目次
ブックマーク
応援する
11
コメント
シェア
通報
第45話 再会

「それはありがたいです。でもその前に叔父上のお好きな酒を持って来たので乾杯といきましょう」


「おお、それは楽しみだ」


 二人はにこやかに握手を交わしながらテーブルについた。


「それでこれからの事なんですが……」


「……ああ、その前に聞きたい。わたしの昔馴染みがおかしな事を言っていてな。ミッドフォード公爵家のオメガ姫であるシャールは、半年前に亡くなったと言うんだよ。どういうことかな」


 アルバトロスは黙り込む。


「心配ない。事情を聞いたとて私が狙われることはない。分かっているだろう?こんな老いぼれでも敵を排除する力くらいはあるんだからな」


アルバトロスは苦笑してもう一度頭を下げる。


「なんの事情も聞かずシャールをかくまい、また命を助けて下さりありがとうございました。すべてお話しいたします」


 そして、明日をもしれぬ身のシャールを城に連れて来いと皇室から命令が下ったこと、毎日のように城から使者が来て危うくあんな状態のシャールを攫われそうになったこと。そこにきての毒殺未遂と暗殺騒ぎ。このままではシャールは本当に死んでしまう。そう考えてシャールを逃がそうと亡くなったことにして城に偽の訃報を送ったことまですべてを話した。


「なんと、そんなことが!あの子は何もしとらんのに」


 気難しいが善人のゴートロートは怒りに震えてグラスを傾けた。


「はい、なんの落ち度もない子です。できれば幸せになってほしいのです」


「だが、死んだと言ったからにはもう王都には戻れんだろう」


「……そうですね。どこかでひっそりと暮らすか……いや、あの子次第です」


「そうだな」


 ずっと交流の途絶えていた二人がこうしてグラスを合わせるようになったのもシャールのお陰だ。ゴートロートは皇室にも縁があり、滅多に姿を見せなくなった今でもその影響力は計り知れない。

 そんな人がシャールを気に入って後ろ盾になってくれればシャールの立場は更に安定するだろう。

 ……シャールが王都に帰りたいと言えばの話だが。

 まだまだ考えることは山積みだがシャールの体が癒えるまでは動きようがない。


 アルバトロスに出来るのは、いつかシャールがどのようにしたいかを決めた時、精一杯力になってやれるように基盤を固めることだけなのだ。




 アルバトロスとゴートロートが二人で話を始めたので、別のテーブルでシャールとマロルー、それにアミルが女子トークを繰り広げていた。


「シャール様、見違えるくらいお元気になられて!マロルーは安心しました」


「大袈裟だなー。マロルーもアミルも元気そうでよかった。ところで他のみんなは変わりない?」


 あの事件があってからすでに半年以上が経っていた。その間ずっとシャールはここで体を癒すことだけを考えて暮らしていたのでまるで浦島状態だ。現在の都の様子を知りたいと言うのも今日二人に会いたかった理由の一つだった。


「そう言えばルーカはどうしてるの?」


「ルーカ様は公爵邸を追い出されてセス様とお城に住んでおられます」


「えっ?!僕に何かあったらアーシャ姫が皇太子妃になるはずじゃ……」


「ルーカ様のお腹に皇太子殿下のお子ができたんですよ。まったくシャール様が亡くなったと知らされてまだ日も浅いのに。殿下を見損ないました!」


 アミルがぷんぷん怒りながらそう言った。……彼女はシャールが意識不明の時にルーカから毒を渡されたとアルバトロスに密告してくれた人だ。怒ったアルバトロスはルーカを実家に送り返したと聞いたけど、それが悪かったのだろうか。

 バリアン男爵家ではルーカを諌める人はいない。むしろこの機会に皇太子妃の座にルーカを座らせようとする者ばかりなのだから。


「それにしても、もう子供ができたのか……」


流石に早いなとシャールは呆れる。


「あと半年ほどでお生まれになるそうです」


「ええ?」


 それなら本当にシャールがいなくなってすぐ出来たと言う事だ。

もしかしていなくなる前から……?と勘ぐってしまうようなタイミングだが……。 


(やっぱり信用しないでよかった。今生は違うかと思ったけどやっぱりクズはクズじゃないか)


 でもそうなるともうルーカにはヒートが来たと言う事だ。オメガはヒートが来ないと妊娠しない。まあ年齢的にもそろそろ来てもおかしくないが、シャールは大怪我の影響か、まだその兆しはなかった。


(ヒートなんて来たらそれはそれで大変だもんね。遅いに越したことはないよ。結婚相手が決まってるわけでもないし)


 そんなことよりもっと考えないといけないことがある。

 シャールはもう死んだことになっている。それはつまりこの先の人生は自分で探していかないといけないということだ。

 名前を変えて好きな人と出会い、愛し愛されて一生を添い遂げる。そんな夢みたいなことだって、実現するかもしれない。


 そう考えた時、シャールの胸をよぎったのはアルジャーノンのことだった。


(な、何考えてるんだよ!あの人にそんな感情はないんだから)


 それに自分はもう王都には戻れない。二度と会うこともないだろう。


 寂しいけど仕方がない。遠くから幸せを祈ろう。シャールは胸の痛みを堪えながらそう考えていた。


 それなのに……。




「え……まさか……アルジャーノン?本物なの?」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?