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第6話

「鈴城……?」


 私は思わずつぶやいた。バスケ部部長と同じ名字だ。珍しい名字だし、顔や雰囲気は似ていないが、無関係とは思えない。


「単刀直入にお聞きしますが、あの鈴城先輩とは何か関係が?」

「あの鈴城先輩……ね」


 彼は複雑そうな表情で微笑した。遅ればせながら、自分の失言を悟る。


「すみません。失礼な言い方をしてしまいました」

「いや、いいんだ。たぶんみんなそう思ってるだろうしね」


 彼は自嘲じみた笑い方をして、続けた。


「俺とあいつは双子だよ。数分の差で俺が兄だけど。二卵性だから似てないんだ」


(……双子、ですって?)


 私は眉をひそめる。

 鈴城先輩が双子だなんて話、聞いたことがない。バスケ部は私の担当ではなかったから今回特別に調べたりはしていないが、あれほど有名な人に兄弟がいたら、さすがに私の耳にも入っているはずだ。


「信じられないって顔してるね。俺、目立たないからさ」

「目立たない……なんてことは、ないと思いますが」


 鈴城亜樹先輩を、正面から観察する。


 バスケ部部長の葉琉はる先輩と違い、顔のつくりはどちらかといえば女性的だし、精悍せいかんというよりは文学青年っぽい外見をしている。共通点があるとしたら背の高さくらいか。

 だが、目立たないという評価には疑問を抱く。


 月並みな例えだが、葉琉先輩が太陽だとすれば、亜樹先輩は月といった印象だ。たしかにパッと目を惹くタイプではないが、姿勢が良く無駄のない身のこなしに、すでに何人かが振り返っている。

 そう言うと、亜樹先輩は頬を赤らめた。


「え、あ、ほんと……? そう言ってもらえると嬉しいけど……」

「鈴城先輩……いえ、葉琉先輩とはあまり一緒にいらっしゃらないんですか?」

「あー……。まあ、あいつとは、部活もクラスも違うしね。でも、文化祭とか、一緒にまわったりもしたよ」

「……そうですか」


 あまりに似ていないため正体を疑ってしまったが、腕章と資料を持っているのだし、会長から打診があったことに間違いはないだろう。そこさえわかれば、この際彼がどこの誰だろうと構わない。

 私はシワのついたプリントを伸ばして、地図の右脇に書かれた注意事項を確認した。


「毎日場所が変わるんですか。今日は……この雑貨屋の前で三十分」


 亜樹先輩も隣からのぞき込み、口元に手を当てる。


「うん。開始時間からというよりは、着いてから三十分っていうことみたいだ。でも、不思議なんだけど、ただ同じ場所に立ってるだけでいいのかな? 巡回って普通、歩きまわったりするよね。まあ、この辺あんまり知らないから、俺にとってはその方がありがたいんだけど」

「……おそらくここが、ホットスポットということでしょう」


 首をかしげた彼にわかるよう、私は説明する。


「ホットスポットとは、犯罪多発地点のことです。手当たり次第にうろつきまわるより、そういった場所に一定時間とどまる方が、防犯効果が高いと言われています。犯罪を計画している者が、その内容がばれていると勘違いするせいではないかということのようですね」

「へえ……、そうなんだ」


 心底感心したように亜樹先輩が息をついた。


「すごいね、三澄さん。そんなこと知ってるんだ」

「ちゃんとした説明は受けていないので憶測ですが。三十分は、少し長いような気もしますし。先輩は、この件について何か聞かされていないんですか?」

「え? ……うん」

「何もですか? 会長から頼まれたんですよね?」

「そ、そうなんだけど……」


 責めたわけではないのだが、彼が傷ついたように眉を下げた。まさか、本当に何の説明も受けていないのか。

 さすがに彼に同情する。三年生は、部活動によっては、引退して受験に専念する頃だというのに。

 もしかして、会長に弱みでも握られて、無理強いさせられているのだろうか。


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