行き交う人々は思い思いに買い物をしたりおしゃべりをしたりしているだけで、残りの時間も何事もなく過ぎていく。その間、亜樹先輩は何か言いかけては口を閉じ、再度決心しては口を開いてまた閉じるという仕草を繰り返していて、やけに落ち着きがなかった。
そろそろ三十分、という時、今度こそ意を決したのか、先輩が声を発した。
「と、ところで、女の子って、どういうのが好きかな!?」
「……は?」
あまりにも突拍子のない質問に、声から礼儀が剥がれ落ちた。
先輩は目の前のやたらピンクなキラキラした空間を指さしているが、突然すぎて意図がわからない。
「いや、あの、せっかくこういう場所にいるんだし、将来のためにリサーチしておこうかと思って……っ。どういう物をもらったら、女の子は嬉しいのかな!? 例えば、三澄さんだったら!」
「はあ……」
なるほど。恋人へのプレゼントでも物色するつもりなのか。不真面目にも程がある。
だがまあ、もう少しで予定の時間も終わりだ。他愛のない雑談に少しくらい付き合ってもいいだろう。
「私の意見はあまり参考にならないと思います。むしろ、その彼女さんの趣味を教えていただいた方が、的確な助言ができるかと」
「えっ、か、彼女!?」
亜樹先輩は目を白黒にして動揺した。
「や、違……っ! 彼女なんていないから! ただ、俺は今後のためにと……!」
「? 別に隠されなくても結構ですよ。言いふらしたりはしませんし。用途はなんですか? 誕生日プレゼントとか、何かのお詫び……、ああ、もしかして、付き合って一年目の記念日とか」
「いや、だから、いないんだって! ……わ、わかった。じゃあ、妹とか! 一つ下くらいの妹に贈るとしたら、何がいいだろう!?」
「ああ、妹さんがいらっしゃるんですか。なら、その方に直接、何が欲しいか聞いてみるのがよろしいのでは?」
そう言うと、亜樹先輩は視線を落としてつぶやいた。
「いや……、妹は、いないんだけど……」
「……さっきから、先輩は何をおっしゃっているんですか……?」
私は呆れて彼をまじまじと見つめた。
理知的な顔立ちをしているが、実はおつむが弱いのだろうか。
あまりにじっくり見つめすぎたせいか、先輩がどんどんうつむいていく。
「ごめん……、さっき言ったこと、全部忘れてください……」
「あら、よろしいのですか? 想像上の妹さんにプレゼントを買わなくても」
「それは言葉の
気がついたら時間が過ぎていた。先輩が何をしたかったのかは不明だが、とりあえず今日のノルマは達成した。
報告は先輩が後でまとめてすると言っていたので解散しようとしたとき、先輩のスマホが着信音を鳴らした。
「あれ? 一城からだ」
私はなんとなく嫌な予感がした。