目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第13話

「……あれは、紙魚しみかもしれない」


 律は、廊下を足早に歩きながら言った。


「しみ? しみってあの、服の汚れとか醤油をこぼしたときとかにつく、しみ?」

「そのしみじゃなくて、虫のこと。三億年前から存在している原始的な虫で、体色が銀色にも見える紙を好んで食べる虫」


 幾分か饒舌じょうぜつになった律の説明を、花音は感心しながら聞く。


「そんな虫がいるんだねえ。でも、それがどうかしたの?」

「あれが矢印だとしたら、その方角には図書館があるんだ。紙魚って、本の間にいるっていうし。だとしたら、あれも花音の探してる暗号の一つかもしれない」

「えっ、うそ!?」


 そのとき、またチャイムが鳴った。今度は昼休みの時報だろう。それを聞いて、前を歩いていた律がくるりと回れ右をした。


「えっ、律?」

「やっぱり、図書室は後にする。休憩時間は混むから。先に音楽室に行く」

「えっ!? ちょ、律、待って―!」


 いきなりの方向転換にブレーキが間に合わず、花音は転がるようにして律を追ったのだった。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?