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第13話 ミッドフォード領地の秘密

 見つかれば問題なく罪に問えるが、別のところに隠している可能性もあった。もし屋敷を家探ししても見つけることが出来なければミッドフォード家の立場が悪くなるのだ。

 その時の保険の意味も含めてシャールは事前にセスに話をして内密に協力を仰いでいた。



「シャール様!!お怪我は?!」


 マロルーがシャールに駆け寄り、その手を取って泣き出した。


「大丈夫だよマロルー、驚かせてごめんね」


「いえ!助けて下さりありがとうございました」


「こっちこそ僕を信じてくれてありがとう」


(ようやく終わった。けれどまだ一つ目だ)


 それでも過去を変えられた。今のシャールにとってその事実は何より大きいものだった。






 翌日、アルバトロスとシャールは、朝からリリーナの大層なお叱りを受ける羽目になった。


 危ない目に遭わせるわけにはいかないと、事前に彼女には何の説明もせず、知り合いの侯爵夫人のパーティに送り出していたのがバレたのだ。



「帰って来てどれだけ驚いたか分かる?」


「本当にすまなかった」


「母上、ごめんなさい」



「それにしてもネックレスを盗むなんて。全くあの子たちったら。そんなに欲しかったのなら買ってあげたのに。それにしてもどうして男の子なのにあんなものが欲しかったのかしら?」


 的外れなリリーナの言葉にシャールは苦笑いをする。あの二人が企んでいた悪事を全部話して聞かせたら彼女は卒倒するだろう。


「お兄さんが二人とも騎士団に捕まっちゃったらルーカが可哀想ね?あの子はどうしてるの?」


「それが……」


 ことがすべて終わり、執事を含めた三人が騎士団に連行されるのをルーカは柱の影から見ていた。

 大好きな兄たちがあんな目に遭っているのに、彼の目にあったのは驚きや悲しみではなく怒りだったことにシャールは気付いている。


(まだ幼くてもルーカはルーカなんだ)


 貪欲で自分の思い通りにならないと気が済まない。その性格はこの時点で既に出来上がっていたようだ。



 それにしてもこの件に執事が噛んでいたのは驚きだった。

 あんなにずっとアルバトロスの一番側にいたのに。


 一通りリリーナのお説教が終わり、シャールはアルバトロスと二人広間に取り残されている。


「……父上」


「なんだ」


「その……僕の言うことを信じて下さりありがとうございました」


 自分の甥が犯人だなんて言われたら普通は怒るはずなのに、シャールを信じてその計画を聞き、力を貸してくれた。

 過去ではこんなこと無かったのだ。


「いや、お前のおかげで私も決心がついたんだ」


 ……スティーブの事だろうか。

 鋼鉄の公爵と言われているアルバトロスだが、一度懐に入れた相手はとことん大事にする気質だ。ずっと一人で悩んでいたに違いない。


「あの……スティーブのことは」


「問題ない。きちんと罪を償わせる」


「そうじゃなくて……」


 もっと弱音を吐いてほしい。そう思うシャールだが、きっとまだ自分では力が足りない。


「シャール」


「はい」


「人は小さなきっかけで変わっていくんだ。良い方にも悪い方にも」


「……はい」


それはセスもだろうか。

今の時点では文句なしの彼へ、シャールは思いを馳せた。








 ネックレス事件が解決して以降、シャールは毎日平和に暮らしていた。


 なんせ、事あるごとにシャールに突っかかっていた従兄弟たちがいないのだ。

 これを平和と言わずしてなんと言おう。


 彼らは処分が確定するまで貴族用の牢獄で過ごしているらしい。

 だがいくら貴族用とはいえ、それほど恵まれた場所ではないと聞いている。

 不自由さに歯痒い思いをしているかと思うだけでシャールは笑いが込み上げた。


(あいつらには皇后になってからも付き纏われて嫌がらせをされたもんな……)


 これからも未来は変わって行く。

 いや、変えてみせると、改めて決意した。







 部屋に戻り、一人になったシャールは宝石箱に入っている一枚の紙を取り出した。

 そしてそれを机の上に広げる。

 過去に戻って来た時に、これから起こるであろう出来事を書き留めた大切な物だ。


 それを眺めながら今後自分がどうすべきかを考えた。


 一つ目のネックレスは盗まれずに済んだ。つまり、公爵家の領地は一ミリ足りとも減らずに済んだのだ。

 実はどうしてもネックレスを守りたかった本当の理由はそこにある。

 責任を取らされ、国に返納したミッドフォード公爵家の領地の一部。

 そこにはなんと貴重な宝石が取れる鉱山が眠っていたのだ。


 領地が皇室のものになってから偶然見つかったその鉱山のお陰で、皇太后やセスはさらに力をつけた。

 まさに暴君と呼ばれるような政治を強いても、他の貴族が一切口を出せないくらいに。


(けれど今回あの宝石はうちのものになる)


 万が一にも過去が繰り返されて、公爵家の家門が取り潰しの危険に晒されることがあったとしても、それに対抗できるくらいの力をつけておきたい。

 その為にはあの鉱山はどうしても公爵家側に必要不可欠な物だった。


「場所はどのあたりだったかな。記憶を頼りに地図を描いておこう」


 そう言いながらシャールはサラサラと紙の上にペンを走らせる。


 森の奥深くで、一見小高い丘のような小さい山だ。今まで見逃されてきたのも頷ける。


「でも問題はどうやって鉱山の在処を父上に知らせるかなんだよね」


 前回は偶然山火事が起こったことにより、周りの木々が燃え、そのおかげで山肌が露出して鉱山が発見された。


「流石に山に火を放つわけにもいかないよな。夢で見た?……いや、信じてもらえないな。それで本当に鉱山が見つかれば予知夢を見た神の子として神殿から余計な干渉を受ける可能性もあるし……」


 ……民の暮らす市井の中心地にある神殿は、貴族のみならず平民にも広く門徒を広げる信仰の象徴だ。

 ただ、皇室にとって神殿はさらに特別大きな意味を持つ。


 アルファは、オメガのように特別な印を持って産まれてくる訳ではない。

 皇室でアルファと番ったオメガの腹から生まれた子どもは例外なく神殿で自身の第二性、つまりアルファかそうではないかを、大神官の神託によって明らかにしてもらうのだ。

 その為に皇室は毎年かなりの予算を神殿に寄付している。結びつきが強いのは致し方ないと言うわけだ。



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