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第40話 抗えない運命

次の日もルーカはいつのまにか城に来ていた。

見つけたシャールは彼をすぐさま叩き出そうとしたが、ルーカは招待されたと言い張る。


「誰にだよ」


「皇后陛下だよ!凄いでしょ」


そういえば……お茶会の時、トムズが皇后の側近になったとか何とか……。

さてはその伝手か。


「だから今日は皇后陛下とお茶を飲むんだ。いいでしょう」


「あーはいはい。行儀悪すぎて追い出されないようにね」


「ふん。皇后陛下はそんな冷たい人じゃないんだから」


ぷんぷん怒りながらルーカは皇后宮へと姿を消す。


「類は友を呼ぶってほんと名言」


邪魔者がいなくなったのでミルキーに会いに行こう。そう気分を切り替えて回廊を歩く。


(そろそろミルキーはお魚とか食べられるんじゃないかな。他の食べ物もあげていいかアルジャーノンに聞いてみよう)


最近シャールがご飯をあげ過ぎているからか、お腹がぽっこりと膨らんでいてそれが更に可愛さを倍増させている。

それでもヤンチャ盛りなので庭中を走り回るため、手足はすんなりと細く伸び順調に成長していると実感できた。


「シャール!」


「……殿下」


嫌なタイミングで会っちゃったな。シャールはどうにかそれを顔には出さず堪える。


「今日はルーカもいないし街へ降りてみないか?行きたいところがあるんだ」


「えっ、またお忍びですか?」


セスはシャールの質問には答えずおおらかに笑った。


(まったく、いい迷惑だな……)


やんわりと他の遊びを提案したが聞き入れてもらえず、結局護衛を付けることを条件に街歩きをすることになる。


(襲撃事件まであと二年。それまでにこの放浪癖を治さないと。セスのために一生消えない傷を負わされるなんでごめんだ。ましてやその傷が原因で結局断罪に発展するんだから)


セスの心が離れるのはもういい。それは万々歳だ。

でもそれを彼を庇って出来た傷のせいにされるなんて自分が可哀想すぎる。


「では馬車で待ち合わせよう」


「……はい」


シャールは、平民の服に着替えるためセス付きの侍女と共に衣装部屋に向かった。




「お待たせしました」


目立たないよう裏庭に停められた質素な馬車の前にセスは立っていた。

白いシャツと茶色のスラックス。帽子を目深に被ってはいるが金の髪が艶々と輝いているので見る人の目を欺けているのかは微妙だ。


「そんな服もよく似合うな」


「恐れ入ります」


シャールは焦茶のワンピースに頭から黒いフードのついたマントをすっぽり被っている。

だがスカートが膝丈までしかないので恥ずかしいし心許ない。


(平民はよくこんな防御力の低い服で街を歩けるな。とにかくさっさと行ってさっさと帰ってこよう)


心を決めたシャールはセスと共に馬車に乗り込み街を目指した。



「殿下、護衛は?」


「後ろの馬車だ」


(良かった。ちゃんと約束は守ってくれた)


「本日はどちらまで行かれるご予定ですか?」


ひとまずさっさと行きたいところとやらに行ってもらおう。そう思って訊ねるが、セスは内緒だと笑うばかりだ。


シャールはその場所がなるべく近くにありますようにと懸命に祈った。



一時間ほど走り続けた馬車は小高い丘の上で止まった。


「さあおいで」


そう言ってシャールの手を取ったセスは広い野原を手を繋いだまま歩いていく。


そろそろ足が疲れてきた頃にようやく目的地に着いた。



そこは町が一望できる場所だった。

建物や流れる川が小さく見えてまるでおもちゃのようだ。


「どうだ?素晴らしい眺めだろう?」


「はい。素敵です」


シャールの言葉が本心だと分かったのかセスは得意そうに笑った。


「この森はきのこや木の実も多くて小さな生き物が沢山いるんだ」


「小さな生き物?」


「ああ、リスやウサギ、たまに狸もいる」


「すごい!」


それは是非会ってみたい。今度サラと来よう……そう思いかけて彼女が狩が好きだったことを思い出す。

やっぱりサラには絶対内緒にしよう。そう思いつつ方々を見て回っていると早速リスが木の実を食べてるところに遭遇した。 


「可愛い!あっ!逃げた」


「よし追いかけよう」


「えっ?」


あまり森深くに入ってしまうのは危険なのでは?そう言おうとしたが時すでに遅し。小さくなっていくセスの背中を慌てて追いかける。


「セス!」


大きな声を出すがセスは止まらない。


(どうして僕の周りはこんな人ばっかりなんだ!)


シャールは息を切らせて走り続けた。


「わああ!!」


(えっ?誰の声?)


突如響き渡った叫び声に足を止めると、前からセスが走って戻ってきた。


「殿下!なにか……えっ?!」


セスの後ろに見えるのはまごうかたなき魔獣。

熊のような見た目で全身黒い被毛に覆われ、耳まで裂けた口から大きな牙が見えている。


「逃げろ!シャール!」


そう言われてもセスの二倍はありそうな背丈の魔獣を見たのは初めてで、足がすくんで動けない。

セスはすれ違いざま、シャールの腕を掴み一緒に走った。


「あっ!」


けれど不安定な足場でセスが木の根に躓き二人は転倒した。

目の前に迫る魔獣は大きな口から長い舌を出して二人に襲いかかる。伸ばした腕らしきものには鋭い爪が付いていた。


「うわああ!!」 


咄嗟にセスはシャールを魔獣の前に押し出す。


「えっ?」


無防備に魔獣の目の前に晒されたシャール目掛けて獣は爪を振り下ろした。


「うぐっ!!!」


目の前に迸る真っ赤な血。

声も出せない衝撃にシャールは倒れ伏す。

一拍遅れて激しい痛みが全身を襲い、シャールは死を覚悟した。


(やっぱりこうなってしまうんだな)


前生暴漢に刀で切り付けられた時もセスはシャールを盾にした。けれど当時のシャールはそのまま身体を張ってセスを守ったのだ。


……だって彼を愛していたから……


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