「……あれは、
律は、廊下を足早に歩きながら言った。
「しみ? しみってあの、服の汚れとか醤油をこぼしたときとかにつく、しみ?」
「そのしみじゃなくて、虫のこと。三億年前から存在している原始的な虫で、体色が銀色にも見える紙を好んで食べる虫」
幾分か
「そんな虫がいるんだねえ。でも、それがどうかしたの?」
「あれが矢印だとしたら、その方角には図書館があるんだ。紙魚って、本の間にいるっていうし。だとしたら、あれも花音の探してる暗号の一つかもしれない」
「えっ、うそ!?」
そのとき、またチャイムが鳴った。今度は昼休みの時報だろう。それを聞いて、前を歩いていた律がくるりと回れ右をした。
「えっ、律?」
「やっぱり、図書室は後にする。休憩時間は混むから。先に音楽室に行く」
「えっ!? ちょ、律、待って―!」
いきなりの方向転換にブレーキが間に合わず、花音は転がるようにして律を追ったのだった。