」


 シャールは集めた薬草をカゴに入れて立ち上がる。

一ヶ月の休暇を終えて王都に戻ったアルジャーノンから預かった猫が可愛らしく足元にじゃれついていた。


「さあおいで」


シャールが呼びかけるとミルキーは「にゃん」と可愛らしく鳴いて後をついて走り出す。


途中、ベンチで日向ぼっこをしていたゴートロートがシャールの駆け足を見て何事かと目を丸くしていた。


「シャールなにかあったのか?」


「いえ!アルジャーノンから手紙が来たって知らせを貰ったんです!」


「ああ、そういうことか。けれどまだ走るのは良くないから転ばないように気をつけなさい」


「はあい!」


そう言われて速度は落としたものの、気が急いて妙な歩き方になっている姿を見てゴートロートは口を開けて大笑いをした。


「旦那様がそんな風にお笑いになるのは珍しいですね」


花の手入れをしていた庭師のヤンがつられて笑うと、側についていた侍女や窓を拭いているメイドまで楽しそうに笑う。

ゴートロートは使用人を大事にするので元々城の雰囲気は悪くはなかったが、シャールが来てからは花が咲いたように明るくなり、より一層働きやすく楽しい場所になったと皆は思っていた。


「はい、シャール様こちらですよ」


「ありがとうマロルー。貰っていくね」


「はいはい、お部屋でこっそり読まれるんですよね。分かってますよ」


 マロルーの言葉に頬を赤らめるシャールは最近ますます美しくなったと城内でも評判だ。


「薬草はそのままにしておいて後で仕分けするから」


「承知しました」


 シャールはミルキーと部屋に駆け込むと、ペーパーナイフで綺麗に手紙の封を開けた。そしてそっと中の便箋を取り出す。


 その途端にふわっと香るアルジャーノンの匂い。シャールはこの匂いが大好きだ。


 ベータでも相性のいい匂いってあるんだなあ。……ただ単にアルジャーノンが好きだからかもしれないけど。


 考えるだけで恥ずかしくなって来たので深呼吸して気持ちを落ち着かせてから手紙を読み始める。そこには皇室での出来事や普段の練習の話なんかが日記のように事細かに書いてあった

 そして花が咲いただとか雪が降ったとか、いつかシャールに見せたいと言うようなことまで。


「本当に素敵なんだから。アルジャーノンは」


 たんっと机に乗ったミルキーは手紙の匂いをふんふん嗅ぐ。


「ミルキーにもアルジャーノンの匂いが分かるんだね」


シャールはミルキーにも手紙を見せてやり、早く会いたいねと話しかけた。

 まだ半年。後一年半もこんな毎日が続くのかと思うと胸が塞がれるが、こうして三日と空けず便りをくれるので耐えていられる。


「じゃあ早速返事を書こうかな」


 シャールはとっておきの便箋を取り出し、丁寧に文字をしたためた。






「ルーカ様、お薬の時間です」


「……いらない」


「……そうですか。ではここに置いておきますので気が向いたら飲んでください」


 侍女は冷たい声でそれだけ言うとドアを閉めて行ってしまった。


 ルーカは涙で汚れた顔を擦ってベッドから体を起こす。


 「どうして?どうしてまた死んじゃったの?」


 半年前とまったく同じ。神官が子供の様子を見るなり首を振り、子供は死んでいると言った。


 そんな体質の人もいるからと医者は言うが、オメガは基本的に安産だ。

 それなのに二度も死んでしまうなんて自分には何か欠陥があるのだろうかとルーカはまた涙を流した。


 こんな時でもセスは様子も見に来ない。メイド達が噂していた新しい恋人の話は本当だったのかもしれないとルーカは苛立つ。


「なんで?僕のところに来る時は嫌々なのに。恋人って何?どこの誰?僕はセスのなんなの……」


 子供が無事に産まれたら結婚してやると言われて二度目の死産。そのうちまた嫌そうな顔をしたセスが子供を孕ませるためだけにやって来るはず。


「もう嫌だ……」


 処理をしたあとのお腹はいつまでも痛み、ご飯どころかスープさえ飲み込めない。

 ましてやここにルーカの味方は誰一人おらず、水を飲むだけでも一人で寒い厨房まで降りて行かねばならないのだ。


「帰りたいよ。もうここは嫌……。誰か助けて……デモン、アーリー、お父様……リリーナお母様……」




 シャールが死んだ後、彼に毒を盛ったとアルバトロスに責められルーカは公爵邸を追い出された。あの優しいリリーナもアルバトロスに禁じられてでもいるのか面会を申し込んでもそつのない断りの返事が来るばかりだ。


「毒を盛ったのはアミルだ。僕はそれを渡しただけで実際に使ったのはアミルなのに、どうして僕が追い出されるの?リリーナ様は僕の母上だって言ったじゃない。どうしてこんなに冷たくするの」


優しくて扱いやすく思い通りになるリリーナが大好きだったのに……。


 ぐるぐると何度考えてもルーカは自分が悪いとは思えない。


「だってシャールは恵まれてた。シャールがいる限り自分は一番にはなれない。自分が幸せになるために他人を蹴落とすのは普通のことじゃないの?それなのにみんなおかしいよ…………」




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